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Shinobu's theatre review
しのぶの演劇レビュー
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REVIEW

2012年03月15日

ひょっとこ乱舞『うれしい悲鳴』03/03-11吉祥寺シアター

 広田淳一さんが作・演出・主宰されるひょっとこ乱舞の最終公演です。劇団は改名してアマヤドリとなります。上演時間は約2時間。

 「CoRich舞台芸術まつり!2012春」審査員として拝見しました(⇒110本中の10本に選出 ⇒応募内容)。※レビューはCoRich舞台芸術!に書きます。下記にも転載します(2012/05/27)。

 元劇団員の成河(ソンハ)さんからお花が届いていました。劇団所属当時のお名前が心にしみます。
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 ⇒CoRich舞台芸術!『うれしい悲鳴

 ≪ごあいさつ(あらすじ)≫ 公式サイトより
 『旅の終わりに行き着く果ては』
 今回は『感度』を巡る舞台です。
 痛がりとか、くすぐったがりとか、鼻が利くとか、耳がいいとか、あるいは、敏感肌とか、アレルギー体質とか、他人の痛みが「わかる」とか「わかんない」とか、無感動とか、不感症とか、「イッちゃうイッちゃう」とか、「マジ痛ってえ」とか、そういう、皮膚の内側と外側をつなぐ火花の「感度」に着目した舞台を作ります。
 物語は「痛覚のない男= 無鉄砲野郎」と「感度の良すぎる女=イキ過ぎ女」を中心に進みます。
 二人は「感度」について常識から大きく外れてしまっていて、他人との間に埋められない溝を感じています。
 お互いを「発見」してしまった二人は、世界に全く新しい何かを見出して、周囲の人間を大量に巻き込んでどこまでも突き進みます。
 若気の至りの猪突猛進の果てに、うれしい悲鳴のこだまする狂喜と乱舞と絶叫の場所を目指して、進みます。
 もう集大成みたいな作品は去年作ったので、ひょっとこ乱舞としての最後、行き止まりまで行ってみます。
 主宰・作・演出 広田淳一
 ≪ここまで≫

 ■架空の日本の物語が詩と踊りとともに沁み込んで来る

 いつもながら群舞が素晴らしかったです。選曲が個性的で飽きさせません。劇場のロフトを使い、奈落まで続く階段でシャープな空間をさらに広く見せた舞台美術でした。衣裳は一人ずつデザインが異なる現代服ですが、赤、青、緑、灰色と色を合わせることでスタイリッシュに見せていました。ただ、初日(プレビュー翌日)の仕上がりは一体感、緊張感、柔軟性などで今一歩。まだまだこれから成長する舞台だと思いました。

 不感症(痛みを感じない)の男と過敏症(何もかもにアレルギー反応)の女を軸に物語は進みますが、彼らを演じる役者さんはあくまでも“代役”で、男のセリフを複数の男優が語ったり、女は2人の女優さんが演じ続けるなど、特定のヒーロー&ヒロインの物語に固定させず、誰にでもあてはまる普遍性を保っていました。

 震災以降の空気も含め、日本という国を冷静に見つめる視点を持った社会派戯曲でもあり、演劇が持つ豊かな可能性を堂々と引き出す詩的なセリフも美しかったです。ひょっとこ乱舞の作品はそれほど多くは拝見していないのですが、戯曲は広田淳一さんの最高傑作ではないかと思いました。

 ここからネタバレします。

 お父様がくも膜下出血で倒れたために降板した、劇団員の女性の録音の挨拶から開幕(なぜかお風呂に入ってしゃべってました)。極々プライベートな内容なので驚きました。「ひょっとこ乱舞、大爆破」というセリフで始まるオープニングもいきなり過ぎて戸惑いましたが、ダンスが始まるとわくわくして、スムーズにお芝居の中に入って行けました。

