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REVIEW

2012年04月14日

ワタナベエンターテインメントD-BOYS STAGE 10th『淋しいマグネット』04/08-28 Bunkamuraシアターコクーン

 ワタナベエンターテインメント所属のD-BOYSによるお芝居です。昨年のシェイクスピア作品がとても良かったので、ちょっと期待して伺いました。キャストはReds、Blues、Whites、Purplesの4バージョンあり、私はRedsを拝見。

 『淋しいマグネット』は2000年初演のスコットランド戯曲で、韓国では3年ものロングランを果たしたそうです。予想以上に面白い戯曲でした。演出の茅野イサムさんのアイデアが素晴らしかった~!豪華なエンターテインメントでありながら、戯曲の核の部分をしっかり伝えて、ビジュアルで独自の解釈を示されていました。上演時間は約2時間10分(途中休憩1回を含む)。

 D-BOYSファンの女性客が圧倒的多数なのでしょうけど、演劇ファンが観てもずっしり重たい観劇体験になる思います。残席ありますのでご興味持たれた方はぜひ。

 ⇒俳優集団D-BOYS の舞台『淋しいマグネット』開幕「コクーンでの公演は心から嬉しい」※舞台写真あり!
 ⇒CoRich舞台芸術!『淋しいマグネット

 ≪あらすじ≫ 公式サイトより。(役者名)を追加。
 “特殊な磁石”リューベン(瀬戸康史)は転校生だった。
 幼なじみのゴンゾ(遠藤雄弥)、シオン(柳下大)、トオル(荒木宏文)と出会い、9才の4つの磁石は海沿いの田舎町で共に育ち、無邪気な正直さで魅かれあった。
 10年が経ち4つの磁石たちは自我に目覚めていく。そこには地元の町と互いへの反発もあった。
 ーーーーーーーー突然消息を絶った磁石、リューベン。
 さらに10年ぶりの地元での再会。しかし3つの磁石は最早、くっつくことはない。
 心の中ではひとつになりたいのに反発し合うことしかできない。
 激しくぶつかり合う彼らが、ラストに目にしたものは…?!
 ≪ここまで≫

 戯曲の舞台を日本に変えて親しみやすく脚色された上演台本でした。なぜか私はずっと舞台はスコットランドだと思い込んでいて(汗)、「あら、これ日本なのね」と気づくまでに時間がかかりました。岩のセットが異国に見えちゃったのかな~。

 幼なじみの4人の少年の9歳、19歳、29歳の時期を描く4人芝居ですが、アンサンブルのダンサー8人が加わる劇中劇があり、衣裳を贅沢に着替えて華やかなダンスでも魅せてくれます。シリアスな会話劇は俳優の演技だけでストイックに勝負して、大人数のエンタメ場面は存分に豪華に盛り上げる、メリハリの効いた演出でした。
 
 贅沢な美術、衣裳、照明に彩られた空間で、面白いストーリーを追いかけながら、4人の役者さんの10年の時を隔てた演じ分けのみずみずしさを味わいつつ、“楽しんで”観劇してきたところ、終盤のあるシーンでガツン!とやられました。苦味や痛み、歪みをセリフではなくダンスや衣裳、小道具で表し、独自の解釈を加えて、戯曲をさらに重層的に見せてくださいました。

 4人のメインキャストは役人物をちゃんと作られていて、年齢ごとの演じ分けもはっきりしていて良かったです。テニミュ出身の方も多いんですね。やっぱり、自分ではない誰かになる(自分をあるキャラに似せる)ことを尽きつめるのは、役者さんにとって大切な経験になるのかなと思いました。
 転校生リューベン役の瀬戸康史さんの、前半の目玉とも言える場面の無言の演技には、ぐっと引き込まれました。⇒舞台写真
 
 ここからネタバレします。 

 特殊学級にいたこともあるリューベンは、腹話術師だった父親に暴力を振るわれている孤独な少年で、一人で物語を書いてばかりいました。彼は9歳の時、クラスメートのゴンゾとともに夜の学校にしのびこんで、そこで父親が大切にしていた腹話術人形のヒューゴを壊してしまいます。
 リューベンは19歳の時に崖から飛び降りて自殺してしまい、彼が遺した物語が劇中劇で表されます。「淋しいマグネット」の舞台は人間がいなくなった後の世界。家具や道具などの“物”がその生を謳歌しており、磁石が仲間外れになるお話です。そこになんとヒューゴの姿が!驚きの演出でした。

