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REVIEW

2011年10月11日

東京都高等学校演劇連盟「2011年城東地区発表会」9/25、10/1、2、9、10都内ホール3か所

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2011年城東地区発表会

 東京ではじめて高校演劇の地区大会の審査員をさせていただきました(⇒昨年は山梨県大会)。地区大会、都大会、関東大会、そして全国大会と続く全国の高校演劇部の一大行事です。

 東京都の地区大会は城東地区、中央地区、城西地区、山手城南地区、多摩南地区、多摩北地区の計6つの地域で、各4~5日間にわたって行われました。私が担当した城東地区の参加校は34校で、その中から2校しか都大会(=中央発表会)には出られません・・・激戦です。

 審査員は三条会関美能留さん不等辺演劇倶楽部青年団演出部林成彦さん、そして私の3名でした。

 ●第65回中央発表会
  日時:2011年11月12日(土)~13日(日)
  会場:練馬文化センター
  ⇒東京都地区大会結果・中央発表会出場校

  林成彦さんが企画されている「高校演劇サミット」が昨年(⇒詳しい公式サイト)に続いて今年も開催されます。ご興味のある高校演劇部の方は林さんにお問い合わせください。申し込みにはエントリーシートが必要です。

 ●【高校演劇サミット2011】公式ブログ
  日時:2011年12月15日(木)~18日(日)
  会場:アトリエ春風舎

 城東地区は東京都で最も上演本数が多かったようです。大会参加校が増えたのか演劇部が増えたのか原因はわかりませんが、高校生の間で演劇が流行ってると思うと嬉しいですね!※今年の城東地区大会は通常60分の上演時間を45分間に制限するという特別な措置も取られていました。

 最多で1日8作品鑑賞、計5日間となるとさすがに体力的にも精神的にもきつかったのですが、関さん、林さんのおかげで乗り越えられました。演出家(アーティスト)、ワークショップデザイナー(教育者)、そして観る側の私という立場が全く違う3人だったので、変に遠慮しすぎたり妙に気づかったりすることなく、講評の役割分担もうまくいったように思います。ありがとうございました!

 以下、上演校と作品の記録です。特に印象に残った作品については少しですが感想を書きました。
 ◎:中央発表会推薦(2校) ○:奨励賞(15校) ⇒各地区大会のプログラム

【1日目 9/25(日)】7作品 会場:都立東高校しおさいホール
○都立足立東『対人完全不干渉罪』
 都立葛飾野『ナイトバトル・インザスクール』
○江戸川女子『グッドバイ・マイ…』
○都立上野『ふたり』
  作:いしかわあやね
 女子高生と家庭教師が登場する2人芝居。演技が自然で良かったです。

 都立小岩『キミとの一歩。』
○都立飛鳥『リビングルーム』
○都立橘『嘘 ~ロベール・トマ「罠」より~』
  脚本:池之上真菜 脚色:野澤勇一(顧問)
 有名海外戯曲の設定を明治44年の日本に置き換えて上演。力作の翻案でした。


【2日目 10/1(土)】4作品 会場:シアターX
 駿台学園『ムカシバナシンドローム』
 都立葛西南『そうだなぁ…例えばこんなコトがあったらうけるよね。…多分。』
◎都立足立『恋愛妄想 ダメ、ぜったい!』
  作:藤原徹
 男子高校生の恋の脳内暴走。気づかぬ内に現実と妄想の垣根を超えてしまい、思いを寄せる同級生女子との関係に進展が。それをきっかけに封印していた中学時代の記憶もよみがえり・・・。
 脚本に事件や問題を詰め込みすぎではあるものの、演劇における演出の効果を非常によくわかっていて驚かされました。悲しいことは笑顔で、過激なことはサラリと、または踊って歌って表現。オープニングから劇中劇というパッケージングも同時多発会話もいやみなく成立していましたし、中学時代と高校時代の人間関係を相似させて見せるのも見事。ボカロなどのいまどきのネット発信の楽曲を交えた選曲もうまかったですね。
 講評でも伝えましたがセックスと暴力の表現にはもっと丁寧に、慎重に積み上げるのが良いかと思います。人と人との距離の違い(10m、1m、10cm、0cmなど)で目に見える関係も立ちあがる空気も激変します。正解などないのですが、他者のどこに、どうやって、どういうスピード(タイミング)で、どのぐらいの時間、触れるのかを幾種類も試してみて欲しいと思います。
 講評時に審査員の一言ひとことに対して返事をしてくれたのはこの作品の作者だけでした。対等にコミュニケーションができたように感じ、頼もしく思いました。※審査は作品についてのみ行いました。

