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Shinobu's theatre review
しのぶの演劇レビュー
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REVIEW

2012年01月16日

ホリプロ『ミュージカル「BONNIE&CLYDE(ボニー・アンド・クライド)」』01/08-22青山劇場

 映画「俺たちに明日はない」がミュージカルに!日本版の上演台本・演出を手掛けるのは田尾下哲さんです(⇒インタビュー記事)。田尾下さんの作品を拝見するのは新国立劇場のキッズオペラ以来だと思います。NODA・MAP公演の演出助手もされているので、オペラ、演劇、ミュージカルとジャンルの壁を超えて活躍されているんですね。

 主役男女の疾走にしっかりと根拠があり、群像劇としての厚みもあって満足!見逃したら後悔してたかも。上演時間は約3時間5分(途中15分の休憩を含む)。ブロードウェイ版はもっと上演時間が短いそうです。今回の台本は、今の日本で上演するために新たに作られたんですね。

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 ⇒CoRich舞台芸術!『ミュージカル「ボニー・アンド・クライド」

 ≪あらすじ≫ 公式サイトより
 舞台は世界恐慌の最中のテキサス。
 映画スターを夢みるボニーは、場末のカフェで退屈なウェイトレスとして働く毎日。
 かたや派手なギャングにあこがれるクライドは、窃盗で刑務所を出たり入ったり。
 時代の暗い閉塞感から抜け出て、スポットライトをあびたいと願っていた二人は、ある運命の出会いを果たし、恋に落ちる。
 街を飛び出し、車を盗み、銀行強盗を繰り返す、前代未聞のギャング・カップル「ボニー&クライド」の誕生に、世間の目は釘付け。
 しかし、警察も黙ってはいない。
 警官に追いつめられて二人の悪運もつきたかに見えたそのとき・・・
 銃の暴発によって、運命の歯車が思わぬ方向に狂い始める。
 ≪ここまで≫

 衣裳も装置も豪華で、有名な役者さんがちゃんと歌を聴かせてくれる、本格的なミュージカル。こういうゴージャスな観劇は『ピアフ』以来かもしれません。お正月気分がちょっぴりリフレイン。

 キスシーンをはじめとするラブシーンが本格的で回数も多く、最初はちょっと驚いたんですが、ボニー(濱田めぐみ)とクライド(田代万里生)が至近距離で見つめ合って歌う場面の密度が高くて、すっかり見とれまして。「あぁ、これは“1930年代のアメリカ(の人々)”を忠実に表現する方法を取ったのだな」と思いました。そう気づいてからは(そうじゃないかもしれませんが)、キスシーンも当然のものとして見つめることができました。あぁ日本人だね私(苦笑)。

 誰かを愛すると、その人の敵が自分の敵になります。たとえばクライドの敵はボニーの敵ですし、ボニーを愛する保安官テッド(藤岡正明)にとっては、ボニーを犯罪に巻き込むクライドが敵になります。でも愛ゆえに敵味方がするりと逆転することもあるんですよね(ブランチの場合)。犯罪者とその家族、彼らを追う警察、被害者らが登場する群像劇ですが、世界中で起こっている大規模な戦争と同じことだなと思いました。

 ボニーとクライドは大恐慌下のアメリカで、国や警察といった体制側を打破するヒーローのように扱われだします。そういったドラスティックな改革を行う英雄を待ち望む大衆心理は、危険なことですが、今の日本にも広がっているような気もするんですよね。もちろん破滅的なヒーローを肯定する作品ではないのですが、シンクロしていると思います。

 田代万里生さんがクライド役というのは、ちょっと合ってないんじゃないのかなぁと最初は思っていたんですが(王子様のような方なので)、低い声や叫ぶ演技など、徐々に野生的で危険な、悲しい犯罪者に見えてきました。あの一人語り(厳密には1人ではない)の場面が素晴らしかったです。
 濱田めぐみさんは元劇団四季の有名な女優さんなんですね。パワフルで安定感のある歌声を聴かせ、時には少女のようなキュートさも見せてくださいます。死を覚悟した若い女性の腹の据わった闘争心が、静かに、じわじわと歌声にこもっていくのが見て取れました。
 テッド役がダブルキャストで、私が拝見したのは藤岡正明さんでした。純粋な気持ちがまっすぐな歌声に乗って、とても良かったです。クライドとデュエットになるところも良かったわ~。
 
 S席11,000円で拝見しました。10,000円を超えるのはちょっと高いな~、でもB席3,500円って破格ですね!(完売でした) 価格帯が広いのは良心的だと思います。 

