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しのぶの演劇レビュー
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REVIEW

2012年09月18日

NODA・MAP『エッグ』09/05-10/28東京芸術劇場プレイハウス

 野田秀樹さんの新作です。リニューアル・オープンした東京芸術劇場の新しいプレイハウスでの初観劇となりました。上演時間は約2時間10分。前売り完売ですが当日券は毎回発売されます。※プレイハウスには立ち見席が90席あります。

 「“無知のベール”で日本映画について考える」というツイートまとめを見つけて共感したので、試しに「出演している俳優の知名度はわからない(誰も知らない)」つもりで観ることにしました。

 ⇒日経劇評「イメージが跳躍する演劇的交響楽」(内田洋一)
 ⇒CoRich舞台芸術!『エッグ

 ≪あらすじ≫
 オリンピック出場を目指している“エッグ”という競技の選手たちの控室。そこには試合開始前の競技場で「君が代」を歌う、大人気歌手の姿もあった。
 ≪ここまで≫

 トリッキーなストーリーを追いかけていくうちに、“エッグ”というスポーツの謎が解けていき、登場人物の正体も明かされていきます。大勢のアンサンブル出演者や、物と人をすばやく移動させてイリュージョンを生み出していく演出は、NODA・MAPおなじみですね。
 例えば椎名林檎さんの楽曲を歌手役が歌うなど、美術、衣裳、照明、映像、音楽、振付(群舞・ステージング)などのスタッフワークのひとつひとつは非常に凝っているのですが、突起物がにょきにょきとまばらに突き出ていているような印象でした。見かけは派手だけれど濃く深く交わってはいないように感じ、全体的に私には物足りなかったです。

 架空のスポーツ“エッグ”とその選手であるエッガー(エッグの選手)のことは、話が進むごとにますます解らなくなってきます。真相が明かされる時に、今の日本についての野田さんの考えが伝わって来て(勘違いかもしれませんが)、「あぁ、その通りだな」と思いました。作品にオンタイムの強い主張が堂々とあらわされていることが、野田作品の好きなところです。

 スポーツが生む暴力的な熱狂や歌による洗脳など、人間にしか作りだせない芸術的営みの、危険な方の側面が残酷に暴かれていくのですが、出演者の躍動する身体(=スポーツ)と人気歌手役のオリジナル楽曲(=歌)は、この舞台作品を構成する重要な要素であり、他にはない個性、魅力だと思います。“スポーツ”と“歌”の二面性がこのお芝居そのもので表現されているのが良かったです。

 出演者の中で印象に残ったのは仲村トオルさん。だってあのカラダ…!!

 ここからネタバレします。※これからご覧になる方はお読みにならない方がいいです。

 エッガーのユニフォームや歌手(深津絵里)の衣裳が未来的なので、近未来の話かと思いきや、実は1964年の東京オリンピックの時代、いや、1940年の幻の東京オリンピックの…と時はさかのぼっていきます。登場人物の時間は過去から未来へと時系列に進むので、逆行する複雑さが面白いです。
 脚本・演出の野田さんがストーリーテラーで、芸術監督(の愛人)役でもありました。この作品であらためて、新しくなった東京芸術劇場の芸術監督であると名乗りを上げられたのだと思いました。「寺山修司の幻の戯曲『エッグ』を上演する」という設定の劇中劇にもなっています。いわゆる演劇らしい枠組みがあるのも“劇場”をフォーカスしたためだと思います。

 十数個のロッカーを移動させる大人数によるステージングは、最初はわくわくしたのですが徐々に慣れました。半透明のビニールシートのカーテンが舞台を横切り、そのレールが垂直に交わるのは、まつもと市民芸術館の『罪と罰』と同じアイデアですね。ビニールに顔を押しつけてガス室のように見せる演出は、恐ろしいけど美しかったです。
 仲村トオルさんのボディービルダーのように鍛えられた体にびっくり!あの卵の競技にそれだけの筋トレが必要なのか…と、ある意味余計で(笑)、楽しい空想ができました。

 寺山修司さんは東北出身です。主人公(妻夫木聡)もまた東北から医師を目指して上京した若者でした。集団就職、集団嫁入り(?)など、東北の人材を中央が搾取していく戦後の様子が描かれました。“エッグ”の起源を探るごとに事実がねつ造されてきた経緯がわかり、なんと最後には満州国の731部隊の人体実験に行き着きます。日本が戦争に負けることを先に知っていて、早めに手を打って逃げ延びた人たちも描かれました。かたや敗戦間際に特攻隊になったり、自決させられた若者もいたのです。情報弱者を切り捨てる棄民の歴史は、今、まさに繰り返されています。つまりこのお芝居は、東日本大震災後の現在の日本のことなのだと思います。
 731部隊で人殺しをしていた張本人たちはうまく逃げおおせてしまいました。それを繰り返させてはいけない、身代わりの犠牲を出させてはいけないと思います。毒を撒き散らした人たちを裁判にかけなければいけません。また同じことが起こらないためにも。

第17回公演
出演:妻夫木聡、深津絵里、仲村トオル、秋山菜津子、大倉孝二、藤井隆、野田秀樹、橋爪功
アンサンブル出演(50音順):上地春奈/秋草瑠衣子/伊藤昌子/大石貴也/大石将弘/大西智子/川原田樹/菊沢将憲/木村悟/久保田武人/黒瀧保士/河内大和/後藤剛範/後藤陽子/近藤彩香/佐藤ばびぶべ/佐藤悠玄/下司尚実/白倉裕二/竹内宏樹/冨永竜/永田恵実/西田夏奈子/野口卓磨/萩原亮介/深井順子/的場祐太/三明真実/柳沢友里亜
脚本・演出/野田秀樹 音楽/椎名林檎 美術/堀尾幸男 照明/小川幾雄 衣裳/ひびのこづえ 音響・効果/高都幸男 振付/黒田育世 映像/奥秀太郎 美粧/柘植伊佐夫
【発売日】2012/07/21 全席S席9,500円/A席7,500円/サイドシート5,500円(25歳以下3,000円、要身分証)/高校生割引1,000円(対象公演限定、事前申込制、要学生証)
http://www.nodamap.com/productions/egg/index.html

※クレジットはわかる範囲で載せています。順不同。正確な情報は公式サイト等でご確認ください。
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Posted by shinobu at 2012年09月18日 17:11 | TrackBack (0)