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REVIEW

2011年12月16日

日本の問題製作委員会『日本の問題』11/27-12/04ザ・ポケット

 『日本の問題』というテーマで8劇団が20分間の新作を発表する企画で、4劇団ずつA班とB班に分かれた2本立て公演です。毎ステージ終演後に座談会があり、12/3(土)マチネにゲスト出演させていただきました。⇒昨年は『Project BUNGAKU太宰治

 東日本大震災および原発事故が起こった今の『日本の問題』ですので、それなりに何かを予想、期待して劇場に来たお客様が多かったことと思います。私もその1人でした。
 8団体それぞれの手法、切り口で、当事者意識を持った問題提起や提案をされていたので、全体的には面白く拝見しました。

 ⇒CoRich舞台芸術!『日本の問題
 ⇒CoRich舞台芸術!『学生版 日本の問題

 公演は終了。ここからネタバレします。

 トークでも最初に言いましたが、舞台美術が良かったですね~!8作品共通なのでシンプルにせざるを得ないところ、大胆というか少々乱暴(?)ともいえる装飾になっていました。床と同じく白色の大きな四角い柱がドサリと倒れたかのように、舞台上に置かれていたのです。つまり上手奥から下手手前に向かって斜めに、ひざの高さぐらいの段が堂々と横切っている状態。ベンチ、テーブル、橋、境界線などさまざまに利用・想像できました。丸い裸電球が10個ぐらいずつ、下手奥と上手手前に吊り下げられて、ちょっとおしゃれな照明器具のようになってるのも可愛らしかったですね。劇場の壁にたてかけられた複数のはしごも良かった。


【A班】
●経済とH『金魚の行方』
 脚本・演出:佐藤治彦 演出助手:石上慧 衣裳協力:小澤考太
 出演:三嶋義信/平岩久資(田上パル)/富士たくや/小金井篤(野良猫連盟)/内田龍/一色洋平(早稲田大学演劇研究会)/藤野マキ(演劇集団アクト青山)/生井みづき/池内ひろ美(評論家)/佐藤治彦(経済とH)

 今(と昔に)、日本で起こっている問題を羅列していきます。しゃべっている人を外側から見つめる第三者的な存在が常にいるため、冷静に眺めていられるのが良かったです。地震速報のアナウンスとACのCMは、今年3月と4月の私の記憶に直結していることを確認。


●Mrs.fictions『天使なんかじゃないもん』
 脚本・演出:中嶋康太
 出演:岡野康弘(Mrs.fictions)/今村圭佑(Mrs.fictions)/山口オン(elePHANTMoon)

 偽シスターとだめヤクザ2人組のとぼけた会話で、優しい笑いを次々と生み出しますが、実は誰もが深刻な問題を抱えていることがわかってきます。うまくできた脚本だと思いました。
 トークでとても良かったと話したあるセリフ・・・うーん、忘れちゃった。「美意識が(自分にかける)のろいになる」風な意味だったかな。その通りだと思いました。自分で自分にのろいをかけちゃうんですよね。


●DULL-COLORED POP『ボレロ、あるいは明るい未来のためのエチュード (Bolero, or an etude for a better future)』 
 作・演出:谷賢一(DULL-COLORED POP) 演出助手:元田暁子(DULL-COLORED POP) アクティング・アドバザー:広田淳一(ひょっとこ乱舞)
 出演:東谷英人/大原研二/塚越健一/中村梨那(以上DULL-COLORED POP)/浅倉洋介/石井舞/岩瀬あき子(日穏-bion-)/川島佳帆里(TABACCHI)/窪田壮史/近藤強(青年団)/斉藤マッチュ/平佐喜子(Ort-d.d)/寺田ゆい/松崎映子/百花亜希/山本卓卓(範宙遊泳)/ワダタワー(クロカミショウネン18)/渡邊亮

 同じ主題が繰り返される名曲「ボレロ」が流れる中、次々と日本の首相が変わり、所信演説を行っていきます。タイトルにちゃんと「ボレロ」と「エチュード(即興)」が入っているんですね。作・演出の谷賢一さんが舞台上でゴングを鳴らし、タイムキーパーの役割を果たされていました。これは『タンゴ』の影響かしら。⇒谷さんのツイート

