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Shinobu's theatre review
しのぶの演劇レビュー
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REVIEW

2014年05月21日

◻︎字ック『荒川、神キラーチューン』05/14-25サンモールスタジオ

 □字ックは山田佳奈さんが作・演出・出演される劇団です。『荒川、神キラーチューン』は第8回公演で、新作です。上演時間は約1時間45分。

 「CoRich舞台芸術まつり!2014春」審査員として拝見しました(⇒92本中の10本に選出 ⇒応募内容)。※レビューはCoRich舞台芸術!に書きます。下記にも後日転載します。※転載しました(2014/05/22)。

 ⇒CoRich舞台芸術!『荒川、神キラーチューン

 ≪あらすじ≫ 公式サイトより
わたし(渋谷ショーコ)は、現在中学の教師をしている。
中学生だったとき、彼女は漫画家になりたかった。
だから毎日のように漫画を描いていた。
将来の夢は漫画家。でもなれなかった。

なりたかった職業に就く大人なんて、ほんの一握りだと思う。

結果わたしは、地味な大人になったが、
彼女は職場恋愛を経て結婚をすることになった。
教師同士の恋愛。肩身も狭く、周りの噂が耳に痛い。

ある日、自分のクラスのストーカーにあっている生徒が、
体育の授業を見学しまくっていることを知る。
同僚の体育教師とその生徒と話し合いを設けたのだが、
驚く言葉を言われてしまう。

「じゃあ、先生はわたしが殺されそうになったら、代わりに殺されてくれますか?」

これをきっかけに、
14年前、担任の先生が殺されて荒川の河川敷で発見されたこと、
あの日いなくなってしまったあの子のこと、
過去にフタをしていた様々なことを思い出さねばならなくなる。

現在の私と、14年前のわたし。
ねえ、ショーコちゃん。神様ってほんとうにいるのかな?
 ≪ここまで≫

 ■パワフルなJ-POPで暗い青春を駆け抜ける

 女性教師が14年前の中学3年生の頃を回想し、現在と過去の2つの時間を行き来します。いじめ、恋愛、殺人事件などの複数のエピソードが、こじんまりとした人間関係の中にギュっと凝縮されていました。犯人捜しや本音の探り合いにスリルがあり、中学時代の同級生たちの14年後の姿が見られるのも面白いです。それぞれのエピソードの顛末への興味も相まって、最後まで集中して拝見することができました。

 込み入ったお話ではあるものの、聞き覚えのあるJ-POPが元気よく流れる中、疾走感を保ちながら進んでいくので、この作品自体がひとつの楽曲であるかのように感じられました。ジャンルはたぶん現代の純日本製ロック・ミュージック。

 荒川の近くにある中学校の教室、会議室、そしてカラオケ店の個室という3つの空間が、立体的に建て込まれた舞台美術でした。特に舞台面から上手を通って舞台奥へと続く空間は物語に余白と開放感を与え、用途も多様だったのがとても良かったです。

 俳優の演技については、舞台上だけで完結して観客の方には意識を向けないタイプが多く、個人的には物足りなかったです。若いころの主人公役の小野寺ずるさんは、歌ったりしゃべったりしながら体を激しく動かす演技に見ごたえがありました。シンプルな意志が体と調和している状態は力強く、存在に説得力があります。

 ここからネタバレします。

 オープニングのラップで物語の主なトピックが語られ、主人公のショーコが2人いることを紹介する効果もありました。聞き取れないのでちょっと置いてけぼりになりましたが、アイデアにもやり切ったことにも好感を持ちました。2人のショーコが同時に存在したり、入れ替わった状態になるのは演劇ならではの手法だと思います。そういう場面をもっと増やしてもいいのではないかと思いました。

 舞台上手の上部に設置されたテレビ画面はカラオケルームの備品にもなり、文字映像も映されます。壁に映写する文字映像との合わせ技も見せてくれました。音楽、ダンス、映像、照明の動的なコンビネーションで、自然と体が動き出すようなライブ感を演出してくださいました。

 カラオケルームの場面では歌うだけでなく踊ったり、会話をしたり、そこに居るはずのない人物を登場させるなどの工夫はありましたが、少々退屈に感じました。やはりカラオケは知人同士で楽しむ空間なので、他人が上手に歌っていても、どんなにいい曲が流れていても、私は遠くから眺めるような状態になってしまうんですよね。

