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Shinobu's theatre review
しのぶの演劇レビュー
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REVIEW

2014年07月04日

ハイバイ『おとこたち』07/03-13東京芸術劇場シアターイースト

 ハイバイ本公演は『ある女』以来2年ぶりの岩井秀人さんの新作です。チラシのキャッチコピーは「舞台は地球、ヒト科オトコ類による性欲期から死期までの大河ドラマ!」。昭和から平成を生き抜いた男たちの人生の、いいところも悪いところもたっぷり見せてくださいました。コメディタッチで軽快に進みますが、後味はしみじみ、どっしり。

 チケット代は7/6までは前売3,300円、7/8~13は前売3,500円。これは…安いです。いい劇場で、大人が楽しめる丁寧に作られたお芝居を、お手軽価格で観られる“小劇場観劇”の幸せが味わえると思います。上演時間は約2時間。

 劇場ロビーで小説「ヒッキー・カンクーントルネード」(1500円)を購入。DVDなども充実していました。

ヒッキー・カンクーントルネード
岩井 秀人
河出書房新社
売り上げランキング: 30,142

 【舞台写真((c)曳野若菜 左から敬称略):菅原永二、用松亮、平原テツ、岡部たかし】
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 ⇒ローチケ「岩井秀人&菅原永二インタビュー
 ⇒CoRich舞台芸術!『おとこたち

 ≪作品紹介≫ 公式サイトより
 こんにちは、岩井です。
 今回はタイトル通り、男たちの話です。
 別に男に限った話にするつもりもないのですが、
 自分や自分の身の回りにいる人たちが、
 「なるべく今のままでいたい」と思いながらも、
 年月による色んな変化にはどうしても逆らえない、
 といった話になると思います。
 最近の身の回りのアホ話から、老後、死んじゃうまでを
 イェイイェイ描きたいと思います。

 岩井秀人
 ≪ここまで≫

 それぞれに別の道を歩んでいる幼なじみの4人の男性が、いつものカラオケボックスに集まって頻繁にプチ同窓会を開きます。お互いの近況報告がてら回想シーンが挟まれていき、マイクを持って誰かが演じている家庭生活を解説したり、回想シーンに居ながらカラオケボックスの人たちとアイコンタクトをしたり。ゆるりと劇中劇にもなっています。

 順風満帆なサラリーマンとそうでないサラリーマン、元テレビスター、居酒屋アルバイトという4人です。職種によって年収も人脈も異なり、既婚か子供がいるかどうか、そして不慮の事故や病気でも人生は大きく違ってきます。ランダムにつむがれる短編を眺めるように拝見し、引き込まれるような感覚はあまりなかったのですが、終盤に向かって散らばったパーツがギュっと集約されていき、懐かしい人気歌謡曲のサビに乗って、死とともにある平凡な生が、それぞれに悲しく輝いているように感じました。

 舞台は抽象美術です。ほぼ中央の面側にカラオケボックスのソファ&テーブルセットがあって、下手側にフローリングの床の正方形のスペース。その斜め上の上手側にもスペースがあって、奥には大きな壁がそびえており、三脚のイスをしまえる木製テーブルがあります。正面と上手、下手の3方向から舞台を囲む客席で、私は下手の舞台側に面した席でした。久しぶりに東京芸術劇場シアターイーストで役者さんを目の前で見て、やっぱりかぶりつきっていいなぁと思いました。舞台ならではの贅沢です。

 用松亮さんは、怖くてびくびく怯えて、泣き笑いする演技が魅力的。シラけた若者役も凄味があって良かったです。
 平原テツさんはけっこう体を動かす役で、アグレッシブで暴力的なのが良かったなぁと思いました。いつもあまり動かないイメージだからかな。マイクで戦隊もののテレビ番組のアナウンスのような、劇画っぽい語りをするのが面白かったです。

【舞台写真((c)曳野若菜 左から敬称略):安藤聖、岡部たかし】
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 ここからネタバレします。

 2人で話す場面では、ただ自然に向き合って会話するのではなく、2人きりにしては不自然なぐらい広く距離を取って、双方が違う方向を向いたままであることがしばしばありました。幅も高さもある空間がうまく使われていると思いましたし、客席に向かって語り掛けているように見えたり、2人とは違う人物の言葉に聞こえるなど、他の可能性も想像できてよかったです。
 喪服姿の山田(菅原永二)と森田(岡部たかし)が、ぐるぐると舞台の周囲を歩いて回る時、徐々に段差の昇り降りで足がもたついたり、腰が曲がって来たりするので、彼らが年を取っていくことがわかりました。口調が若者のままで、年齢が変わっていくのが面白いです。年齢は舞台奥の大きな壁の右上に数字で表されます。

