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2012年09月21日

アミューズ/プラグマックス&エンタテインメント『阿呆の鼻毛で蜻蛉をつなぐ』09/21-30本多劇場

 THE SHAMPOO HATの赤堀雅秋さんの新作戯曲を河原雅彦さんが演出されます。初日昼間のゲネプロを拝見させていただきました。タイトルの『阿呆の鼻毛で蜻蛉をつなぐ』は「非常に愚か」という意味のことわざです(シアターガイド2012年10月号より)。上演時間は約2時間5分。

 河原さんがインタビューでおっしゃる通り「舞台は北関東あたりのどこか。毎日同じ人と顔合わせて、同じ店に通って、という閉鎖された街で起こる連続殺人事件の話」でしたが、東京在住の私にも他人事とは思えなかったです。言葉には出さない憤り、あきらめ、後ろめたさ、カラ元気といった、震災以降ずっと心の中に沈着している暗い部分を、登場人物たちが行動にあらわしてくれているようでした。

 ⇒イープラス「河原雅彦を直撃![インタビュー]
 ⇒+act(プラスアクト)「河原雅彦インタビュー
 ⇒CINRA.NET「赤堀雅秋と河原雅彦の初タッグ舞台『阿呆の鼻毛で蜻蛉をつなぐ』、本多劇場で上演
 ⇒下北沢経済新聞「下北沢で舞台「阿呆の鼻毛で蜻蛉をつなぐ」-演出は河原雅彦さん

 ★イープラスで当日引換の格安チケット取扱中!(9/23まで受付・対象ステージに制限あり)

【舞台写真(c)引地信彦】
ahou_hanage1.jpg

 《アフタートークショー予定》
 ・9月24日(月)19:00の回終演後
  登壇者:橋本淳・平田裕一郎・栁澤貴彦・瀧内公美・加藤啓・伊藤正之
 ・9月25日(火)19:00の回終演後
  登壇者:植原卓也・板橋駿谷・田島ゆみか・吉本菜穂子・駒木根隆介・市川しんぺー
 ・9月26日(水)19:00の回終演後
  登壇者:園子温(映画監督)、河原雅彦(演出家)、司会:徳永京子(演劇ジャーナリスト)

 園子温監督がお芝居のトークに出演されるとは!ぜひお話を伺いたいです。
 赤堀さんが脚本・監督される映画『その夜の侍』(主演:堺雅人・山田孝之)は11月17日からロードショー!⇒原作舞台レビュー

 ⇒公演公式ツイッター
 ⇒CoRich舞台芸術!『阿呆の鼻毛で蜻蛉をつなぐ

 ≪あらすじ≫
 関東のとある田舎町で連続殺人事件が発生。被害者遺族はじめ住民らは進展しない捜査にいらだつが、手がかりは現場に落ちているネジだけだった。
 ≪ここまで≫

 病院の一室、スーパーマーケットの店員控室、常連客ばかりが集まるスナックなど、小さな具象空間が建て込まれた舞台。その部屋たちの間を1本の細いコンクリートの階段が通っています。階段の上にはゴミが放置されたようなさびれた道路があり、田舎らしく沿道には木々が茂っています。

 どこもかしこも行き止まり感ただよう舞台は、私にとって現在の日常と重なります。刃物による無差別(と思われる)殺人が次々と起こっているのに、なぜか当事者意識を持てずにのらりくらりと表層的な会話ばかりで、日々をやり過ごしてしまう人々。無理やり大声で笑ったり、大げさにはしゃいだりするのは、八方ふさがりで無力感にさいなまれる現状をなんとか生き抜くために、不器用ながらも必死で自分なりの処世術を選んでいるのだと思いました。

 幕切れの言葉が残した余韻が長く続きました。あの言葉の意味は何だったのかと、劇場を出てからも考えをめぐらせました。大洪水の予言、何度も響いたあぶくの音、そして冒頭に語られたあの哺乳類のこと。パンフレットによると、赤堀さんは以前に劇団で上演した作品をもとに書かれたそうですが、やはり震災後を生きる私たちに向けた新作なのだろうと思います。