 トークで聞いたところ、最低限の構成・ルール以外はすべて即興だったようです。ある程度は即興だろうと思っていましたけど、そんなに大部分だとは気づかず。自立した役者さんたちが主体的に動いて柔軟に反応し合っていたから、「演技」「作品」に見えたのだと思います。私は舞台上でハプニング(予測不可能なこと)を起こす効果は大いにあると思いますが、演技については必ずしもいつも有効だとは思わないタイプの観客なので、「即興に見えなかった」のは成功だと受け取りました。


●風琴工房『博物学の終焉』
 脚本・演出:詩森ろば
 出演:鈴木シロー(A.C.O.A)/有吉宣人(ミームの心臓)/石田迪子/齋藤陽介

 「消滅」という科学技術(?)が発明され、廃棄物の問題がすべて解消された、遠い未来。でもその技術が刑罰にも流用され、過剰な言論統制がおこなわれていた。

 生徒が先生に向けていたピストルを自分に向けて撃った時、ギュっと胸が締め付けられました。彼は本当に先生に花束を渡したのだと思いました。とても良かった。


≪終演後の座談会≫
 出演(左から):詩森ろば 谷賢一 中嶋康太 佐藤治彦 松枝佳紀
 ゲスト:高野しのぶ

 日本の教育現場にある問題について、公立小学校のある授業を例にお話ししました。親がモンスターにならざるを得ない状況は、先生ががんじがらめになって苦しんでいることが原因かもしれないと考えたことがありまして。学校に演劇ワークショップの授業があればいいなと思います。
 ごく個人的なことですが、私のマイブームは「奉納する演劇」。演劇に限らず、芸術は「誰かに見せるもの」である前に「神様(のようなもの)に捧げるもの」なんじゃないかなぁ・・・と、最近よく考えます。※“神様”は特定の宗教をさすわけではないです。


【B班】

●ミナモザ『指』
 脚本・演出:瀬戸山美咲 ドラマターグ:中田顕史郎
 出演:山森信太郎 つついきえ

 火事場泥棒の男女2人。女性の死体の手に指輪がありました。でもその指はしっかり車のハンドルを握っています。男は指を切って指輪を盗ろうとしますが・・・。美しい作品でした。終演後のトークで「演出してみたい」と言っている演出家がいたのにもうなづけます。


●アロッタファジャイナ『日本の終わり』
 作・演出:松枝佳紀 演出助手:渡部直也
 出演:西村優奈(H・I・A)/阿部侑加/松浦希美(SPGプロモーション)/白勢未生/西谷尊典/若月里菜(加川事務所)/ナカヤマミチコ(アロッタファジャイナ)/佐々木美奈(さいたまネクスト・シアター)/泊帝/神山武士(BESIDE-b.i.a)/西村誠太/西村壮悟(四畳半ヤング)

 東京には優秀な人材が集まっている。でも大勢すぎて、その資源を有効活用できていない。だから東京以外の地域から上京してきた人を地元に“強制送還”することで、日本経済を活性化させる・・・という主張を持つ政治家(西村壮悟)が、とうとう首相になる。

 トークで作・演出の松枝佳紀さんが「善いヒットラー」といった表現をされていたような気がします(間違ってる可能性大です、すみません)。西村壮悟さんの演説が素晴らしかったですね。女子高生が出て来て自分のプライベートな話をしちゃうのは、面白いアイデアだとは思えず。でも「論文を演劇で表現する」という意図は明快で、成功していたと思います。
 東京に住んでいて、東京一極集中は幸福につながっていないと感じているので、各地域に人材が分散していくことには個人的には賛成ですね。“強制送還”は聞こえが悪いですが、過激な言葉のおかげで「もしそうなったら?」と考えてみたくなる効果があったと思います。


●ろりえ『枯葉によせて(仮)』
 脚本・演出:奥山雄太 効果音:田中亮太 特殊小道具製作:田畑美穂 協力:(株)豪勢堂
 出演:杏実えいか/木村香代子/香西佳耶/松下伸二/松下結衣子

