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Shinobu's theatre review
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REVIEW

2013年05月23日

Bunkamura/フジテレビジョン/A4A『VOCALOID OPERA「THE END」』05/23-24 Bunkamuraオーチャードホール

 昨年、山口情報芸術センター[YCAM]で世界初演された『VOCALOID OPERA「THE END」』が東京でも上演されることに!

 山口には観に行けなかったので高いけどチケットを買いました。チェルフィッチュの岡田利規さんが、ヴォーカロイド「初音ミク」が主演する“オペラ”の脚本を書くというだけで、私にとっては必見だったからです。音楽に疎いので渋谷慶一郎さんのことはお名前しか知らず。すみません。

 音楽、電子音のセリフ(歌詞)、そして3D動画。オーチャードホールで、とても奇妙な感覚を味わいました。上演時間は約1時間30分。

 ロビーにミクの大きなフィギュアが↓。“等身大”と言っていいのかしら(笑)。⇒渋谷さんとミクのツーショット
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 ⇒CoRich舞台芸術!『VOCALOID OPERA「THE END」

 「初音ミク」とはコンピューターのソフトウェアの製品名(およびキャラクター名)。メロディと歌詞を入力すると、人間のように歌ってくれるんです。擬人化されて、もはや世界的アイドルになってるんですよね。は~…今更ですが時代を感じます。私もニコニコ動画でミクを使った音楽動画を観ていた時期があったので、ある程度の前知識はありました。

 字幕読みつつ音楽聴きつつ映像見つつ。計4面使う映像は凄いのでしょうけど、映像に詳しくない私には「凄い」のかどうかはわからない…。ミクは可愛いかったです。擬人化されたソフトウェアが「私は死ぬの?」と自問する設定も面白いと思いました。

 岡田利規さんのテキスト(歌詞)を読む(歌う)のが、初音ミクなどのソフトウェアなので、声は電子音なんです。明らかに人間の声ではないのに、言葉が岡田さんらしくて、でも空気は全く岡田さんっぽくない。岡田さんの小説が棒読みされてるようで面白く感じる時もありましたが、基本的に意味(気持ち)が受け取りづらかったですね。インタビュー↓で渋谷さんが「モノオペラ」とおっしゃっていたのには納得でした。

 ミクが着てる服がルイ・ヴィトンの服そのものだったのには驚きました。ルイ・ヴィトンのショーウィンドーに展示されているのを、ミクが着てるんです(細部までそっくりではないでしょうけど)。
 ⇒Sumally「Hatsune Miku Opera "THE END" アイテム
 そのせいで作品全体がルイ・ヴィトンのCMのようにも見えてしまって…。私は作品を作品として鑑賞できてなかったかもしれません。Bunkamura入口には、この公演のポスターとともに高級車のレクサスが展示されていました。最初に“広報宣伝”のイメージが刷り込まれてしまったせいもあると思います。

 偶然一緒に観た人の感想を聴いて、ある程度疑問は氷解しました。乱暴ですが、「やはり“コラボ”は難しいよね」というところでしょうか。音楽寄りの土俵で演劇の持ち味が消えてしまったというのか。

 ここからネタバレします。お話の内容は全然わかってないと思います。

 ミクの他にはミクそっくりの生き物(ミク2とします)と、二頭身の兎みたいなのが登場。ミクとミク2の問答がまどろっこしい!(笑)ここにチェルフィッチュっぽい間や抑揚が欲しかったな~。
 話す(歌う)内容を入力されないと、ミクは言葉を発しない。だから音を発してない時はミクが短く死んでる時。兎はその入力をする生き物、つまり渋谷さんなのかな?兎とミクが一体になる時、ミクは完全になる。だがそれは、ミクは単体だと不完全であることの証明にもなる。「永遠に終わらない歌を私に入力して」的なことを言ってたような…うろ覚えですが、好きでした。

 【2013年5月25日に加筆】一晩考えて突然(やっと)気づきました。ミク2は死(死神?というより死する者[モータル]。つまり匂いを放つ「人間」)だったんですね。ミク2がミクに死の可能性を伝えたことで、ミクは死について考えることから逃れられなくなります(ここの会話がホントまどろっこしい・笑)。「自分はいつか死ぬ」と思うことで、ミクは「今、自分は生きている」と思うんですね。この気づきがミクに「生」を与えます。命は死があるから生きるんですよね。命を持つ者がそれに気づいた時、初めて生きることが始まります。「生きたい」という意志が生まれます。そして映像では、ミクが消えて、その代わりに化け物のような外見だったミク2が、可愛らしいミクへと変貌。死を受け入れた生は美しいんだと思います。生と死の物語というか、禅問答のようですね。
 一緒の回を観た友人が「音(音楽)も光(映像)もない時間を、もっと入れるべきだった」と言っていたことに同感です。「ミクは生きてるのか、死んでるのか」を問うならば、この作品自体が「今、上演(演奏)されているのか、いないのか」がわからなくなるような、“何もない(かのような)時間”がもっとあって良かったと思います。それは演劇的な考えなんでしょうね。演劇は存在自体が禅問答のようだとも思います。【ここまで】

 終盤に流れた、きれいに韻を踏む歌詞の歌は、本当に岡田さんのテキストなのかな~と思うぐらい、なんだかキャッチーでした。でもその歌はとても良かったです。ミクの姿が消える時に、わざわざ床を上げて幕自体を観客の視界から見えなくするのには驚きました。彼女は映像だから、「完全に消す」にはそうするしかないのだと納得。最後の最後、足元にビリビリと振動が来る音響効果も良かったです。

 ルイ・ヴィトンに寄って、外から写真を撮ってきました。この勢いと行動力、我ながら凄い。
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 色違いだけどそっくりなんですよね。ハイヒールや頭のリボンも。
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 緑のワンピースがすっごく可愛かったな~。ミクにとっても似合ってた~♪(←バカ) ちょっと欲しくなっちゃったな~(私がマイクロミニ着たら犯罪)。
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出演:渋谷慶一郎 / 初音ミク コンセプト:渋谷慶一郎 / 岡田利規 音楽:渋谷慶一郎 台本:岡田利規 / 渋谷慶一郎 共同演出:渋谷慶一郎 / YKBX / 岡田利規 映像:YKBX 舞台美術:重松象平 音響プログラム:evala 音響:金森祥之 照明:伊藤雅一 ボーカロイド・プログラム:ピノキオ P テクニカル・サポート:筒井真佐人 プログラム制作協力:高橋正教 / 吉田恭之 舞台監督:尾崎聡 ヘアメイク:加茂克也(mod's hair) キュレーティング、スーパーヴァイザー:阿部一直(YCAM) 制作進行:渡辺綾子 (A4A) プロデュース:東市篤憲 (A4A) キャラクターデザイン:YKBX 主催:「THE END」制作実行委員会 企画制作:Bunkamura / フジテレビジョン / A4A 協賛:株式会社グランマーブル / レクサス 衣装協力:ルイ・ヴィトン 特別協力:クリプトン・フューチャー・メディア 機材協力:KORG 協力:ATAK / precog 製作:A4A 山口情報芸術センター[YCAM]委嘱作品 2012
プラチナ席(プログラム付) 10,000円/S席 7,500円/A席 5,000円
※プラチナ席をご購入のお客様は、当日プログラム売場にてチケットをご提示の上、お受け取りください。
http://theend-official.com/
http://www.fujitv.co.jp/theend/

※クレジットはわかる範囲で載せています。順不同。正確な情報は公式サイト等でご確認ください。
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Posted by shinobu at 2013年05月23日 23:02 | TrackBack (0)