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しのぶの演劇レビュー
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2013年12月22日

新国立劇場演劇研修所第7期生試演会②『華々しき一族』12/20-23新国立劇場小劇場

 新国立劇場演劇研修所第7期生の2度目の試演会は、森本薫作『華々しき一族』を文学座の西川信廣さんが演出。AキャストとBキャストのダブルキャスト公演です。上演時間は約2時間10分(途中10分の休憩を2回含む)。

 12/21(土)17時のAキャスト、12/22(日)17時のBキャストを拝見。男3人、女3人の6人芝居で、諏訪役(女役)を除く5人は違うキャストですので、全く違うお芝居になっていました。戯曲は青空文庫で読めます。23歳の時の作品だとは驚き。

 ⇒CoRich舞台芸術!『華々しき一族

 ≪あらすじ≫ 公式サイトより
 自然の美しさを保つように特に指定された、風致保存区域で暮らす一家族。老境に入った映画監督の鉄風と新進舞踊家の諏訪。この夫婦には、それぞれ連れ子がある。実務家の長男・昌允(まさたね)と活発な次女・未納(みな)は鉄風の、しとやかな長女・美伃(みよ)は諏訪の子供である。また鉄風の弟子で将来を嘱望されている映画監督・須貝もこの家に同居している。鉄風と諏訪が今最も望んでいることは、須貝のもとに未納か美伃のいずれかを嫁がせること。しかし昌允の美伃に対する気持ちや、未納が抱く須貝への想いといった愛情関係の小さな波紋が、家族の心理に大きな変化をもたらしていく。やがて、芸術という虚構の世界に生きる「華々しき一族」の矛盾が露わになっていくのだがー。
 ≪ここまで≫

 『華々しき一族』は本当に面白い戯曲だと思いました。ほんの半日の間に恋の六角関係がこんがらがって、最後にはある決着を見ます。1935年に発表、1950年に文学座で初演された近代戯曲で、若い俳優には高度かもしれませんが、どの役も演じ甲斐があるしダブルキャストなら皆セリフが多いので、日本の俳優学校で採り上げるのにとても良い作品ではないかと思いました。

 Aキャストは全体的に演技が硬くて、何もかも振付どおりのように見えてしまいました。私が観た回が偶然うまくいっていなかったんだと思います。母役のデシルバ安奈さんは伸び伸びとされていて、お芝居のアンカー(碇)のようにずっしりとした存在感がありました。
 後から観たBキャストは、立ち位置や関係性もAキャストと異なっていました。役の解釈もそれぞれに違うんでしょうね。父役の野坂弘さんに何度も大笑いさせていただきました(笑)。
 A、B両バージョンについて「明晰な日本語を語る」訓練をしっかりされているように思いました。一音ずつ丁寧に発されると、私が日常的に使っている言葉とは違った響きがありますね。日本語をあらためて聞きなおす、味わいなおすような観劇体験でした。

 舞台美術のセンスが…よくわからなかったです。板が張り合わされた壁は灰色のグラデーションの色使いで、板と板の間に細いすき間のある大きなスノコが並んでいるよう。階段の手すりはベランダも室内も灰色のシャープなデザインです。透け感があって開放的で、泳げるぐらい大きな川のそばにある邸宅であることは想像しやすいと思いました。ただ、灰色の壁、階段、手すり、窓枠に囲まれた部屋にある家具や備品が、舶来の仰々しい木製のソファ、お酒やお茶を運ぶクラシックなワゴン、安っぽいテーブルクロス、壁掛けタイプのシンプルな照明器具などなんです。統一性がなくて「無数の選択肢の中から選び抜いた」とは思えませんでした。天井から垂れ下がった白い幕もどうなんだか…。私が美術家さんと相性が合わないのかもしれません(⇒たとえばこの公演)。衣裳も…次女・未納の和風ワンピース&サブリナパンツはどういう意図だったのかしら。