 今年3月に地震とは全く関係なく死んだ、ある男の奇想天外な旅路。
 奇抜な展開が刺激的だし、役者さんも達者だし、面白いはずなのにな・・・と不思議な疎外感のまま終幕。奥山雄太さんの作品は前に1度しか観ていないのですが、それよりはずっと脚本にも演出にも惹かれました。だからこそ、舞台から客席の方にもっと迫ってくるものが欲しかったのだと思います。


●JACROW『甘えない蟻』
 脚本・演出:中村暢明
 出演:猿田モンキー/中村哲人/藤沢玲花/蒻崎今日子(JACROW)

 夫の自殺現場に来た妻と娘、そして親戚の男性2人。
 家族、親戚の関係がおおざっぱに感じました。たとえば高校生の娘の、おじさんに対する態度が横柄すぎるように感じたり。
 他人に甘えることができずに自殺を選んでしまう日本人、多いと思います。


≪終演後の座談会≫
 出演(左から):松枝佳紀 奥山雄太 瀬戸山美咲 中村暢明
 ゲスト:「学生版 日本の問題」参加の6人の作・演出家

 うーん、学生はしゃべらないで質問するだけにした方が良かったんじゃないかしら。しゃべればしゃべるほどボロが出て・・・。


演劇で日本を変える。ProjectBUNGAKU太宰治の企画者松枝佳紀がしかける国家的演劇プロジェクト
【ゲスト】
11/27(日)14:00~開演 (A):池田健三郎さん(経済評論家・大樹総研所長)
11/27(日)19:00~開演 (B):河野太郎さん(衆院議員・自民党)
11/28(月)14:00~開演 (B):宇野常寛さん(評論家・「リトル・ピープルの時代」著者)
11/28(月)19:30~開演 (A):山田まりやさん(女優) 、切通理作さん(評論家・脚本家)
11/29(火)14:00~開演 (A):?
11/29(火)19:30~開演 (B):中村うさぎさん(小説家・エッセイスト)
11/30(水)14:00~開演 (B):小熊英二さん(社会学者・慶應義塾大学教授)
11/30(水)19:30~開演 (A):永井愛さん(劇作家・演出家)
12/01(木)14:00~開演 (A):内田春菊さん(漫画家・女優)
12/01(木)19:30~開演 (A):松尾貴史さん(俳優・コメンテーター)
12/02(金)14:00~開演 (B):金子修介さん(映画監督)
12/02(金)19:30~開演 (B):上野千鶴子さん(社会学者・東京大学名誉教授)
12/03(土)14:00~開演 (A):高野しのぶさん(現代演劇ウォッチャー)
12/03(土)19:00~開演 (B):「学生版 日本の問題」参加の6人の作・演出家
12/04(日)13:00~開演 (AB):坂手洋二さん/8劇団主宰
プロデューサー:松枝佳紀 プロデューサー補:佐藤治彦、今村圭佑 舞台監督:本郷剛史 美術:坂本 遼 照明:柳田 充(Lighting Terrace LEPUS) 音響:井出"PON"三知夫(LaSens) 学生版プロデューサー:酒井一途 宣伝写真:所幸則 Printing Direction:青山功 宣伝美術:ナカヤマミチコ 制作:日本の問題制作部、ナカヤマミチコ 飯塚なな子、会沢ナオト スチール撮影:笠井浩司 当日パンフレット:ゴトウユウヤ(声を出すと気持ちいいの会) 「日本の問題」企画者:松枝佳紀(アロッタファジャイナ)
【発売日】2011/10/15 前売券 : 3200円 / 当日券 : 3500円 A・Bセット前売券 : 6000円 大人版(8劇団)と学生版(6劇団)セット券 : 9000円 ※各割引チケットはすべて事前予約が必要となります。
http://nipponnomondai.net

※クレジットはわかる範囲で載せています。順不同。正確な情報は公式サイト等でご確認ください。
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Posted by shinobu at 2011年12月16日 21:45 | TrackBack (0)