 ダンサーが持っている家具や靴などにヒューゴの顔や手がくっついていて、とてもグロテスク。よく見るとダンサーの衣裳がヒューゴの服と同じ色使いで、実は物語の語り部として登場するリューベンも、ヒューゴと同じ服を着ていました。無数のヒューゴとヒューゴの部分が一斉に踊る、恐ろしい場面でした。リューベンの屈折した少年時代の表象とも受け取れると思います。
 ヒューゴの姿をした磁石(=ダンサー)が演じる悲恋の物語は、すれ違い、ぶつかり合う振付と熱の入った踊りがドラマティック。最後は磁石が「壊れる」ことを選んだため、自分で自分をぐちゃぐちゃに傷つけた磁石と、夜の学校でばらばらになったヒューゴ、崖から飛び降りたリューベンが重なります。

 人間と磁石と人形という3つの存在が一体化したように見えてくると、それまでに描かれた様々なことがつながっていきました。不器用ゆえに穏やかな人付き合いができなかったリューベンは、自分の意志に反して誰かに無理やりくっつけられたり、引き離されたりする磁石そのものです。人形のヒューゴもリューベンなのだとすると、あの夜、学校でリューベンが壊した人形はリューベン自身なんですね。そういえばリューベンは、父親がヒューゴばかり大切にすると恨み事を言っていました。リューベンはヒューゴになりたかったんだろうな・・・などなど、深く想像をめぐらせることができました。

 9歳のリューベンがゴンゾ、シオン、トオルの前で暗記して語った「空の庭」は悲しいお話でしたが、空から花びらが大量に降ってくる美しい場面がありました。29歳になって集まったリューベン以外の3人は、それぞれに違う世界に生きていて、心もすっかりバラバラになっています。でもリューベンが語ったあの場面の美しさだけは、今も共有できていた。それを示す場面で終幕しました。いい戯曲だなぁとしみじみ感じ入りました。
 「死人に口無し」ということわざは、残酷だけれどもその通りだなと思います。死者はどうしても美化されるし、時には利用されてしまう。亡くなったその人を知る人々の心の中に、それぞれに違った像が残っているんですね。だからこそ、花びらが大量に舞うラストシーンは美しかったと思います。3人だけでなく観客も、リューベンの美しさを知る証人にしてくださいました。


 ≪終演後のトークイベント≫
 出演:遠藤雄弥、荒木宏文、もう1人(失念。今回の舞台には出ていないD-BOYSのメンバー)

 こういうイベントがあると「ああやっぱりスターさんなんだな~」と思いますね。D-BOYSの方々はバラエティー番組にもよく出てらっしゃるんでしょうか(知らなくってすみません)。当然、俳優だけをやってるわけんじゃないんですね。お笑い芸人のようなサービス精神のある方々で、堂々とファンの視線を受けとめる姿勢が立派だなと思いました。

"Our Bad Magnet" by Douglas Maxwell
出演:柳下大、遠藤雄弥、荒木宏文、瀬戸康史、陳内将、碓井将大、橋本汰斗、阿久津愼太郎
Reds:柳下大、遠藤雄弥、荒木宏文、瀬戸康史
Blues:陳内将、碓井将大、橋本汰斗、阿久津愼太郎
Whites:柳下大、碓井将大、橋本汰斗、瀬戸康史
Purples:陳内将、遠藤雄弥、荒木宏文、阿久津愼太郎
アンサンブル:秋月淳司 中村清一郎 星野伊織 小島和幸 平井琴望 松島蘭 都築保野梨 東まり
作:ダグラス・マックスウェル 上演台本:御笠ノ忠次、田中誠 演出:茅野イサム 音楽:笠松泰洋 美術:金井勇一郎 照明:林順之 音響:山本浩一 音響効果:青木タクヘイ 振付:本山新之助 衣裳:小原敏博 ヘアメイク:糸川智文 演出助手:則岡正昭 舞台監督:元木たけし 日本語訳:深井裕美子(ネスト) 劇中歌歌唱:広瀬奈緒 大道具:金井大道具(矢田英孝) 小道具製作協力:村上舞台機構 腹話術人形制作協力:川口新、Puppet House 特殊効果:特効 運搬:KUトランスポート ヘアメイク協力:BRIlLLIAGE、PINZORO スーパーバイザー:吉田正樹 票券:山口由佳子 宣伝:大澤剛 清水陽子 制作:永島智代 行元綾紗美 プロデューサー:渡部隆 主催・企画・製作:ワタナベエンターテインメント 総合プロデューサー:渡辺ミキ 
【休演日】4/16,23 プレミアム席:9500円/レギュラー席:7500円/ジーンズ席:3500円(全席指定/税込) ※未就学児入場不可 ※プレミアム席は、ステージ上に特設するステージサイド席、および最前列から5列目までのエリアのお席です。 ※ジーンズ席は、演出上、ステージの一部が見えづらい場合のあるお席です。
http://www.d-boys.com/d-boysstage10/

※クレジットはわかる範囲で載せています。順不同。正確な情報は公式サイト等でご確認ください。
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Posted by shinobu at 2012年04月14日 00:46 | TrackBack (0)