REVIEW INTRODUCTION SCHEDULE  
Shinobu's theatre review
しのぶの演劇レビュー
mail
REVIEW

2012年06月27日

新国立劇場演劇『温室』06/26-07/16新国立劇場小劇場

 イギリスの劇作家・詩人のハロルド・ピンターの戯曲を桃園会の深津篤史さんが演出されます。高橋一生さん、段田安則さんら7人のキャストによる不条理劇(たぶん不条理劇に入ると思うのですが…)。上演時間は約1時間50分。

 怖かった~!意味わからない~!けど、面白い!ストーリーも結末も確かにあるのですが、何が本当で嘘なのか、実はヒントが全然ないような…。でも面白かったんです。山中崇さんが素晴らしかった!

 ロビーで戯曲の文庫本が発売されていたので購入。他にもピンター関連の書籍は充実していました。ありがたいですね。
 家に帰って気になるところをパラパラと読んでみたんですが…私のような素人にはどう読むのか見当もつかないというか…やはり深津さんは凄い演出家だと思います。当日パンフレットに深津さんの稽古場の様子について書かれています。ご興味わいた方はぜひ。

ハロルド・ピンター (1) 温室/背信/家族の声(ハヤカワ演劇文庫 23)
ハロルド・ピンター
早川書房
売り上げランキング: 81576

 ⇒12/06/11 新国立劇場「温室」稽古場レポ
 ⇒CoRich舞台芸術!『温室

 ≪あらすじ≫ 公式サイトより。(役者名)を追加。
 病院とおもわれる国営収容施設。クリスマス。
 患者6457号が死に6459号が出産したという、部下ギブス(高橋一生)からの報告に、驚き怒る施設の最高責任者のルート(段田安則)は、秩序が何よりも重要だと主張し、妊娠させた犯人を探し出せと命令する。
 そして、ギブスは犯人が見つかったと報告するが、事態は奇妙な方向へと動き出していく……。
 ≪ここまで≫

 細長い舞台の長い方の面を2方向から挟む、対面式の客席です。黒い(濃い灰色の?)床の上に真っ赤に塗られたモダンなデザインの家具が点在。床に近い方がちょっと黒ずんでるのが凝ってますね。黒い空間にグロテスクな赤がぎらぎらしていて、怖い感じです。そしてお話も、ホラーではないんですが、怖かった!
 得体の知れないもの(ひと?)に支配されているらしき施設内で、それぞれに違う目的を持っていそうな人々が、どう見ても通じ合えていない会話をし続けます。疑念、軽蔑、反目、殺意、それらに対する不安や恐怖、開き直りなどの人間らしい感情が、くるくる入れ替わるように現れて、消えて…突然脈絡なく違う話題に飛んだり、いないはずの人と目が合ったり…先が全く予想できなくて、スリリングでわくわくしました。 
 座席によって見えるもの、見えないものがありそうですが、それも意図だろうと受け取れる、動的な演出でした。舞台美術と照明のコンビネーションが大胆。

 セリフの意味や内容は、それを語る人物の思いと一致するとは限らないことがよくわかる演技、演出でした。起こっている出来事と話される言葉のギャップが刺激的で、その裏を読んだり、深読みをしたりして、常に集中して観ていられました。

 ギブス(高橋一生)と対立するラッシュ役を演じた山中崇さんがすっごく良かったです。反応が自然で鮮やか。常に他人を小馬鹿にしたような態度に出る、生意気でへそ曲がりな若者像はとても魅力的でした。だからこそルート(段田安則)とギブスと3人でいる場面で、おびえたり、迷ったりするのが愛らしい。長い独白のシーンでは、激しく動き回りながら、2役を演じるようにある人物(患者6457号の母)との会話を再現していました。見た目に面白い上に内容もはっきり伝わり、ラッシュという人物を通じて“施設”の内情も透けて見えました。動いていく家具や小道具と関わっていくのも良かったです。

