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Shinobu's theatre review
しのぶの演劇レビュー
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2013年04月23日

劇団俳優座『とりつくしま』04/13-24シアタートラム

 東直子さんの同名小説の舞台化です。脚本、演出を手掛けたのは俳優座の眞鍋卓嗣さん。上演時間は約2時間30分(途中休憩10分を含む)。

 死者がモノにとりつくファンタジーで、とても面白かったです。照明などのスタッフさんに興味があったので観に行ったんですが、演劇ならではの効果を活かした直球のドラマに素直に感動。明日、4月24日(水)14:00が千秋楽です。

 ⇒毎日JP「舞台:俳優座・真鍋卓嗣が脚本・演出、「とりつくしま」上演−−東京・三軒茶屋のシアタートラム

とりつくしま (ちくま文庫)
東 直子
筑摩書房
売り上げランキング: 151,539

 ⇒舞台写真のスライドショー(2013/05/14追加)
 ⇒CoRich舞台芸術!『とりつくしま
 レビューは記録のみ。レビューを加筆しました(2013/40/30)。

 ≪あらすじ・作品紹介≫ 公式サイトより
 死んで心残りがある人は、
 この世のなにかモノを「とりつくしま」にできる。
 死んでしまったあなたに、「とりつくしま係」が問いかけます。
 心残りはありませんか?
 なにかモノにとりついて、
 一度だけこの世に戻ることができますよ。
 さあ、あなたはなににとりつきますか?
 大好きな人の?
 大好きな人のなににとりつきますか?
 でも、とりつくだけです。見守るだけですよ。
 切なくてちょっぴり苦い、不思議な物語。
 温かくて哀しくて、ほんの少しおかしくて、
 心に染みる東直子の人気小説をついに舞台化!
 ≪ここまで≫

 鉄パイプを組んだ2階建ての装置がステージの真ん中に建っています。左右の空間が空いているのですが、可動式の家具や半透明の白いカーテンを広げるので、演劇スペースとして悠々と使われていました。

 年相応の俳優がキャスティングされているのが、老舗の劇団ならではですね。登場人物それぞれがひとつのことを真っすぐに望んでいて、そのベクトルがぶつかったりすれ違ったりして生まれる純粋なドラマに胸打たれました。清らかな空気も良かったです。

 「八百万の神」という言葉があるように、日本人は「物に神(人・霊)が宿る」という感覚には慣れ親しんでいると思います。でもこの作品では、人の方から物になろうとして、物に近づいて行きます。すでに物の中にある霊を見つけるのではなく、霊の方から物に向かい、物の真似をするのです。そのアプローチがとても新鮮でした。

 ここからネタバレします。セリフは正確ではありません。

 とりつくしま係は“降ってくる声”を、ほうきとちりとりで集めていました。言葉を細かく分解した音が、劇場の色んなところで反射するように鳴り、エコーします。傘がたくさん出てくるので、雨粒が短い声とともに降ってきて、劇場がしっとりと湿っているようにも感じられました。

 ピッチャーがマウンドで使うロージン(粉が入った袋)になった母に、ピッチャーである息子の方から手を伸ばして、2人が手をつなぐのにグっと来ました。マッサージチェアーになった父が、スイッチを入れられて、誰も座っていないのに肩をもむ動作をしていると、チェアーを眺めていた娘が「お父さん、気持ちいい?」と尋ねます。娘は、亡くなった父がチェアーに座ってマッサージされているように想像していたんですね。父親が肩をもんでいるのに、揉まれているのも父親であるという、演劇ならではの演出のマジックが効果的でした。本気で和みました。

 病気で死んでしまった娘が、補聴器になってまで性格の悪い母親を見守ろうとするエピソードでは、母親は道端で補聴器を捨ててしまいます。この救いのなさ!素晴らしいわ~。上手最前列に座っていたので、床に転がってる2つの補聴器から目が離せなかったです。

 書家のエピソードでは半紙に墨、そしてビャクダンの扇子の香りが、私の中でずっとかぐわしく香っていました。昔、家族が自宅で書道教室をやっていたんです。熱心な書道の先生は向学のために中国に行くし、お土産にビャクダンの扇子を買って帰ってくるんですよね。

 若くして死んでしまった青年は、結局何にとりついたのかしら。私は電車になったんじゃないかと想像したんです。オープニングでミニチュアの列車が走っていたし、彼が周囲を見ながら走るマイムを続けていたから。彼が走りながら見つめていたのは、車窓からの町並みではないかと想像していました。

 最後は、5歳で死んでしまった子供がとりついた青いジャングルジムが出てくるわ、カメラが好きなおじいさんが望んでいたとおりに桜が咲くわ、サービスづくしのハッピーエンドでした。鉄パイプに青い照明が当たった時は、ヤラれたな~と思いましたね。こういう演出なら大団円でも感動できます。

