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Shinobu's theatre review
しのぶの演劇レビュー
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REVIEW

2012年05月05日

渡辺源四郎商店『翔べ!原子力ロボむつ』05/03-06ザ・スズナリ

 畑澤聖悟さんが作・演出される青森の劇団、渡辺源四郎商店の新作です。毎年ゴールデンウィークは東京まで公演をしに来てくださいます。“渾身のアトミック人情喜劇”の上演時間は約1時間30分。

 双子ロボットのユニゾンが素晴らしかったです。あれは萌えるっ(笑)。ロビーでこのロボットの人形(フィギュアと言ってもいいのかも?)が1体3,000円で販売されており、昨晩は2体セットで購入されたお客様がいらっしゃいました。 

 ⇒朝日新聞「核めぐる人情喜劇 10万年を視程に」※小さな舞台写真あり。
 ⇒CoRich舞台芸術!『翔べ!原子力ロボむつ』※こりっちでカンタン予約!

 タイトルとキャッチコピーの通り、原発問題を取り上げた作品です。青森の地元色全開で、親しみやすい可愛らしいギャグも多数。真っすぐなローカル性がグローバルたりえるのだな~と思いつつ鑑賞しました。
 衣裳と舞台美術が手軽そうなのが気にかかりました(木材の質感など)。ロボットもの(アニメや実写)を意識されたのか、音響効果に取ってつけた感があるんですよね。それもこれも演出意図だろうと思います。前回のアゴラ劇場では“敢えて”をそのまま受け入れられたのですが、ザ・スズナリだと私の感覚が違うのかもしれません。

 こうやって感想を書くために振り返ってみて、すごい脚本だとあらためて思いました。ロボットものSFで、人情ドラマで、気楽なエンタメ要素満載で、子供にも大人にもわかりやすくて。そして放射性廃棄物の処理という半永久的に続く重い責務について、私たちが次世代に押しつけた負の遺産について、しっかりと描かれています。

 町長の“お世話”をする双子ロボットを演じるのは三上晴佳さん(1号)と音喜多咲子さん(2号)。小柄な女性2人が声をぴったりそろえてセリフを言います。このシンクロ率の高さが気持ちいい!息の合ったロボットの演技を観たくて、2人の登場が待ち遠しかったです。

 ここからネタバレします。うろおぼえです。

 主人公は高レベル放射性廃棄物の処分場招致を決断した「南むつ町」の町長。無害化するまで10万年かかるという核のゴミの最期を見届けるため、自ら冷凍睡眠し、1000年後の青森で目覚めます。たび重なる地震と津波で日本は数十個の島に分裂し、青森は激しい内戦の末に日本から独立して“りんご王国”となっていました。研究者から「巨大ロボットMUTSU(むつ)により、廃棄物の処理は終わった(無害化した)」と聞き、町長は歓喜します。リンゴ王国は世界中の核廃棄物の受け入れを宣言し、処理の対価として大金を得て繁栄を極めていました。でも本当は、廃棄物をMUTSUの中に保存しただけでした。りんご王国は廃棄物からさらに猛毒のアズマシウムという物質を抽出し、武器利用していました。つまりMUTSUは兵器でもあったのです。

 町長の身の回りの“お世話”をする双子ロボットの本来の仕事は、核廃棄物の“お世話”。つまりMUTSUの体内に貯蔵されたゴミの、サビを取ったり温度管理をしたりというルーティンワークです。でもそれは10万年続ける必要があります(ただしアズマシウムは無害化に5億年かかるという設定)。町長は双子ロボットの助けをかりて、1000年ごとに未来を見に行くことにしました。“りんご王国”がほろび“いか王国”となっていたり(間に“にんにく王国”が数年)、氷河期が始まっていたり、ついには人類が滅亡して違う生物が生まれていたり…。たどりついたのは5万年後。その時には双子ロボットのエネルギーも尽きていました。
 そこで「まだ5万年だよ…」と、聞こえてきたのはMUTSUの声。「いつか空を飛びたい」という夢を胸に、MUTSUはただひたすら時が経つのを待ち続けていました。ほそぼそと自然エネルギーを蓄えつつ…。

 「人は夢(幻想)がないと生きていけない」って、使い古されたフレーズだと思っていましたが、今は心底そのとおりだと感じています。先日(2012年5月1日)の朝日新聞朝刊・耕論「いま、ここにある憲法」で東浩紀さん(⇒twitter)が「幻想なしに人は生きていけない」と明言されていて、うんうん、とうなづいたところでした。MUTSUの「飛びたい」にもそれを見出しました。

 ※双子ロボット以外は衣裳がほぼ普段着で、未来の場面ではブローチやヘアバンドをつけて変化をつけただけでした。おそらく「すべては町長が(夜寝てる時に)見た夢だった」という枠組みも残す演出なのだろうと思います。


 ≪ポスト・パフォーマンス・トーク≫
 出演:多田淳之介 畑澤聖悟 聞き手:工藤千夏

 畑澤「昨年の震災以降、よく“がんばれ東北”と言われるが、青森県で被災した地域は一部。たとえば青森市内は全く被災地ではない。でも30キロ県内には六ヶ所村の再処理施設がある。そのことを考えたい。」
 多田「(お芝居の中で)未来へと進んで人類が滅んだ時、『人類が滅んだならもう廃棄物の管理はしなくていいんじゃないか。放射能に強い生物がその後に繁栄すればいいし』と考えた自分がいたのが面白かった。自分は人類のことばかり考えているってことに気づいて。」

 多田「僕はロボットの役を演じたことがあって、その時に気づいたのは、ロボットの行動は俳優の行動と同じだということ。演じた2人の感想を聞いてみたい。」

≪青森、東京≫ 第15回公演
出演:工藤由佳子 高坂明生 三上晴佳 山上由美子 工藤良平 柿崎彩香 宮越昭司 牧野慶一 音喜多咲子 斎藤千恵子(PAC) 北魚昭次郎 山田百次(劇団野の上)
脚本・演出:畑澤聖悟 音響:藤平美保子 照明:浅沼昌弘 舞台美術・宣伝美術イラスト:山下昇平 宣伝美術:工藤規雄(Grif inc.) 衣裳:五十嵐千恵子 プロデュース:佐藤誠 ドラマターグ・演出助手:工藤千夏 舞台監督:工藤良平、三上晴佳 制作:西後知春、秋庭里美
前売一般3,000円、学生2,000円、高校生以下500円
当日一般3,300円、学生2,300円、高校生以下800円
http://www.nabegen.com

※クレジットはわかる範囲で載せています。順不同。正確な情報は公式サイト等でご確認ください。
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Posted by shinobu at 2012年05月05日 13:37 | TrackBack (0)