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Shinobu's theatre review
しのぶの演劇レビュー
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REVIEW

2014年06月13日

新国立劇場演劇『十九歳のジェイコブ』06/11-29新国立劇場小劇場

 1992年に46歳で死去した中上健次の小説『十九歳のジェイコブ』を、維新派の松本雄吉さんが演出されます。上演台本を手掛けたのはサンプルの松井周さん。不勉強で小説のことは知らなかったのですが、松本さんと松井さんがタッグを組む公演なので、どんな作品になるのか全く見当がつかないながらも、とても楽しみにしていました。上演時間は約2時間(休憩なし)。

 しょっぱなから最後まで、次々と魅せられ続け、集中が途切れませんでした。メインの俳優だけでなく、出演者が皆その場で活き活きしていて、ストーリーも刺激的ですごく面白かったです。性的な描写はけっこう際どいです。でもそうとわかっていれば大丈夫だと思います。演出方法がかっこいいんです!

 演劇ファン以外の方々にも興味を持っていただけたらいいなと思います。現代美術の展覧会を観に行く気分で、いかがでしょうか。ジャズだけでなく他の選曲も派手で引き込まれます。

 ⇒ぴあ+「松本雄吉インタビュー記事

 原作小説の文庫本がロビーで販売されていました。原作者のゆかりの地である和歌山県の名産品もいろいろ。目移りしちゃったな~。

十九歳のジェイコブ (角川文庫)
中上 健次
角川書店
売り上げランキング: 8,665

 悲劇喜劇2014年7月号に戯曲が掲載されています。これもロビーで購入可能。買ってちらっと読んでみたところ、戯曲と上演では違うところが多々ありました。

 ⇒CoRich舞台芸術!『十九歳のジェイコブ
 レビューはネタバレ前まで。

 ≪あらすじ≫ 公式サイトより
 19歳の青年ジェイコブは、ジャズ喫茶に入り浸り、セックスとドラッグに身を委ねる日々。
 家を、家族を憎むユキの「計画」を聞きながら、断ち切ることが出来ずにいる自分の過去と現実がいつしか混ざりあってゆく。
 自らの出生のカギを握る叔父・高木直一郎を訪ねるジェイコブ。その時、彼の内側でなにかが弾ける...。
 ≪ここまで≫

 原作は作者の自伝的要素も反映された小説で、時代は1960年代の日本(たぶん)。薬物を常用し、軽々しくセックスする退廃的な若者たちと、彼らを取り巻く人々が深く交わったかと思うと、すれ違っていきます。暗いムードで統一されているようで、実は意外なところで笑えるお芝居でした。映像と音楽、そして演技の兼ね合いによって、不思議にトボけた間(ま)が生まれることがあるんです。笑いのツボも、官能のポイントも、観客によって違うだろうと思います。

 舞台は基本的にブラックボックス。斜めに傾いている木製の長細い台を移動させて場面転換します。つなげると長い通路になり、台の板が宙に浮いた状態なので橋のようにも見えます。ベッドやテーブル、ベンチとしても使われますが、常に斜めになっているために抽象化され、色んな景色が見えてきます。さらに文字(言葉)、映像、音響(選曲や効果音)などが組み合わさって、総合芸術としての演劇の魅力がこれでもかというぐらいに発揮されている作品でした。中でも“照らす”だけでなく“作る”照明が素晴らしかった。光にごつごつとした実体を感じられるほどでした。

 俳優は心情と行動が一致する演技だけでなく、ダンスの振付のような動きもしますし、朗読するように語ったり、歌ったりも。4人でぴたりと同じ動きをして空気を変質させるなど、目が離せませんでした。
 今の若者がかつての熱さをコピーするなんてできないし、そんな必要ないんだと、腑に落ちました。日本人はすっかり変わりました。でも若者の憤りや、制御できない身体はギリシャ悲劇の時代から変わらないんだということも、感じ取れました。 

 ここからネタバレします(加筆予定)。セリフは販売されていた戯曲より引用。物語については、公演終了後に思い出したら加筆するかもしれません。


出演:石田卓也(ジェイコブ)、松下洸平(ユキ)、横田美紀(キャス)、奥村佳恵(ケイコ/ロペ)、有薗芳記(ジャズ喫茶の店長君原)、石田圭祐(高木直一郎)、西牟田恵(高木直一郎の妻、ほか)、中野英樹、チョウヨンホ、酒井和哉、山口惠子、新部聖子(大阪弁の少女ミオ) 声の出演:松角洋平 佐野陽一 日沼さくら 肖像写真:熊谷知宏
原作:中上健次 脚本:松井周 演出:松本雄吉 音楽監修:菊地成孔 美術:杉山至 照明:吉本有輝子 音響:渡邉邦男 衣裳:堂本教子 ヘアメイク:中井正人 映像:冨田中理 方言指導:森本祐司 アクション指導:渥美博 演出助手:野村政之 舞台監督:米倉幸雄 製作:新国立劇場 制作担当:茂木令子
【休演日】6/17,24【発売日】2014/04/06 A席5,400円 B席3,240円 Z席当日 1,620円
http://www.nntt.jac.go.jp/play/performance/140601_001634.html

※クレジットはわかる範囲で載せています。順不同。正確な情報は公式サイト等でご確認ください。
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Posted by shinobu at 2014年06月13日 15:26 | TrackBack (0)