※( )内は演じた役のヒントなど。
出演:阿部百合子(カメラになる祖母70代)、荘司肇(カメラを買った70代男性)、中吉卓郎(書家70代)、片山万由美(書家の妻・60代後半)、加藤佳男(マッサージ機になった父親・50代半ば・会社員)、斉藤深雪(マッサージ機がある家の母親・40代)、山下裕子(難聴の母親・60代)、河内浩(とりつくしま係)、清水直子(野球少年の母親・40代前半・野球のピッチャーが使うロージンになる)、佐藤あかり(難聴の母親の娘・補聴器になる・30代)、若井なおみ(書家に思いを寄せる若い女性桃子・16歳/30代)、野々山貴之(とりつくしまを決められない20代半ばの青年)、野上綾花(マッサージ機がある家の娘)、福原まゆみ(赤ん坊をだっこしてる若い母親)、田中孝宗(マッサージ機がある家の息子・新社会人・20代)、仙名翔一(野球少年) 伊藤悠翔(子役ダブルキャスト) 遠藤隼斗(子役ダブルキャスト)
原作:東直子(ちくま文庫刊「とりつくしま」より)  脚本/演出:眞鍋卓嗣 音楽:金剛地武志 振付:沢のえみ 美術:杉山至 照明:榊美香 音響:天野高志 衣裳:伊藤早苗 ドラマトゥルク:野村政之 演出助手:落合真奈美 舞台監督:宮下卓 グラフィックデザイン:阿部壽 イラスト:柳智之 Web協力:富澤玲子 制作:下哲也、高橋かずえ、水野陽子 主催:劇団俳優座
【発売日】2013/03/04 5,250円  学生 3,675円(学生証提示)
http://www.manabeck.com/toritsukushima/
http://www.haiyuza.net/%E5%85%AC%E6%BC%94%E6%A1%88%E5%86%852013%E5%B9%B4/%E3%81%A8%E3%82%8A%E3%81%A4%E3%81%8F%E3%81%97%E3%81%BE/

※クレジットはわかる範囲で載せています。順不同。正確な情報は公式サイト等でご確認ください。
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Posted by shinobu at 23:16 | TrackBack

文学座アトリエの会『十字軍』04/16-30文学座アトリエ

 『NASZA KLASA(ナシャクラサ)』で第20回読売演劇大賞最優秀作品賞(2013年)、最優秀スタッフ賞(島次郎)、芸術栄誉賞を受賞した文学座アトリエの会。新作は1988年に書かれたフランス戯曲の上演です。上演時間は約2時間5分、休憩なし。

 演出の稲葉賀恵さんは26歳。文学座で初演出なんですね。今後も観たいと思わせてくれる演出でした。

 ⇒産経ニュース「文学座 26歳の演出家 稲葉賀恵がデビュー 死者の目線で俯瞰する「十字軍」

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 ⇒CoRich舞台芸術!『十字軍

 ≪あらすじ・作品解説≫ 公式サイトより
 十字軍とは11~13世紀、西欧のキリスト教諸侯が聖地 エルサレムをイスラム教諸国から奪還することを目的に、8回にわたり派遣し た遠征軍のことである。
 1988年に書かれたこの作品は、アメリカ 同時多発テロ(2001年)を含めた今日の世界情勢を予見す るかのような作品であり、歴史上のあらゆる人間の愚行によ る犠牲者へのレクイエムであるかのようだ。
 作中に登場する“ めんどりおっ母”は少年十字軍に参加した14人の自身の子供 たちを探して1212年から歩き続けている。彼女は今日もどこかの紛争地を歩く。 そこには数多の死が横たわり、死者は彼女に語りかけてくる。 彼女は14人の母であると同時に犠牲者たちの母でもあるかのよう。 そして犠牲者たちを「あの世」から迎えに来るのはユーモアをたた えた老紳士と老婦人。2人は歴史を超越したような救いの世界を暗示する。
 作品はこうした時間を越えた世界に、今起こりつつある中東 と思しき戦場で生まれ育った若者たちの愛と戦いの物語を重ねて描く。 時に残酷な光景も透明で詩的な台詞で語られる。それは決して美化ではなく、 死を描く事で生を描いているのだ。老婦人の台詞「生きるも死ぬも喜劇みたいなもの。 悲劇にだけはしてはいけませんわ。」という言葉がそれを象徴している。
 ≪ここまで≫

 凄惨なエピソードがいっぱい。でも外部から静観する人物がいて、コミカルにも見せてくれます。

 四方を客席が囲む何もない正方形のステージ。革製の古い旅行鞄を色んなものに見立てます。パイプ椅子が並ぶ客席の中に、木製の椅子がチラホラ。芝居中に俳優が座って、ちょっと客いじりもあったりして、臨場感を出していました。照明で客席も照らすし、出ハケも色々工夫されているけど、1時間で飽きてしまったな~。文学座は劇団員ばかりの公演でも、俳優の演技方法が統一されていませんよね。引き込まれる演技と遠くから眺めるにとどまる演技が混在するので、集中が途切れてしまいます。ただの好みの問題なんですけどね。

 ここからネタバレします。

 死んだらすぐに立ちあがって死者を演じるのが面白いですね。

 妊婦になった女兵士(藤﨑あかね)と、胎児の父親(佐川和正)と、その友人(釆澤靖起)のエピソードがスリリングでした。

出演:坂口芳貞、中村彰男、沢田冬樹、佐川和正、釆澤靖起、倉野章子、山本道子、藤﨑あかね
脚本:ミシェル・アザマ 訳:佐藤康 演出:稲葉賀恵 美術:乘峯雅寛 照明:金英秀 音響効果:青木タクヘイ 舞台監督:寺田修 制作:白田聡 票券:最首志麻子 宣材デザイン:田部井美奈 後援:日仏演劇協会 著作権代理:㈱フランス著作権事務所
【休演日】22日(月)【発売日】2013/03/16 【料金】 全席指定 :前売 4,000円 /当日 4,300円
当日 4,300円 当日券は開演の3時間前より、03-3353-3566 (文学座当日券申込専用)でご予約を承ります。
ユースチケット 2,500円25歳以下/文学座のみの取扱い 
http://www.bungakuza.com/jujigun/index.html

※クレジットはわかる範囲で載せています。順不同。正確な情報は公式サイト等でご確認ください。
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Posted by shinobu at 17:01 | TrackBack