 女子聖学院『卍』


【3日目 10/2(日)】7作品 会場:シアターX
○開成『コンマ1秒の憂鬱』
  作:坂野嘉昭
 ある診療所にトラックが突っ込み、待合室にいた4人の患者が即死・・・するコンマ1秒前。スーツ姿の死神が現れて 未練を残さず死を受け入れるように4人を誘導する。高校生からリタイアした老人まで、さまざまな年齢の人々が人生を振り返り・・・。
 たまたまある場所に居合わせた人々が、予期せぬ災害や事故で瞬時に、理不尽に命を奪われます。現在進行中の東日本大震災をふまえ、生死について考えたことを自分の言葉でつづった素晴らしい戯曲でした。もしこの度の津波や地震で亡くなった方々が、死の前に人生を振り返る時間を与えられていたとしたら。未来を奪われた無念を、残された大切な人への思いを、それぞれに考え、かみしめていたかもしれない。劇場にいる私たちが失われたひとつひとつの命、人生ついて思いを馳せる時間を作ってくれました。生涯をすごろくやゲームに例えてコミカルに表現するのは男の子らしい発想で、達観していて知的だとも思いました。
 
 都立葛飾総合『Sputnik』
○日本大学第一『アルジャーノンに花束を』
  原作:ダニエル・キイス 脚色:菊池准
○都立忍岡『ごはんの時間2ぃ』
 都立荒川商業『噂の商子さん』
○都立白鷗『ヒーローのヒーロー』
  作:小野寺莉乃
 成績も悪いし体も弱いが戦隊モノのヒーローになりたい高校生男子。いきなり天使とその秘書が現れ、どんな願いでも3つ叶えてくれると言ってきて・・・。
 客席を向いて決めポーズを取るなど、定型の身体表現の組み合わせで全編を構成。天使と秘書のコンビネーションが面白く、笑いの絶えない完成度の高い作品でした。

 都立深川『ないと』

≪都大会に推薦された足立高校と江戸川高校のチラシと台本≫
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【4日目 10/9(日)】7作品 会場:都立科学技術高校サイエンススクエア
○都立科学技術高校『ジプシー 千の輪の切り株の上の物語』
  作:横内謙介 潤色:木原延昭(顧問)
 潤徳女子『みくじかの逆襲(のろい)』
 武蔵野『persona』
 都立足立新田『赤犬の檻~If~』
○都立本所『百枚めの写真 一銭五厘たちの横丁』
  作:ふたくちつよし 原作:児玉隆也 潤色:本所高校演劇部
 都立竹台『ヴェルディーク』
 都立紅葉川『7 GAME』
○都立江北『ゴッゴローリ伝説』
  原作:ミヒャエル・エンデ 脚色:大野敬二