 中学三年生のショーコは両親が離婚したために転校し、転校先でいじめに遭ってしまいます。ショーコに優しくしてくれた女性教師が恋人に殺される事件が起こるのですが、犯人はショーコがよく行くカラオケ店の店員でした。さらに犯人は仲良くなった同級生シオリの彼氏(セックスフレンド?)でもあり、やがてシオリは転校してしまいます。シビアな展開ですが、10代の若者ならではの活力と軽やかさを前面に出す演出だったので、陰惨な空気が支配するわけではなかったです。

 14年経ち教師になったショーコは、同僚との婚約を機にシオリに連絡しようとネット検索をしたところ、なんと彼女が家庭内暴力を受けて死亡していたことを知ります。さらには婚約者が他校の女生徒をホテルに連れ込んで放尿写真を撮っていた証拠もつかんでしまいました。体育教師や生徒がいる前で、婚約者本人に向かって「学校の女子トイレを撮影していたのもあなたなの?」と問い詰める場面は、舌なめずりしたくなるほど迫力があってわくわくする修羅場!(笑) ただ、ぶちまけるだけぶちまけて、終幕してしまったのは本当にもったいないと思いました。大事件が起こった後の方が人生は過酷です。登場人物たちがどうやって生き延びるのかを、私は観たいです。

 修羅場といえば、ショーコをいじめていた森田ユカのエピソードも面白かったですね。森田はグラビアアイドルになり、クラスメイトだった小林の夫と不倫していました。小林は森田を呼び出して不倫の証拠写真を見せて、夫と別れるよう強く依頼するのですが、森田は開き直って「別れて欲しいなら金を払え」と催促します。女同士の売り言葉に買い言葉は、醜ければ醜いほど凄味があります。ただ、冷静に考えてみると現実味が薄い気もしました。森田は女優への転向を狙っているのでスキャンダルはご法度のはずです。森田が浅はかで愚かな性格だとしても、しおらしく謝って切り抜けるぐらいが適当ではないでしょうか。小林はカバンから包丁を取り出し、殺意満面で先に出て行った森田を追いかけて行ったようですが、これも先を描かず終えています。

 若いショーコは「神様なんていないよ」と何度も言っていました。多感な時期にあれほど辛いことや悲惨なことを経験してしまうと、そんな境地に至っても不思議はないと思います。でもそのセリフには「それでも何かを信じなきゃ生きていられない」という、すがるような思いも込められているように感じました。そんな一直線に伸びる何かが、この作品の芯にあるように思いました。

※劇団正式名称:◻︎字ック
第八回本公演 「CoRich舞台芸術まつり!2014春」最終選考作品
【出演】子供の渋谷ショーコ(14歳):小野寺ずる、現代の体育教師:日高ボブ美、ショーコの漫画好きの友達:山田佳奈(以上、□字ック)、大人の渋谷ショーコ(28歳ぐらい):円山チカ(劇団鹿殺し)、カラオケ店の店員:浅野康之(劇団鹿殺し)、渋谷の婚約者・数学教師:浅見紘至(デス電所)、渋谷のクラスメイト・将来はグラビアアイドルの森田ユカ:大森茉利子、渋谷が担任しているクラスの生徒・芸能活動中でストーカーされている:篠原彩、14歳の頃の渋谷のクラスの担任(カラオケ店の店員の恋人):堂本佳世、渋谷のクラスメイト・将来は先輩と結婚・森田ユカに寝取られる:増岡裕子(文学座/江古田のガールズ)、森田ユカのマネージャー:三上晃司、渋谷のクラスメイト(噂話が好き):吉留明日香、渋谷のことを好きなクラスメイトのシオリ(家庭内暴力を受けていて嘘ばかりつく):レベッカ
脚本・演出:山田佳奈 舞台監督:佐藤秀憲(ステージメイツ) 照明:大津裕美子(コローレ) 音響:ナガセナイフ  演出助手:石川葉月、大山あず紗 宣伝美術:大須賀裕美 宣伝・舞台写真:Pinco フライヤーモデル:後藤ユウミ 宣伝・舞台美術ディレクション:山田佳奈  Web:サイトウ QPOD:金田慎平  制作:宮原真理 当日制作:横井佑輔(犬と串)  企画製作:□字ック
【休演日】5/19(月)【発売日】2014/04/05 前売り\3000/学生¥2300(要学生証)・高校生以下¥800・リピーター割¥1500/当日\3200(全席自由) ★14-16日 19:30の回は早期割引で前売り\2700 ♀20日はレディースデー!女性のみ前売り\2700
http://www.roji649.com/

※クレジットはわかる範囲で載せています。順不同。正確な情報は公式サイト等でご確認ください。
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Posted by shinobu at 2014年05月21日 19:09 | TrackBack (0)