 若い登場人物を演じる方々は映像方面で人気の役者さんのようです。ゲネプロの時点ではまだ、1人ひとりが自分の役を演じるのに精いっぱいのようでした。徐々にお芝居全体を担う存在感を出していかれるといいですね。出演者の中ではスナックのママ役の吉本菜穂子さんが際立って良かったように思います。

【舞台写真(c)引地信彦】
ahou_hanage2.jpg

 ここからネタバレします。セリフなどは正確ではありません。

 照明と映像で光を当てる空間を区切って場面転換します。クロスワードパズルの映像からタイトルが出る演出が面白かったですね。ナイロン100℃公演のように、舞台上の役者さんの動作と映像のコンビネーションが見られました。

 自分の子供が生まれることを素直に喜べなかった若い刑事が、「子供を生んでくれ」と妻に言えるようになったのは、不慮の事故で亡くなった先輩刑事(市川しんぺー)の言葉があったからなのでしょう。こんな日本でも「子供を産んで増やして繁栄する」という命の肯定です。

 父親(伊藤正之)にスパナで頭を殴られて入院していた春彦(橋本淳)は、近い未来に大洪水が起こって人類は絶滅し、選ばれたツガイだけがノアの方舟に乗って生き延びられる…と予言めいた嘘を吹聴していました。彼こそが連続殺人犯で、被害者はいつも年配の女性。幼い自分を捨てて蒸発した母への愛憎のあらわれだと思います。彼が崇拝に近いあこがれを抱いているのがクジラ。父親に首を絞められながら、「お母さん!お母さん!」と叫び、やがて彼は頭上を悠々と泳ぐクジラの姿を見ます。彼が「クジラ!」と叫んだ時、他の登場人物たちも上空を見上げました。クジラの黒い影が舞台を覆い、終幕。

 おかしな外科医(加藤啓)はじめ日常に絶望した人々には破滅願望があり、それが世界の水没という噂としてあらわれたのだと思います。クジラが頭上を通り過ぎたことで、劇場全体が海に沈んだようでした。でも海はすなわち命の源であり、母です。どん詰まりの世界が大水に覆われて文字通り息苦しくなったはずが、同時に胎内のぬくもりに満たされ、自然の恵みに抱かれているようにも感じました。
 劇場を出た時、空が晴れていることに驚いた自分がいました。ずっと雨が降ってると思っていたから。

出演:植原卓也(若い刑事)/橋本淳(春彦・入院中)/平田裕一郎(母を殺されたプータロー・一美)/柳澤貴彦(晴彦の友人・百姓・スナックのママの弟)/板橋駿谷(警官)/田島ゆみか(若い刑事の妻・妊娠中・スナックの店員)/瀧内公美(一美の妹・スーパーのアルバイト)/加藤啓(外科医)/駒木根隆介(浮き輪をした万引き犯)/吉本菜穂子(春彦の父の恋人・スナックのママ)/市川しんぺー(ベテラン刑事)/伊藤正之(春彦の父・スーパーのアルバイト)
脚本:赤堀雅秋 演出:河原雅彦 美術:秋山光洋 照明:佐藤啓 音響:大木裕介 映像:ムーチョ村松+石田肇 衣裳:髙木阿友子 ヘアメイク:山本成栄 演出助手:原育美 舞台監督:津江健太+至福団 演出部:梶原顕/金子晴美/小宮山実侑 照明操作:田中稔彦 音響操作:桜井有未 映像助手:手代木梓 映像操作:林雄大 衣裳進行:山中麻耶 運搬:マイド アクション指導:前田悟 小道具製作:清水克晋 小道具:高津映画装飾/天野雄太 大道具:C-COM舞台装置/櫻井俊郎、唐崎修  美術工房 拓人 宣伝デザイン:山下浩介 宣伝写真:引地信彦 当日運営:半田桃子 制作:多田里奈/重田知子 プロデュース:西山由紀子/佐々木康志 主催:アミューズ/プラグマックス&エンタテインメント
8月18日発売 全席指定 前売5,500円、当日5,800円(税込)
http://www.amuse.co.jp/stages/ahounohanage/


※クレジットはわかる範囲で載せています。順不同。正確な情報は公式サイト等でご確認ください。
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Posted by shinobu at 2012年09月21日 20:37 | TrackBack (0)