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2013年03月19日

【お知らせ】「SPT 09 特集 本棚のなかの劇場---「劇的なる本」235冊」に寄稿させていただきました

 世田谷パブリックシアターが発行する『SPT 09 特集 本棚のなかの劇場---「劇的なる本」235冊』(1000円、2013年3月末日刊行予定、発売=工作舎)に寄稿させていただきました。

 amazonでの内容紹介:平田オリザ、宮本亜門、串田和美など、演劇人65人余が選ぶ235冊のブックガイド。演劇を越えて、多彩なジャンルの本が並ぶ。

SPT 09 特集  本棚のなかの劇場---「劇的なる本」235冊

工作舎
売り上げランキング: 300,267

 登場する人々(情報提供:工作舎 ※あいうえお順):阿部初美 戌井昭人 岩井秀人 鵜山仁 江戸馨 江本純子 大堀久美子 岡崎香 岡本章 長田育恵 神里雄大 川村毅 木内宏昌 危口統之 北川大輔 北川陽子 木ノ下裕一 串田和美 倉持裕 黒澤世莉 桑原裕子 小池博史 坂手洋二 佐藤友紀 篠田千明 柴幸男 詩森ろば 白井晃 白神ももこ 杉原邦生 関美能留 高野しのぶ 高山明 田口アヤコ 多田淳之介 谷賢一 徳永京子 名嘉友美 長島確 中野成樹 中屋敷法仁 永山智行 ノゾエ征爾 野村政之 長谷川寧 畑澤聖悟 早船聡 平田オリザ 羊屋白玉 広田淳一 深津篤史 藤本真由 船岩祐太 古川貴義 堀川炎 前川知大 益山貴司 松井周 松田正隆 松本修 松本雄吉 丸尾丸一郎 三浦直之 三浦基 宮本亜門 明神慈 本谷有希子 安田雅弘 矢内原美邦 やなぎみわ 山崎彬 ジュンク堂書店池袋店演劇コーナー担当者 青山ブックセンター六本木店演劇コーナー担当者 下北沢B&B演劇コーナー担当者 紀伊國屋書店新宿本店演劇コーナー担当者 三省堂書店神保町本店演劇コーナー担当者


 まさに今ご活躍されている演劇人がズラリ!錚々たる顔ぶれです。同じ企画に参加させていただき、光栄至極です。
 刊行後、私が選んだ3冊とその紹介文をこのエントリーに加筆する予定です。
 ⇒加筆しました(2013年4月8日)。

【1】倉田百三著「出家とその弟子」(新潮文庫)

出家とその弟子 (新潮文庫)
倉田 百三
新潮社
売り上げランキング: 114,298

 浄土真宗の開祖である親鸞聖人とその息子や弟子たちが登場する、大正5年に書かれた長編戯曲です。歴史上の人物を描いた宗教文学にも分類されますが、時代背景や宗教の教義などを踏まえずフィクションとして読んでも差し支えありません。
 殺生をしなければ生きられず、姦淫をしなければ子孫を残せない。人間がそんな矛盾をはらんでいることに、僧侶たちは深く思い悩みます。息をすれば空気を汚し、恋をすれば誰かを傷つけ、仲間と集えば敵を作って争いを起こしてしまう。人類の歴史はその愚かな繰り返しです。私たち現代人も、思春期に差し掛かる頃に気づいて悩むことですよね。
 善く生きようとする人々の信念を根幹から揺るがす疑問に対し、親鸞は全てを受け入れ赦した上で、自分が犯した罪を告白しながら答えを説いていきます。せりふは極めて易しい日本語で書かれていて、ページをめくる度に瞠目させられ、慰められる至言の宝庫です。私は「己れの硬い心が他人を苦しめている」「人間を裁かず赦す」を座右の銘としています。
 劇作家の井上ひさしさんはこの世を「涙の谷」と呼びました。親鸞の息子のせりふにも「世界は悲しみの谷」とあります。それでも生まれ、生きる私たちにぴたりと寄りそって、同じ立ち位置から世を憂い悲しみつつ、ともに人生を歩んでくれる本だと思います。