 津川(用松亮)の人生は波乱万丈でした。テレビのスターだったのに酒を飲み過ぎてそそうをしでかして業界を追い出され、たばこの不始末で家を失い、奇跡的に助かってからは新興宗教に入信。教団の大切なものをトイレに流してしまって逃走し、最後は肺水腫で死亡。遺体がトラックの荷台で発見され、そこで暮らしていたことが判明します。

 【舞台写真((c)曳野若菜 左から敬称略):平原テツ、菅原永二】
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 若い女性(安藤聖)と浮気していた夫(岡部たかし)に対して、見事に三行半を突きつけたのに、妻(永井若葉)は結局離婚をしなかったという謎。人間は一筋縄ではいきませんね。妻は年老いてがんを患い、毎晩悪夢を見るようになります。夢の中で彼女を襲う怖い人とはつまり夫のことでした。鈴木(平原テツ)は製薬会社で必死で働いて出世して妻と息子を養ってきたのに、定年退職してからは、家で家族に無視されたり嘲笑されたりする苦痛の日々。彼の葬儀で判明するのですが、実は妻と息子を罵倒し暴力を振るうDV夫として君臨していたのです。一緒に暮らす最も身近な家族が、最も恐ろしい敵なんですね。こういう家族、あると思います。

 苦情受付の部署で働き続けた山田(菅原永二)は、認知症になって老人ホームに入ります。本当は82歳だけど50~60歳の気分。介護士の男性を死んだ友達だと思って話しかけたり、友達の経験を自分の人生のように語ったりします。他の3人の人生が山田の中に集まっていくようでした。もしかしたら3人は山田の想像上の人物なのかも?いや、4人全員が「おとこ」という1つの種を表すものだったのだ、と考えました。

 カラオケで歌われる回数が一番多かったのはこの歌。最近ASKAさんが逮捕されたこともあり、歌詞がいっそう胸に沁みます。

[MV] 太陽と埃の中で / CHAGE and ASKA

 追いかけて追いかけても つかめないものばかりさ
 愛して愛しても 近づくほど見えない

 ≪おまけ≫
 サラリーマン(菅原永二)がデリヘル嬢(安藤聖)を呼ぶのに寝ないのは、岩井さんが内田慈さんと共演したドラマ24「リバースエッジ 大川端探偵社」もそうでしたね。あの回は切なくて良かったです。

※舞台写真は劇団より提供。
≪東京、福岡、愛知≫
出演:鈴木の妻、森田の浮気相手など:安藤聖、テレビ番組の監督、電車で席を譲る若者:岩井秀人、居酒屋でアルバイトする不倫夫の森田:岡部たかし、コールセンターで定年まで働き、認知症になって入院する山田:菅原永二、森田の妻、良子:永井若葉、製薬会社サラリーマン鈴木:平原テツ、元子役スターで後ほど火事に遭い宗教に入信する津川、鈴木の息子:用松亮
脚本・演出:岩井秀人 舞台監督=谷澤拓巳・上嶋倫子 舞台美術=秋山光洋 照明=松本大介 照明操作=榊美香 音響=中村嘉宏 音響操作=高橋真衣 映像=トーキョースタイル 衣裳=小松陽佳留 衣裳演出部=熊井絵理 演出助手=郷淳子 記録写真=曵野若菜 WEB=斎藤拓 宣伝美術=土谷朋子(citron works) 票券=冨永直子(quinada)・吉田直美 制作=藤木やよい 富田明日香 西村和晃 プロデューサー=三好佐智子(quinada) 
【休演日】7/7【発売日】2014/05/10 全席指定 7月3日~6日:前売3,300円/当日3,800円、8日~13日:前売3,500円/当日4,000円 学生2,500円(要身分証)、高校生以下1,000円(劇場窓口のみ、要身分証)
http://hi-bye.net/2014/04/21/3916

※クレジットはわかる範囲で載せています。順不同。正確な情報は公式サイト等でご確認ください。
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Posted by shinobu at 2014年07月04日 01:40 | TrackBack (0)