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Shinobu's theatre review
しのぶの演劇レビュー
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REVIEW

2013年11月27日

tg STAN『Nora ノーラ』11/27-28あうるすぽっと

 「現代イプセン演劇祭」が開幕しました。上演される6作品の題材がすべて『人形の家』という潔さ。『人形の家』初演は1879年です。もはや130年以上前ですね。

 トップバッターは演出家不在で俳優だけで創作するベルギーの劇団tg STAN(ティー・ジー・スタン)の『ノーラ』。上演時間は約2時間10分。英語上演。

 すごく面白かったです!衣装、美術、照明、音楽はシャープかつ洗練。出演者は4人だけ。自然な演技で観客にも話しかけますし、ダンスや身体表現もあり。とにかく、演技が、巧いです。俳優の生理に嘘がない、説得力のある『人形の家』でした。

 なんと明日14時の回で千秋楽です…ご都合のつく方はぜひ。

 ⇒takenaka kyoko web「tg STANに学ぶ演劇における「詩」の絶対領域」(2014/02/17加筆)
 ⇒CoRich舞台芸術!『tg STAN「Nora ノーラ」

 ≪作品紹介≫ 公式サイトより
 ベルギーアントワープの劇団・初来日。演出家を置かず、役者間の徹底したディスカッションで芝居を作るのを特徴としている。2012年オスロでのインターナショナルイプセンフェスティヴァルでオープニングを飾った作品。フランダース、オランダにおいて今年のベスト10に選出されている。現代的セット、激しいダンス、ランク・クログスタ、リンデ夫人・乳母の一人二役、誰一人舞台を去らず着替えまで見せる。又、この作品は我々に、初演の1879年以来、本当に女性の地位が変わったであろうか、と問いかけている。
 ≪ここまで≫

 ロビー開場は上演の30分前ですが、客席の開場は10分前です。役者さんが舞台上と客席に板付きだからですね。ノーラ役の女優さんが明るく積極的に観客に話しかけます。とても魅力的な方です。

 『人形の家』は数バージョン拝見してますが、今回もまたいろんな発見がありました。テーマは「女性の自立」と言われる戯曲ですが、女性に限らず「人間の自立」と受け取れました。

 照明器具そのものが舞台美術になっていて、すごくかっこよかったです。形がそろった灯体が複数設置され、同じ色合いで光を放ちます。左上の奥から斜め下に射すもの、バトンにきれいに整列するように吊られているもの、天井のかなり高い部分に横一列に並んでいるもの等、照明のグループが複数あるような感じ。舞台だけでなく劇場空間全体を使ったお芝居でした。

 【舞台写真 tg STAN. 写真: Magda Bizarro (公式サイトから勝手に拝借)】
tg_STAN_Nora.JPG

 ここからネタバレします。セリフは正確ではありません。

 衣装がおしゃれ!特にノーラの服はいわゆる現代の一流ブランドの商品のよう。たしか「ドリス・ヴァン・ノッテンで買った」って言ってたような。ベルギーですしね。ハイヒールはドルチェ・アンド・ガッバーナだったかしら…うろ覚えです。タランテラを踊った夜の場面のひだ付き変形スカートも素敵でした。色は蛍光の朱色で無地。トップスは黒のタンクトップです。
 ※ハイヒールはヴェロニクブランキーノのデザインだったようです。やはりベルギーなんですね。2日目をご覧になった方から教えていただきました。ありがとうございました。(2013/11/29加筆)

 ノーラは夫に内緒でニルスから大金を借りていました。そのニルスから脅されて、ノーラの幸福な日常に今までには全くなかった恐怖が入り込んできます。それまでは客席も明るく照らし、物語と客席がシームレスにつながっていたのですが、丸い大きな照明器具が突然、舞台左上の天井からぶら~んと垂れ下がってきて、光の線が空間を横切っていくと同時に、何やら部品がはずれて床に転がり音をたて、空気が一変します。私は普通に驚いて、何らかのハプニングかと思ったんですが、あれが演出だったならすごくかっこ良かったな~。

 ニルスとクリスティーヌが再会し復縁を決断する場面が素晴らしかったです。クリスティーヌは病気の母と2人の弟を養うため、ニルスを振ってお金持ちと結婚しました。でもその夫が3年前に死に、母も亡くなって弟たちも自立したことから、抜け殻のようになっていたのです。クリスティーヌは昔の恋人ニルスに「溺れかけた者同士で助け合って生きていこう」と提案します(つまり復縁)。でもニルスはにわかには彼女を信じられません。当然ですよね。

 クリスティーヌの真意を探るかのごとく、又は甘えてもいいかどうかを試すために、奇妙に体をくねくねさせながら、ニルスは恐る恐る、クリスティーヌの体に触れ始めます。徐々に2人は体を互いに巻き付け合うようになり、とうとうニルスがクリスティーヌを抱きかかえたり持ち上げたりして、無言のアクロバティックな身体表現に。美しいとはいえない、むしろ不恰好な組み体操のような演技でしたが、不器用な2人にぴったりで、彼らが全身全霊でコミュニケーションをしていることがよく伝わってきました。やがて幕開けから仏頂面しかしていなかったニルスに初めて笑顔が浮かび、彼がクリスティーヌの愛情によって変化したことがわかります。ああ、奇跡が起きたんだなぁと胸打たれて素直に感動したんですが、ニルスの挙動がキモい系なので(笑)、泣きながら笑いました。ノーラは「素晴らしいことが起きなかった」から夫との離別を決めましたから、2つのカップルが好対照になってるんですね。

 家を出ると決めたノーラの「この国の法律では妻が夫の命を救うことが許されない。娘が父に心配をかけないようにすることも」というセリフには納得です。私が女性だからかもしれませんが、法律、政治、経済などの現代の「ルール」となっているシステムには、女性的な考えは反映されていないように感じています。

tg STAN ティージースタン(ベルギー)
特定非営利活動法人舞台21「現代イプセン演劇祭」
【出演】ノーラ:ヴィーネ・ディエリックス(Wine Dierickx) ノーラの夫:フランク・ヴェルクライセン(Frank Vercruyssen) ドクターランク、ニルス・クログスタッド:チアゴ・ロドリゲス(Tiago Rodrigues) 女中ヘレナ、クリスティーヌ・リンデ夫人:ヨレンテ・デ=ケースマエカー(Jolente De Keersmaeker)
前売り一般:5,000円 当日一般:6,000円 学生:3,000円 ※舞台21のみ取扱 豊島区民割引:4,500円  ※あうるすぽっとチケットコールでのみ取扱/在住・在勤 要証明書提示
http://www.norway.or.jp/norwayandjapan/culture/literature/ibsenfestival2013/
http://www.owlspot.jp/performance/131127.html

※クレジットはわかる範囲で載せています。順不同。正確な情報は公式サイト等でご確認ください。
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Posted by shinobu at 2013年11月27日 22:00 | TrackBack (0)