 ここからネタバレします。

 休憩直前の数分間を休憩後にも繰り返してから次へと進む演出でした。これは戯曲どおりなんですね。同じシーンを数分間繰り返すなら、繰り返すことで得られる効果があるのだろうと注意深く見て考えたんですが、ただの繰り返しにしか見えず…。テレビのバラエティー番組でコマーシャル直前の場面を再放送するのに似ていて、観ているのがつらかったです。素人考えですが、2度目はいっそのこと朗読風にしちゃったり、ランダムに動いてぐるぐる歩き回ったり、それにあわせて照明も遊んだりしても良かったんじゃないでしょうか。何らかの工夫や変化が欲しかったです。

 兄は血のつながっていない姉が好き、姉は須貝が好き、妹も須貝が好き。ここまでで四角関係です。実は須貝は母が好きだとわかって、それが父にばれて六角関係。一つ屋根の下で大事件(笑)。プラトニックな愛情表現が奥ゆかしくて、微笑ましくて、どきどきしてしまいます。

 【Aキャスト】
 母(デシルバ安奈)の着物はしゃんとしていましたが、姉(岩澤侑生子)の着物はピシッと決まってなかったような…。あと、川で泳いで帰ってくる兄(吉田健悟)は、頭も体も濡れてなくて服も泳ぐ前と全く同じでした。なのにバスタオルをかぶって頭を拭く動作をしたり、くしゃみを頻繁にしたりするのは変だと思いました。そういう細かいところが気になってしまったのは、全体的に演技が硬かったせいだと思います。

 【Bキャスト】
 姉(安藤ゆかり)の着物はやっぱり母ほど決まってなくて…原因は着付けなのか着こなしなのか素材なのか…残念ながら私にはわからないです。元気で奔放な妹に対して、姉はおしとやかできちんとした女性のようなので、どうしても気になってしまうんだと思います。
 清潔感のあるハンサムな兄(長谷川直紀)が、実は思い込みが激しくて挙動不審なのが可笑しかったです。純粋で一生懸命で、それをさらけ出すから滑稽に見えて笑いを誘う演技が私は好きです。
 父役の野坂弘さんのとぼけた返答や突飛な怒りの表現、柔軟な間合いの取り方などから目が離せませんでした。登場する度に「何かやってくれるんじゃないか」と期待させてくれて、それに応えてくださいました。観客とのコミュニケーションに余裕があって、コメディーのセンスのある方だな~と感心しました。


新国立劇場ドラマスタジオ公演第7期生試演会②
出演A:デシルバ安奈(母)、岩澤侑生子(姉:美伃)、山下佳緒利(妹:未納)、峰﨑亮介(父)、吉田健悟(兄)、大塚展生(いそうろう須貝)
出演B:デシルバ安奈(母)、安藤ゆかり(姉:美伃)、押田栞(妹:未納)、野坂弘(父)、寺内淳志(いそうろう須貝)、長谷川直紀(兄)
脚本:森本薫 演出:西川信廣(新国立劇場演劇研修所副所長) 美術:石井強司 照明:川口雅弘 音響:信澤祐介 衣裳:中村洋一 ヘアメイク:我妻淳子 所作指導:樋口慶子 演出助手:チョウヨンホ(4期生) 舞台監督:米倉幸雄 演出部:川原清徳 大野雅代 池田碧代(8期生) 岡崎さつき/加茂智里/竹内香織/清水優譲/村岡哲至(9期生) 制作助手:内海咲紀 演劇研修所長:栗山民也 主催:文化庁/新国立劇場 制作:新国立劇場
A席:3,000円 B席:2,500円 学生割引(高校生以下)1,000円 Z席:1,500円
http://www.nntt.jac.go.jp/play/performance/131017_003461.html

※クレジットはわかる範囲で載せています。順不同。正確な情報は公式サイト等でご確認ください。
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Posted by shinobu at 2013年12月22日 23:31 | TrackBack (0)