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Shinobu's theatre review
しのぶの演劇レビュー
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REVIEW

2014年02月22日

福島県立いわき総合高等学校演劇部『あひる月13』02/21-23王子小劇場

 いしいみちこ先生率いるいわき総合高校演劇部の新作です(⇒2011年のレビュー)。東京公演費用のクラウドファンディングに些少ながら参加させていただきました。上演時間は約1時間5分。前売り完売ですが当日券あるとのこと。

 ⇒「劇作家協会公開講座 2011年夏『大震災と演劇』」(2011年8月/いしいみちこさん登壇)
 ⇒石井路子「震災後、いわき総合高校で生みだされた演劇

 福島県立のいわき総合高校には「芸術・表現系列」というコースがあり、東北で唯一「演劇系」があるんですね。こちらの記事に詳しいです⇒「演劇教育の先端で何が起きているのか-いわき総合高校の試み」(前編)、(後編

 第58回岸田國士戯曲賞を受賞したばかりの飴屋法水さん作『ブルーシート』は、いわき総合高校の校庭でアトリエ公演として上演されました。

 3月には「I-Play Fes いわき演劇まつり」が開催され、『あひる月13』も上演されます。

 ⇒公演公式facebookページ
 ⇒東京新聞「福島・いわきの高校演劇部 震災後の葛藤描く「あひる月13」上演
 ⇒togetter「いわき総合高校演劇部「あひる月13」感想まとめ
 ⇒CoRich舞台芸術!『あひる月13

 ≪作品内容≫ 公式サイトより
 震災から2年が経って、「覚えていたいのに忘れていくこと」。忘れたくても忘れられない人、忘れたくない人、忘れたくないのに忘れちゃう人、いつの間にか忘れちゃう人、それによって巻き起こるいろいろ……、被災地の今をどこまで描けるか、描き続けられるかを作品にするため、生徒が本気で〈向き合い・考える〉ことで完成した作品。
 ≪ここまで≫

 3年1組の教室の風景を、現役高校生がのびのびと再現していきます。仲良しグループが複数形成され、やがてスクールカースト化していく学校生活の現実や、一人ひとりの通学環境にクローズアップした独白など、いわき総合高校の生徒の今がそこにありました。上記ツイートにもありますとおり、俳優が自立しているのが素晴らしいです。“高校演劇”であることがハンディキャップやエクスキューズにならない、大人の鑑賞に十分通用するお芝居でした。藤田貴大さんの『ハロースクール、バイバイ』を上演されていることもあってか(マームとジプシーの公演もいわきで上演されていますね)、リフレインの手法も採用されていました。

 2013年のいわきの今をお芝居にするには、当然ながら2011年の東日本大震災は避けられないんですね。記憶がおぼろげになって思い出せないこと、忘れられず心の傷になっていること、あらたに問題として表出してきたことなど、約3年を経たありのままの気持ち、事実が舞台に並べられ、中盤以降は落涙を止められず。

 ここからネタバレします。セリフ等は正確ではありません。

 2013年9月11日の教室。2011年4月25日に入学した生徒たちが今では3年生になっています。震災で突然に日常を奪われ、いやおうなしに変わることを強いられた高校生たち。おそらく実体験であるエピソードが紹介されました。おばあちゃんの家から通学するようになり、除染して灰色になった庭の土が好きになれない。立ち入り禁止区域に建っている大きな庭のある大きな家から新しい狭い家に引っ越して、不登校気味になってしまう。津波で川の水かさが激増するのを目撃して以来プールに入れない。魚屋さんが閉店し、スナックが増え、原発作業員の方々の住居が建ち、変わりゆくいわきの街。

 灰色の土に「制裁を加える」ために足でダン、ダン!と床を踏みつける動作がとても良かったです。心と動きが一体となっているから、胸に刺さるんですよね。「3年1組のこの教室」と言う時も、その場が本当にその教室なのだと信じられました。
 頻繁にスマホで写真を撮る男子(ひちわ)が、「自分は春から東京で暮らすから、いわきのことはいずれ忘れるかもしれない。でも、今まで支えてくれた人たちのこと、今もいわきでがんばってくれている人たち(原発作業員など)のこと、忘れていいの?それはないでしょ(忘れちゃだめだ)」と自問自答する姿(演技)も強く印象に残りました。


 ≪ポスト・パフォーマンス・トーク≫
 出演:いしいみちこ 端田新菜 出演者2人(ひちわ、ちゃんめい) 司会:園田喬し(演劇ライター/演劇ぶっく)

 いしい:被災の度合いの軽い人から元気になっていく。同じ被災地に暮らしていても分かり合えないのだと直面せざるを得ない。体験を共有できないことがつらい。これは深刻なことだと私は思っている。
 いしい:今回の作品のテーマは忘れること。忘れたくない、でも人間はそれにあらがえない。それは福島でも東京でもどこでも同じではないか。

 こういう演劇を発表することで誰かを傷つけるかもしれないとわかっていながら、それでも自分のできることはしなければという、いしい先生の勇気に深く感銘を受けました。


※あひる→数字の2の形/月→数字の0の形 /13→そのまま:2013年(震災から2年後)
出演:松本芽生 田中涼 青木愛 片寄真亜也 千色和希 高橋なつみ 飛知和寿輝 大蔵郁弥 西田藍 鈴木莉奈 屋代七海 渡部若菜 新妻宏恵 鈴木ゆうか 松澤和彦 桜井智恵理 原田麻穂 藤田南帆 油座すみれ 清野希望叶 大内透吾 星野ひまわり 鈴木卓巳 五十嵐緑樹 遠藤帆華 長谷川媛加 松本五月 矢数愛実 小澤奈津  草野和恵 里見梨央奈 助川咲 手塚彩乃 秋元菜々美 佐野晴香 薗部望美
原案:いわき総合高校演劇部 脚本・構成・演出:いしいみちこ 舞台監督/中西隆雄 照明/山口久隆(S-B-S)制作/服部悦子 詩森ろば 主催:福島県立いわき総合広告演劇部 企画公演実行委員会 演劇ぶっく+黒目写真館+針巻デザイン室 
一般2000円 高校生以下1000円
http://www.ahiru013.com/
https://www.facebook.com/ahiru013
http://www.enbu.co.jp/kick/event/index.html
http://blog.livedoor.jp/nikkann-iwaki/

※クレジットはわかる範囲で載せています。順不同。正確な情報は公式サイト等でご確認ください。
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Posted by shinobu at 2014年02月22日 21:47 | TrackBack (0)