【5日目 10/10(月・祝)】7作品 会場:都立東高校しおさいホール
 都立篠崎『とある探偵事務所の事件簿』
 関東第一『Enjoyしようよ! Let's 異世界trip』
  ※制限時間45分を超えるため、生徒の判断で途中で幕。ラストシーンが観られずとても残念。
 都立足立西『Crack ~欠片(かけら)~』
 都立墨田川『チェンジ・ザ・ワールド』
  作:石原哲也(既成)
○都立小松川『deliver』
◎都立江戸川『Colors』
  作:今井清光(顧問)
 塾のラウンジを舞台にした高校生の恋愛模様。クドくなく、きれいごとにならず、エッチになりすぎず、茶化すバランスも見事な等身大コメディーで、最初から最後まで笑いに笑って純粋に楽しませていただきました。まず“塾のラウンジ”という場面設定が秀逸。登場人物の個性が衣裳でも演技でもはっきりと区別され、一人ひとりがとっても魅力的です。終わった時に全員の顔と役名を憶えておけるぐらい。きっと顧問の先生による素晴らしいあて書きおよび演出の成果かと思われます。この作品を観た子供たち(小学生から高校生)は「演劇に出てみたい!」と思うかもしれません♪
 講評で関さんが「芝居は出はけが大事」とおっしゃっていたのですが、まさに「出はけ」の必然性をつくるセリフが絶妙で、観ながら心の中で「凄い!」と叫んでました(笑)。ネタではなく無言の間(ま)で笑いを生むなど、演技で立体感と訴求力のあるシチュエーションを作りあげる高度な会話劇でした。次回の上演では群舞の場面に変化があるといいなと思います。個人的にはもっと派手で際立った演出・演技を希望。

○都立淵江『だって女の子だもん!』
  作:根本美紀
 妊娠した(?)ぽっちゃり体型の男子高校生の妄想を、粗野で赤裸々でアグレッシブなダンスと叫びで表現・・・衝撃的でした。ちょっとFUKAIPRODUCE羽衣みたい。ジェンダー(性)についての疑問と不満をこれでもか!と言わんばかりに晒した後、最後は人間の孤独を美しく、研ぎ澄まされた高みにまで持って行ってくれました。静謐なラストに落涙。
 頭痛・生理痛用の市販薬品の箱(の着ぐるみを被った男性)からひっぱり出される赤いひもには女性用パンティーがぶら下げられ、生理用ナプキンが乱暴にばら撒かれます。女性が赤いボンボンを2つ、男性が赤と青のボンボンを1つずつ持って踊る染色体ダンスや、なぜか神妙に踊るへなちょこバレエもあり、奇抜な選曲も含めて笑っていいのやら怖がった方がいいのやら(笑)。イスの腰かけ部分に銀色の棒を置き、その先にトイレットペーパーを刺しただけで女子トイレに見せ(和式もあったのが凄い)、排泄までも描きます。生まれたばかりの子うさぎと、堕胎されて生まれることができなかった人間の子供との対比もさらりと。まるで作者の臓物をステージ上に投げ散らかしたかのように、生々しい血が噴き出し続けるような壮絶な脚本および演出でした。
 女性には毎月痛みをともなう生理があり、出産には社会的なことも含めいろんな試練があります。でも“妊娠”という2人以上の人間が1つの体の中に同居する状態によって、「守りたいし守られたい、愛したいし愛されたい」という他者との完全無欠の関係が実現するんですよね。だから性同一障害で体は男性だけれど心は女性という主人公は、「妊娠」がしたかった、「赤ちゃん」が欲しかったのです。最後は主人公が心を許している女性教師との2人っきりの静かなシーンで幕。教師が主人公の顔に女性用のきれいなメイクをほどこす無言の時間の神々しいこと。
 荒削りなのも個性だと思いますが少々危ないぐらいだったので(笑)、精度を上げるお稽古を丁寧に継続してくださるといいなと思います。

○都立東『ふたりはママ母』
  作:藤田葵
 歌とダンスで元気にコミカルに開幕。なぜか母親が2人いる家庭で、過保護な扱いを受け戸惑う姉妹。妹が突然「もうやめる」と言って子供の衣裳を脱ぎ、女子高生の姿に。
 上演会場である東高校演劇部の作品で、さすがは“ホーム”ならではの堂々たる空間づかい。演劇部内の人間関係を疑似家族と見立てた構成がとても面白いです。ダンスシーンではこの地区大会で唯一、手拍子も起こりました。
 ママ役の女性がとうとうママの衣裳を脱ぎ捨て、ノースリーブでお腹も足も露出した黒のセパレートのスポーツウェア姿になったのが痛快でした。私には家族、学校、友達も全部捨てて、“裸一貫”になったように見えたんです(精神面で)。だから彼女がセーラー服を着て女子高生に戻ってしまった(演劇部内の人間関係の話に世界がしぼんだ)のは残念でした。

