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Shinobu's theatre review
しのぶの演劇レビュー
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2011年09月22日

ホリプロ『ミュージカル「スリル・ミー」Bキャスト』09/17-10/03アトリエフォンテーヌ

 ミュージカル『スリル・ミー』Aキャストに続いてBキャストへ。松下洸平さん柿澤勇人さんも私は初めて拝見したのですが・・・素晴らしかった!!Bキャストを観るまでこのミュージカルの面白さを全然わかってなかった私!って思ったぐらい!!!

 19歳の若い少年2人がなぜ凶悪犯罪を犯したのか。その謎がすっきり解けた気分です。若いからこその、純愛の物語なのだと思いました。

 チケットはおそらく完売かと思います(調べてません)。当日券狙いでどちらか迷ってらっしゃる方には、私個人としてはBキャストがお薦め。すでにAキャストをご覧になった方はBキャストもぜひ!

 ⇒CoRich舞台芸術!『ミュージカル「スリル・ミー」

 あらすじなどはAキャストのレビューでどうぞ。

 レイも“彼”も、舞台上で命を生き生きと燃やして、追い詰められて必死でもがいているように感じられました。19歳の時に犯した殺人罪。彼らはそうするしかなかったのだと、納得できました。若者は「今じゃなきゃだめだ」「コレじゃなきゃだめだ」って、強く信じてしまうものなんですよね。
 ずーっとヒリヒリ、じりじりとして、目が離せなかったです。背もたれにダラっともたれていられないというか、気持ちがはりつめたままの、刺激的で濃密な、贅沢な1時間45分でした。

 登場するのが2人だけ(+ピアノの生演奏)で、それほど凝った装置があるわけではないのですが、同じパターンに陥らない照明の切り替えや場面転換で、最後まで魅せてくださいました。地下の小さな空間で天井が高いのがいいですね。2階部分と中央の階段、舞台奥の扉などがバランスよく使われて、小さなステージなのにどの場面も新しく見えました。

 【Bバージョン】レイ:松下洸平 彼:柿澤勇人
 松下洸平さん。もう…幕開けの時点でノックアウトされました。演技がうまい!歌を歌っている時の演技も!レイが“彼”なしに生きる理由などないと思っていることが、視線、姿勢からも伝わってきました。ミュージカルや音楽劇だけじゃなく、ぜひお芝居にも出て欲しい!と思ったら、次回は『ヴィラ・グランデ青山』に出演されるんですね。楽しみです。
 柿澤勇人さん。“彼”って秀才のはずなんだけど、実際の行動は猪突猛進型のおバカさんとも言えるんですよね。でも柿澤さんを見てると、そうするしかなかったのだと思えました。燃える気持ちが先行して先のことを考えず退路を断ってしまう少年。まっすぐな勢いに嘘がなくて、さわやかで、信じられました。

 ここからネタバレします。セリフなどは正確ではありません。

 オープニング。レイが客席後方から下手側の通路を通って舞台に上がります。囚人服姿のレイ(年齢は50代)が客席の方(=審議官がいる方)を向いて語り出す、その瞬間、もう魅せられました。作られた声色に重みがあるのです。
 場面が変わってすばやく若い頃のレイへと変わります(演じ分けが見事!)。バードウォッチングをして“彼”が来るのを待っているところ、全身を喜びで震わせて“彼”を迎えるところ、一途に“彼”を見つめて、そばにいて欲しいと請うところ・・・全てにおいてレイが「今、ここ」で生きているライブ感があります。ゲイ同士の恋愛関係だし(社会的に認められていない)、命より大事な“彼”はいつ自分から去ってもおかしくない。常に切実な状況にあるレイを体現されていました。

 “彼”は最初に「弟を殺す」と言います。本当に憎んで、怒っていました。「弟さえいなければ自分の人生はバラ色なのに」と本気で思っていました。だから、レイに説得されて標的を「10歳ぐらいの小さな子供」に変更した時、観客の私までもがちょっとホっとしちゃったんですよね。殺人には変わりないのに、「実の家族じゃなきゃまだマシだ」と。そんな風に感じてしまったせいで、2人が人殺しの準備を進めて行くことに、私自身があまり違和感や拒否感を持てなかった。これが後戻りできない感覚なのだなと恐しく思いました。「犠牲の羊、犠牲の子供」という歌詞も鋭く響きました。

 ひとつずつシーンを挙げるときりがないので、最後の場面について。仮釈放されたレイががっしりと組んでいた両手を徐々にほどいて、名実ともに自由になった時、レイはまず若い頃の“彼”のことを思い浮かべます。舞台後方上段には“彼”が、最初に登場した時のりりしいスーツ姿で立っていました。レイは年を取り、“彼”はいつまでも若いままです。過ぎてしまった歳月の重さと、それをものともしないレイの“彼”への愛が、演技のつぶさな変化によってあらわされました。ぎゅっと時間が凝縮され、かけがえのない刹那を味わえました。

"Thrill me"
出演:田代万里生&新納慎也 松下洸平&柿澤勇人 ピアノ伴奏:朴勝哲 声の出演:大鷹明良 檀巨幸 前田一世
原作・音楽・脚本:Stephen Dolginoff/翻訳・訳詞:松田直行/演出:栗山民也/音楽監督:落合崇史/美術:伊藤雅子/照明:小笠原純/音響:山本浩一/衣裳:前田文子/歌唱指導:伊藤和美/振付:田井中智子/演出助手:田中麻衣子 坪井彰宏/舞台監督:田中伸幸/宣伝美術:加瀬倫有(GIRI DESIGNO)/宣伝ヘアメイク:赤塚修二(メーキャップルーム)/宣伝スタイリスト:津野真吾
【発売日】2011/08/07 6,300円 (全席指定・税込)
http://hpot.jp/tmjp/
http://www.horipro.co.jp/usr/ticket/kouen.cgi?Detail=163

※クレジットはわかる範囲で載せています。順不同。正確な情報は公式サイト等でご確認ください。
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Posted by shinobu at 2011年09月22日 00:25 | TrackBack (0)