 ここからネタバレします。セリフなどは正確ではありません。
 
 妻ブランチ(白羽ゆり)の説得で自首したクライドの兄バック(岡田浩暉)は釈放され、相変わらず強盗を続けたクライドには懲役16年の判決が下されます。脱獄後に正反対の行動を取った2人を対比させ、人生の明暗がはっきり分かれるのをサラリと、鮮やかに描いており、自室のベッドでボニーが悲しむシーンは「ロミオとジュリエット」を想起させました。

 ボニーとクライドが追いつめられていった原因(不況や警察権力の横暴など)を市井の人々の生活も交えて描いていくので、2人は“ただの犯罪者”には映りません。クライドが獄中で凌辱を受けたり、クライドの面会に来たボニーが看守に性的ないやがらせをされるなど、弱者の2人が生きる“つめたい世界”をハードな演出で見せていました。

 ブランチは敬虔なクリスチャンで夫を無償の愛で包みますが、クライドのことは「生まれながらの犯罪者」と決めつけます。ボニーの母はカフェを経営しながら女手一つで娘を育てた立派な女性で、ボニーを心から愛していますが、ボニーを保安官のテッドとくっつけようと躍起だったり、ボニーの意志や夢を尊重する気はないんですよね。盲目的な愛が時にはひどく排他的であることもわかります。
 
 1幕の最後は、とうとうボニーとクライドが警官を(アクシデントで)殺してしまう場面でした。強盗と殺人者では全然違うんですよね。一線を超えてしまってから2人の犯罪はエスカレートしていきます。「誰も傷つけずに」と口では言うものの、武器を大量に仕入れ、人を殺してしまうんです。

 終盤。大勢の警察に囲まれてバックが撃たれたところで時間が止まり、クライドの独白が始まります。白くて細い照明が何本も交差しながら舞台に落ちて、ガラっと空気が変わりました。やがて保安官(木場勝己)がクライドに話しかけ、周囲の人々が全員静止した中でクライドと2人の会話場面となります。時空を超えた非常に面白い演出でした。これには興奮しましたね。

 最後は有名な、2人が車に乗ったまま警察の銃弾を受けて死ぬ場面でした。蜂の巣になるんですよね。小さな車からバチバチ!!と火花が無数に散って、煙が上がる中、静かにゆっくりと時間を掛けて、でも唐突に、2人が倒れて、暗転。車のヘッドライトの2つの光が、しばらく経ってから消えて終幕しました。
 ヘッドライトを残して暗転したとたんに拍手が起こるのは本当に悲しいな~。完全暗転してから、「これで、終わりなの・・・?」という余韻になる前の気持ちを共有した後で、拍手したいのに。まあそれを味わいたいなら初日に観ろってことなんですが。
 小さな車はこまわりが利いてとても可愛らしかったです。光岡自動車なんですね。

≪東京、大阪≫
【出演】ボニー:濱田めぐみ クライド:田代万里生 バック(クライドの兄):岡田浩暉 ブランチ(バックの妻):白羽ゆり テッド(ボニーの幼馴染の保安官):藤岡正明・中河内雅貴(ダブルキャスト) ヘンリー(クライド父):中山昇 シモンズ刑務所長:芝崎健太 クロウソン看守:戸室政勝 ジョンソン保安官代理:ヨウスケ・クロフォード ファーガソン州知事:徳垣友子 アンジェラ:家塚敦子 クレア:保科由里子 エレノア:宇野まり絵 キャミー(クライド母):明星真由美 ヘイマー特別捜査官:岸祐二 牧師:つのだ☆ひろ バド保安官代理:戸井勝海 エマ(ボニー母):池田有希子 シュミット保安官:木場勝己
作 : アイヴァン・メンチェル 作曲 : フランク・ワイルドホーン 作詞 : ドン・ブラック 上演台本・演出 : 田尾下哲 訳詞 : 小林香 音楽監督 : 前嶋康明 セノグラファー : 堀尾幸男 照明 : 原田保 音響 : 山本浩一 コレオグラファー : キミホ・ハルバート スタイリスト : 島津由行 ヘア : ASASHI メイク : Noda Norikata(lydia pro) ドラマツルグ : 長屋晃一 演出助手 : 坂本聖子 舞台監督 : 幸泉浩司 主催 : テレビ朝日 読売新聞社 ホリプロ 後援 : サンケイリビング新聞社 協力 : 光岡自動車 企画制作 : ホリプロ
料金:S席 ¥11,000 A席 ¥8,500 B席 ¥3,500 ディレクターズシート ¥11,000(全席指定・税込)
http://www.bonikura.com/
http://www.horipro.co.jp/usr/ticket/kouen.cgi?Detail=171

※クレジットはわかる範囲で載せています。順不同。正確な情報は公式サイト等でご確認ください。
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Posted by shinobu at 2012年01月16日 21:29 | TrackBack (0)