【2】 如月小春著「俳優の領分―中村伸郎と昭和の劇作家たち」(新宿書房) 

俳優の領分―中村伸郎と昭和の劇作家たち
如月 小春
新宿書房
売り上げランキング: 265,636

 10年以上観劇を続けてきて、舞台上で役を生きる俳優を観たい(下手な俳優は観たくない)と強く望むようになった頃に、この本と出合いました。久保田万太郎、岸田國士、三島由紀夫、小津安二郎、そして別役実作品に出演していた1908年生まれの新劇俳優、中村伸郎の仕事の軌跡を軸に、戦中・戦後の日本の近代演劇について論考した名著です。著者は劇作家、演出家、劇団主宰者として1980~90年代の演劇界を牽引し、2000年に急逝した如月小春。現役の俳優、演出家にとって必読の書だと思います。
 私が欲している演劇は、岸田國士が「ただ人生の真理を語る活きた魂の、諧調(ハーモニー)に満ちた声と姿とがあるばかり」とあらわす、「純粋演劇」と呼ばれるものだとわかりました。実現するには、役の動作や感情を詳細に写し取る「写実演技」ができる俳優が必要なのですが、戦後の新劇の方向転換やアングラ演劇の新興などの時代の流れに阻まれて、その探究は頓挫し、今も中途半端なままです。
 「純粋演劇」を追求し続けた中村伸郎は「写実演技」を純化・深化させ、別役作品のような不条理演劇を「たたずまい」で成立させられる名優となりました。一観客のわがままですが、彼の後に続く俳優と、そんな俳優を欲する劇作家、演出家、観客が増えて欲しいと願っています。


【3】多田容子著「自分を生かす古武術の心得」(集英社新書)

自分を生かす古武術の心得 (集英社新書 429H)
多田 容子
集英社
売り上げランキング: 255,336

 剣豪が活躍する時代小説の書き手である筆者が、15年に渡る手裏剣術の稽古で得た技術と知恵を、「普通の人にできる武術」という観点から紹介する新書です。実体験をもとにした解説は丁寧でわかりやすく、体操の図解もあるので、すぐに実践できます。
 私事ですが、この本に従って自己流の体操をするようになってから、数年前に患った腱鞘炎が再発しなくなり、なんと肩こりと腰痛からも開放されました。「骨盤はいくつもの細かい骨から成り、それぞれが自由に動く」と意識しながら腰をほぐすことで、長時間の座り仕事で縮こまった体を、簡単に伸ばしてリセットできるのです。「全身の骨は全てバラバラである」という考え方がポイントで、「人間関係や、組織などの硬直化、疲労などにも応用できる」と筆者は言います。
 読み進めるだけで背筋が伸び、視界が開けて爽快な気分になるのも、この本の驚くべきく効用です。頭がすっきりするのは、「こうあらねばならない」という凝り固まった思い込みを覆して、冴えた感覚を取り戻させてくれるからだと思います。
 古武術は多くの感覚を同時に働かせることが上達の近道だそうで、それは俳優の演技にも当てはまるのではないでしょうか。師匠の指導方法と指導される弟子の心構え、その両者のコミュニケーションについての分析は、舞台の稽古場にも応用できそうです。


■高野しのぶ プロフィール
現代演劇ウォッチャー。ウェブサイト「しのぶの演劇レビュー」にて観劇感想文を発表し、お薦めの舞台を紹介する無料メルマガを毎月発行中(現在約1900部)。「CoRich舞台芸術まつり!2013春」審査員。


※クレジットはわかる範囲で載せています。順不同。正確な情報は公式サイト等でご確認ください。
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Posted by shinobu at 2013年03月19日 14:56 | TrackBack (0)