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 【「日本最大」の演劇フェスティバル?】
 「もしかすると高校演劇の大会は日本最大の演劇フェスティバルなのではないか」と関さんがおっしゃっていました。9月から10月にかけて東京だけで約180校が参加し、1日に最大8本の作品が計4~5日間上演されます。東京よりも本数は少ないとはいえ全国各地で同時に行われるのですから、「日本最大」と言って過言ではないかもしれません。
 私はご縁があって審査員という形で参加させていただきましたが、一般の観客として高校演劇を観に行くのもいいと思います。⇒都大会は来月11/12(土)~13(日)

 【運営の要は顧問の先生】
 大会終了後の反省会(と称した打ち上げ)で顧問の先生方からゆっくりお話を伺えました。大会当日は休日を返上して会場の運営・進行(上演中の裏方含む)にあたってらっしゃいます。情熱がなければ継続できないであろう激務に頭が下がります。ご自身が顧問をつとめる演劇部員だけにではなく、参加校のすべての生徒が1回きりの発表の機会に全力を発揮できるよう、細やかな対応をされていました。
 ※最終日の会場だった都立東高校では、演劇部OB・OGが上演会場から各賞の発表会場となる体育館への誘導を手伝ってくれていました。

 【未来への高揚感/高校生は大人】(ツイッター⇒
 大勢の高校生の創作を一挙に多数観ることができ、とても刺激的で夢のような日々でした(疲れましたけど・笑)。会場にいた5日間は脳が完全に現実から乖離していましたね。生まれたてホヤホヤの若い才能を発見した気になることって(←ただの思い込みかもしれません)、麻薬のように中毒性がある気がします。成長のスピードが早い上に未来の時間もたっぷりありますから、トキメキと高揚感が尋常じゃないんです。どんな作品にも「無制限の伸びしろ」が付加されており、「いつか遥か遠くの未知の世界へと連れて行ってくれるかもしれない」と夢見る時間もセットでもらっているように思います。

 全体を通して気になったのは、従順に“高校生”でいる人が多いこと。身体も年齢も社会的にも高校生であることは事実ですが、演劇創作において(もしくは実生活でも)そんなことに縛られる必要はないんじゃないかしら・・・と思いました。
 携帯電話とインターネットがほぼインフラのようになってもう何年も経ちました。今の高校生はデジタル・ネイティブと呼ばれる世代ですよね。もちろん学校や家庭、個人で差があるでしょうけど、大学生の時に携帯さえなかった私とは違って、無料で情報収集および発信できる環境は努力すれば手に入れられると思います。とても極端な例ですが、やろうと思えば起業もできますしね。高校生が一人前の大人として、自立した人間としての意識をもって生きるステージは、探せばすぐそこにあるものだと思います。
 最初から「高校生なのだから」と自分を枠の中におさめず、「高校生であること」を意識的に利用するぐらいの気持ちで創作してくれたらと思います。安全で不自由な場所から飛び出した作品を私は観たいです。

 【意見:クレジットについて】
 地区大会で配布される公式の冊子には、上演作品の「演目(タイトル)」「作者」「上演校」「上演時間」が記載されています。スタッフのクレジットとしては、できれば「作者」だけでなく「演出」も載せていただけたらいいなと思います。どんな戯曲も演出家次第でいかようにも変化するものですし、舞台の「演出家」という職業の周知にもつながると思います。


 来月は都大会に行って、足立高校と江戸川高校の成長を見届けたいと思います!

東京都高等学校文化祭演劇部門地区大会・第65回東京都高等学校演劇コンクール地区発表会
日程:2011年9/23~10/10(延べ27日間)
東京都高校演劇連盟:http://www.geocities.jp/tokyo_koenren/index.html
東京都高等学校演劇連盟・ニュースと情報:http://tokyo.koenren.org/

※クレジットはわかる範囲で載せています。順不同。正確な情報は公式サイト等でご確認ください。
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Posted by shinobu at 2011年10月11日 20:41 | TrackBack (0)