 ここからネタバレします。 セリフは正確ではありません。

 舞台中央が大きなお盆になっていて、照明は四角いブロックの模様を描くように床全体を照らしています。お盆が回ると家具と役者さんも回りますが、床の模様は動かないので、家具と人だけが勝手にスライドしているような錯覚を覚えます。「私は君(=ギブズ)が今立っているところに立っていたんだ!」と堂々と言い放ったルートが、実際はゆーっくり回っている(ギブズの立っているところに立っていない)のがとても滑稽でした。
 壁が全くなく、他の空間にいるはずの人物と見つめ合ったり、聴こえるはずのない声に耳をすませたりします。境界が曖昧で、存在が不確か。でもその不確かなモノやコト、いないはずの人の影響を大いに受けて、誰もがコントロールされているような空気が常に漂っています。
 長方形の舞台の客席に面していない方の2面は、大きな鏡で閉じられており、家具や役者さんが映っています。合わせ鏡になっているので、このお芝居のような出来事が無数にあり、無限に続くように想像できました。

 患者の部屋の鍵を管理している若い男性ラム(橋本淳)が、ギブスとカッツ嬢(小島聖)の実験台になって電気ショックを受け廃人状態になります。彼が椅子にだらりと腰掛けて、ずーっと舞台上に居続けるのは象徴的ですね。たまに声を出したり、他の人物と顔を合わせたりして、座っているだけの彼が他者に影響を与えていることも明示されます(戯曲には書かれていないことだと思います)。
 ギブスは最初、「患者6459号を妊娠させたのはラムだ」とルートに報告しますが、“本省の役人”ロブと会った時は、「患者6457号を殺したのも6459号を妊娠させたのもルートだ」と言います。ルートら“専門職員”を全員殺したのはおそらく患者たちで、「患者らが部屋から外に出られたのは、鍵の管理人ラムが休んでいたせいだ」とも。
 ロブが、ニヤニヤと頻繁に笑いながら、「何もかも知っていた」「すべて計算通りだ」といわんばかりの態度だったのは恐ろしいですね。でもギブスの報告だって、本当かどうかわからないと思います(すべてロブとギブスの策略だった?実は誰も死んでいない?)。何かが起こったのは確かだけれど、誰がやったのかは明らかにならない。そして誰も責任を取らない。私はどうしても昨年の原発事故と重ねてしまいます。

 そういえば冒頭でギブスとルートは、23日の木曜日に死んだとされる患者6457号のことを、“若白髪で小柄で少しびっこをひいた男”だと話していました。半海一晃さん演じるロブは、まさにそんな男だったような…?怖っ!(これも戯曲には書かれていないことです)

Harold Pinter's "Hothouse"
[JAPAN MEETS… ─現代劇の系譜をひもとく─]Ⅵ
出演:高橋一生 小島聖 段田安則 山中崇 橋本淳 原金太郎 半海一晃
脚本:ハロルド・ピンター 翻訳:喜志哲雄 演出:深津篤史 美術:池田ともゆき 照明:小笠原純 音響:上田好生 衣裳:半田悦子 ヘアメイク:川端富生 演出助手:川畑秀樹 舞台監督:加藤高 プロンプ:北澤小枝子 制作助手:井上舞子 大道具:俳優座劇場舞台美術部 森島靖明 小道具:高津装飾美術 吉坂隆 特殊小道具製作:土屋工房 土屋武史 主催:新国立劇場 制作担当:伊澤雅子 村本千晶
【発売日】2012/04/21 A席5,250円 B席3,150円 Z席 1,500円
http://www.nntt.jac.go.jp/play/20000443_play.html

※クレジットはわかる範囲で載せています。順不同。正確な情報は公式サイト等でご確認ください。
~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~

★“しのぶの演劇レビュー”TOPページはこちらです。
 便利な無料メルマガも発行しております。

メルマガ登録・解除 ID: 0000134861
今、面白い演劇はコレ!年200本観劇人のお薦め舞台
   
バックナンバー powered by まぐまぐトップページへ
Posted by shinobu at 2012年06月27日 10:43 | TrackBack (0)