 舞台は近未来の日本。テキトーに作った法案“アンカ”を例外なく絶対実行させるための暴力組織“オヨグサカナ”が編成され、「これが本当に日本なのか?」と疑うほどひどい政策が次々と実行される、信じがたい世の中になっています。アンカのせいで人生をめちゃくちゃにされた人もいるのですが、人々はそれが当たり前だと受け入れ、慣れてしまっています。その法案を誰が作ったのかは問われず、誰も責任を追求せず、誰も責任を取らず、ただ「そう決まっているから」となし崩し的に実行されるのは、お役所仕事や昨年の原発事故を連想させます。

 オヨグサカナのメンバーである男は、「強制お引越し法」なるアンカが適用された地域にたまたま住んでいた女と出会い、2人は恋に落ちます。男はエレベーターに閉じ込められ1週間後に奇跡の生還を果たして以来、不感症。女は幼いころに発症して以来、部屋から一歩も出られない過敏症でした。
 正反対の2人は徐々に変化して恋の奇跡を謳歌しますが、幸せは長く続きませんでした。「植物人間の臓器を入手する」というアンカが施行された時、女の母親がくも膜下出血で倒れ、植物人間になってしまったのです。男はオヨグサカナのメンバーとして女の母親の臓器を奪う使命を帯び、女は母が死ぬ時は自分も死ぬと固く決心しているので、2人は敵同士になってしまいます。

 ロミオとジュリエットのように引き裂かれた男女のエピソードと並行して、意識不明の重体である(と噂される)天皇にも例外なくアンカを実行すべきかどうかをめぐり、オヨグサカナ内で闘争が始まります。やがて政府が転覆させられ、オヨグサカナは解散。「植物人間の臓器を入手する」アンカが実行されてすぐのことでした。
 女を殺した男は不感症から過敏症になってしまいます。女を殺したことについて考え過ぎて過敏症になったのか、愛した女との同化を強く望んでそれが叶えられたのか、理由はわかりませんが、愛ゆえだと私は思いたいです。

 物語の顛末があらわされた後は、詩でした。「月と海がケンカしてる。その仲裁に入ろう。」
 そしてオープニングと同じ(と思われる)群舞がリプライズされました。踊るのは市井の人々、つまり私たちです。まるで細胞の運動のように見えました。収縮と弛緩、集合と離散を繰り返す生命の営みであり、宇宙と星々の関係のようでした。
 終演後、誰もいなくなった舞台を観て開演前のアナウンスを思い出しました。降板した劇団員の女性のお父様は、登場人物の母親と同じくも膜下出血で倒れられたのです。これは2012年2月の日本の話なのだと感じ、オヨグサカナも、過敏症の女も、詩も、踊りも、一気に沁み込むように体に入ってきました。

「CoRich舞台芸術まつり!2012春」最終選考作品
ひょっとこ乱舞、最終公演!! 大爆破!!
出演:中村早香、笠井里美、松下仁、根岸絵美、渡邉圭介、糸山和則、田中美甫、広田淳一、稲垣干城、伊藤今人(ゲキバカ)、西川康太郎(ゲキバカ)、倉田大輔、荒井志郎(青☆組)、永島敬三、小角まや、熊谷有芳、榊菜津美、杉亜由子、鈴木由里、山森信太郎(髭亀鶴)、荒木昌代、片山敦郎、ひょい、太田旭紀
作・演出…広田淳一 ドラマトゥルク…稲垣干城 舞台監督…橋本慶之 舞台美術…大泉七奈子 音響…角張正雄 照明…三浦あさ子(賽【sai】) 宣伝美術…山代政一 Web…堀田弘明 衣装…矢野裕子(RBGene) 上野智(RBGene) ヘアメイク…増田加奈 演出助手…しもとりゆう/竹川絵美夏/岩城泰斗(屋根裏展望台) 制作…伊藤彩/吉田千尋(√ac /ゲキバカ)/木村若菜/砂田麻里子/青柳偉知子(青学劇研) 
3/11リーディング:福島の劇団・郡山演劇研究会「ほのお」
http://hyottoko.sub.jp/ureshii_himei/
http://hyottokoranbu.blog.fc2.com/


※クレジットはわかる範囲で載せています。順不同。正確な情報は公式サイト等でご確認ください。
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Posted by shinobu at 2012年03月15日 11:51 | TrackBack (0)