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Shinobu's theatre review
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2012年07月14日

こまつ座・ホリプロ『しみじみ日本・乃木大将』07/12-29彩の国さいたま芸術劇場大ホール

 井上ひさしさんの1979年初演戯曲を蜷川幸雄さんが演出されます。「井上ひさし生誕77フェスティバル2012」も半ばを過ぎましたね。初日を拝見しました。上演時間は約2時間40分(途中休憩15分含む)。

 お芝居でこんなに軽~い気持ちで笑ったのは久しぶりだったかも~(笑)。朝海ひかるさん、香寿たつきさんがお好きな方は必見かと!⇒初日の感想ツイート

 ⇒CoRich舞台芸術!『しみじみ日本・乃木大将

 ≪あらすじ≫ 公式サイトより
 明治天皇大葬の日の夕刻。大帝に殉死することを決意した陸軍大将乃木希典が、夫人の静子様と共に、自邸の厩舎の前で3頭の愛馬に最後の別れを告げている。そこへ、出入りの酒屋の小僧が現れ、この家の書生になることを志願する。実はこの少年、かつて日露戦争で乃木の軍にいて戦死した兵士の忘れ形見で、その後乃木本人とも因縁浅からぬ関係ができていたのだ。
 一行が立ち去った後、夫妻のただならぬ様子に異変を感じた愛馬たちが、突如として人の言葉を喋りだす。そしてあろうことか、3頭それぞれが前足と後足に分裂し、併せて6つの‘人格’ならぬ‘馬格’となって動き出したのだ!勝手気儘に語りだす愛馬たちに、やがて近所で飼われている2頭の牝馬も加わり…
 ≪ここまで≫ 

 俳優が馬の脚を演じるのですからコメディーなのだろうと予想はしていましたが、まさかここまでとは!(笑) 最初は、有名俳優がとことん“馬”鹿を極める、はちゃめちゃのドタバタ喜劇に少々ひるみもしたのですが、実は明治時代の日本(軍)を超~過激に風刺する構造だとわかり、さすがは井上ひさし戯曲…!と唸りました。天皇と乃木大将の主従関係は、乃木大将を主人とする馬の脚たちの関係と同じです。馬の脚が語るのは当時の庶民らの本音。軍人だけでなく庶民もちゃんと登場させているんですね。

 舞台の額縁を覆っていたのは定式幕。上演中は舞台奥の大きな幕をカーテンのように上下(かみしも)に移動させて場面転換します。舞台上でどんどん衣裳を着替えて、大道具、小道具の移動も役者さんがされて、ペープサートのような手作り感も盛り込み、劇中劇であることを前面に出していました。アドリブ(と思わせる演技)が派手で面白い!役者さんが客席を向いて話す時は、客席の照明をすごく明るくして、観客に参加を促しているようでした。
 爆笑・苦笑の連続の中に、日本兵が“神軍”となっていくきっかけ(仕掛け)を、わかりやすく、大胆に示されました。迷いなく、鮮やかに、ぐんぐんと前へと運んでいく演出の力強さは、蜷川さんならではだと思いました。

 ここからネタバレします。

 香寿さんと朝海さんという元宝塚女優による、堂々たるデフォルメ宝塚(男役)なんて豪華すぎる!ゆえに、ものすごく滑稽!!2人で登場すると必ず拍手が起こるぐらいになっちゃって、私ももれなく拍手!!あー楽し過ぎた(笑)。
 2人が演じる元帥が、乃木大将の個人的エピソードを利用して、日章旗(連隊旗)を天皇(=神)であると洗脳する手段にしたことも、笑いを存分に引き出す演技で伝えていきます。とても巧みだと思いました。

 役者さんは軍服やドレス、和服を着ていても、下半身がぬいぐるみの馬になっているので、日本昔話などでよくある「たぬきが化けそこなった姿」のようで(笑)、おどけたムードと可愛らしい印象、さらには間抜けにも見えるのが良かったです。それでも明治天皇(大石継太)と皇后(根岸季衣)が登場すると、なぜか緊張してしまう私…。これもまた洗脳なのかもしれません。

 鎖国が解けて江戸時代から明治となり、急激な近代化を迫られた日本人は、何を信じて何を目指して生きて行けばいいのかわからなくなったんじゃないでしょうか。なんだか今の私と重なります(昨年の震災で日本は変わったと思うので)。日本政府は日本兵に指針を示すべく、お手本として乃木大将とその夫人を選んだ、そして皆で一斉に“型”を演じていたのだ…とする井上さんの鋭い筆。皇后発案のあんぱんを、勲章のように恭しく胸につけまくる軍人らは滑稽ですが、私たちも似たようなことをやっているのでしょうね。

 誰もがある型を演じることで、常識や社会通念などは形作られていきます。旗を守るために死ぬとか、天皇が死んだら自分も死ぬとか、そんな“型”を信じ込ませ強制したことは恐ろしいことです。ただ逆に、そういう理念がまるでないことも、人間が生きることを困難にするようにも思います。今の日本はそういう状態にある気がします。

 初日の時点ですが、日本の童謡の替え唄を歌うところは、まだまだ改善の余地ありかなと思いました。観客も一緒にノリノリで観ていられる場面になるのかも。

≪埼玉、大阪、新潟≫ 井上ひさし生誕77フェスティバル2012 こまつ座&ホリプロ公演
出演:風間杜夫 根岸季衣 六平直政 山崎一 大石継太 朝海ひかる 香寿たつき 吉田鋼太郎 大川ヒロキ 都築香弥子 岡部恭子 荻野貴継 浦野真介
脚本:井上ひさし 演出:蜷川幸雄 音楽:朝比奈尚行 美術:中越司 照明:服部基 音響:井上正弘 衣裳:宮本宣子 ヘアメイク:佐藤裕子 演出補:井上尊晶 舞台監督:濱野貴彦 主催:こまつ座/ホリプロ/公益財団法人埼玉県芸術文化振興財団
【休演日】7/17,24【発売日】2012/05/12(全席指定・税込)S席:8400円 A席:6300円 B席:5250円
http://www.horipro.co.jp/usr/ticket/kouen.cgi?Detail=179
http://www.saf.or.jp/arthall/event/event_detail/2012/p0712.html

※クレジットはわかる範囲で載せています。順不同。正確な情報は公式サイト等でご確認ください。
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Posted by shinobu at 2012年07月14日 17:15 | TrackBack (0)