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2013年03月27日

【稽古場レポート】テアトル・ド・アナール『従軍中のウィトゲンシュタインが(略)』03/15都内某所

 作家・演出家・翻訳家の谷賢一さんが、哲学者ルートヴィヒ・ウィトゲンシュタイン(⇒Wikipedia)を題材にした自身の新作戯曲を演出されます。黒いスーツ姿の出演者5人が1列に並ぶチラシが素敵ですよね。 ⇒公式サイト ⇒公式ツイッター ⇒公式facebookページ
 読みものとしても面白い谷さんのブログ(関連エントリー⇒)をぜひどうぞ。 稽古場写真⇒

 恥ずかしながらウィトゲンシュタインどころか哲学全般について知識のない私ですが、戯曲を一読したところ、難解さは感じませんでした。稽古場で登場人物たちとともに言葉、運命、そして神について考え、悩み、“語りえないけど確かに存在するモノ”の気配をかすかに察知…できたような気がします。気のせいだったのかどうか、本番で確かめます!

 ■Théâtre des Annales vol.2 ⇒公式サイト 
 『従軍中の若き哲学者ルートヴィヒ・ウィトゲンシュタインがブルシーロフ攻勢の夜に弾丸の雨降り注ぐ哨戒塔の上で辿り着いた最後の一行“──およそ語り得るものについては明晰に語られ得る/しかし語り得ぬことについて人は沈黙せねばならない”という言葉により何を殺し何を生きようと祈ったのか? という語り得ずただ示されるのみの事実にまつわる物語』
  3/29(金)~4/7(日)@こまばアゴラ劇場
  全席自由3000円 ※上演時間は約1時間40分を予定。
  ⇒CoRich舞台芸術!『従軍中のウィトゲンシュタインが(略)』※こりっちでカンタン予約!
  ⇒リーディングイベントの動画(1時間24分)

 【写真↓左から:西村壮悟、榊原毅、井上裕朗、伊勢谷能宣 中央の後ろ姿:谷賢一】
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 とってもとっても長い題名に書かれているように、舞台は「ブルシーロフ攻勢の夜」。つまり時は第一次世界大戦中の1916年6月、場所は現在のウクライナ西部地方の戦場です。オーストリア帝国陸軍に配属された哲学者ルートヴィヒ(西村壮悟)は、兵営の一室で、戦争について、命について思索を巡らせながら、イギリスにいる大学時代の親友ピンセントに手紙を書いています。そのすぐ隣では、同じ小隊に所属する粗野で乱暴な男たちが、賭けごとや娼婦の話ばかり。

 つかの間の休憩中に、小隊長のスタイナー軍曹(榊原毅)がやってきて作戦会議が始まります。今夜、高い哨戒塔に登って敵を見張るのは誰なのか。数十万といわれるロシア軍を前に哨戒塔に登ることは、すなわち死を意味するかもしれない。それなのに、自分が登ると志願する兵士がいて…。

 【写真↓左から:西村壮悟、伊勢谷能宣、榊原毅、井上裕朗】
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 演出の谷さんは饒舌です。“ダメ出し”というより、俳優全員にシーン全体の把握を促す講義のよう。比ゆも交えながら歴史的背景を丁寧に解説し、兵士たちの心境を共有していきます。
 :開戦から4年間で1000万人もの人間が死んでいる。そんな世界に“神”はいるのか?…という問いなんだよね。

 私は約6時間ほど見学させていただきました。同じ場面を何度も何度も繰り返し、集中して重ねた時間の分だけ、空気の厚み、重みが増していきます。演じるごとに一歩、一歩、確実にレベルアップできるのは、力のある役者さんが揃っているからでしょう。
 :自分に自信を持ってセリフを言えたら、動けたら、それでいい。細かいことは関係ない。体で、心で、脈拍で、考えて欲しい。人間は、ある目的を達成するために行動を起こす。言葉より行動なんだよね。そして手段は無数にある。それぞれの生き方が、語られることなくあらわれるといいなと思います。

 【写真↓左から:伊勢谷能宣、井上裕朗】
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 本番2週間前の段階で、「ある若い哲学者の兵隊時代の物語」の面白さが難なく伝わる完成度でした。戯曲には、エピソードをわかりやすく伝える以外の仕掛けが用意されており、物語の枠に収まらない加筆も検討中とのこと。舞台上の俳優が物語の当事者として、演技と言葉を尽くし、ふと訪れた沈黙の中に、ウィトゲンシュタインの哲学が浮かび上がるのではないか…そう期待しています。

 【写真↓:西村壮悟】
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 ★先日のアトリエ春風舎でのトーク(関連リンク⇒)に出演された、ウィトゲンシュタイン研究の第一人者である鬼界彰夫さんの書籍「生き方と哲学」を、谷さんが紹介してくださいました。一般読者向けに書かれたもので、私でも理解できる平易な言葉で書かれています。

生き方と哲学
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鬼界 彰夫
講談社
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 稽古場にはウィトゲンシュタインに関する書籍が多数揃っていて、貸出自由になっていました。
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稽古場写真:藍田麻央
※私が見学した日は山崎彬さんがお休みだったため、山崎さんの役は谷賢一さんが演じてらっしゃいました。
Théâtre des Annales vol.2
出演:伊勢谷能宣(ベルナルド)、井上裕朗(カミル)、榊原毅(スタイナー)、西村壮悟(ルートヴィヒ)、山崎彬(ミヒャエル) 
脚本・演出:谷賢一 舞台監督:川田康二 照明:松本大介 美術:土岐研一 WEBデザイン:仮屋浩太郎(HiR design)  WEB作成:三浦学 宣伝美術:今城加奈子 写真撮影:引地信彦 ドラマトゥルク:野村政之 制作:小野塚央 赤羽ひろみ プロデュース:伊藤達哉 企画制作・主催:テアトル・ド・アナール、ゴーチ・ブラザーズ 協力:DULL-COLORED POP、青年団
【発売日】2013/02/23 整理番号付き自由席 前期(3月31日まで)3000円/当日券 3300円/U25 2500円後期(4月7日まで)3500円/当日券 3800円/U25 3000円未就学児童は入場不可。
http://www.theatredesannales.info/
http://www.komaba-agora.com/line_up/2013/03/theatredesannales/

※クレジットはわかる範囲で載せています。順不同。正確な情報は公式サイト等でご確認ください。
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Posted by shinobu at 2013年03月27日 18:25 | TrackBack (0)