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Shinobu's theatre review
しのぶの演劇レビュー
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REVIEW

2014年09月28日

世田谷パブリックシアター『炎 アンサンディ』09/28-10/15シアタートラム

 カナダの劇作、演出家ワジディ・ムワワドさんというと、2010年にSPACで拝見した『頼むから静かに死んでくれ』がすごく面白かったんです。だからムワワドさんの戯曲『炎 アンサンディ』がシアタートラムという小劇場で、麻実れいさん主演、上村聡史さん演出で上演されるのは私にとってビッグニュース。メルマガでは9月のお薦め3本としてご紹介していました。

 美しくて残酷なセリフに、どんでん返しが連続する凄まじいストーリー展開、そして役人物として鮮やかに舞台上に生きる、地に足の着いた俳優の演技と言葉…。ストレート・プレイにこれほどまでに心揺さぶられ、涙が止まらなくなったのは本当に久しぶりです。アイメイクは完全に流れ落ちてたと思います(苦笑)。

 本チラシが地味なデザインだなぁと思ってたんですが、観終わってみると「こうするしかなかったんだろうな」と腑に落ちました。赤色は炎(恋の炎、戦火、業火)、血(鮮血・血肉・血縁)、太陽(砂漠)、そして愛、とか。黒ずんだ部分があるのもいいですね。
 
 上演時間は約3時間15分(途中休憩15分を含む)。脚本も演技も演出も高密度です。体力万全で臨んでください!

 【舞台写真(左から)↓栗田桃子、麻実れい、小柳友 撮影:細野晋司】
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 ⇒公演公式ツイッター
 ⇒劇場公式サイトにメディア掲載情報が充実しています。
 ⇒げきぴあ『炎 アンサンディ』稽古場レポート&インタビュー」
 ⇒CoRich舞台芸術!『炎 アンサンディ

 ≪あらすじ≫ 当日パンフレットより。(役者名)を追加。
 『炎 アンサンディ』の「四つの炎」
 第一章・ナワルの炎 第二章・子ども時代の炎 第二章・ジャナーヌの炎 第四章・サルワヌの炎

 現代のモントリオール。公証人エルミル・ルベル(中嶋しゅう)は、生前に親交のあった女性ナワル(麻実れい)の遺言と二通の手紙を彼女の双子の娘(栗田桃子)と息子(小柳友)に託す。それは死んだと聞かされていた父と、存在すら知らされていなかった兄を探し出して、彼らに手紙を渡して欲しいという衝撃的な遺言であり、その目標が達成された時、更にもう一通の手紙が双子に渡されるというものであった。ある日を境に突然話すことを止め、実の子にも心を閉ざして生きてきた母への複雑な思いから、双子は反抗的な態度をとる。だがルベルにも促され、母親のルーツを訪ねてみたいという思いが徐々に芽生え始めた双子は、母の祖国・中東へ旅立つ決心をする。――― 舞台は、“現代のモントリオール”と母ナワルの晩年の“過去のモントリオール”、双子の姉弟が訪ねる“現代の中東”と母ナワルが生きていた少女時代から青年期の“過去の中東”という、四つの時間軸が交差していく。
 *「アンサンディ」とはフランス語で、火災や火事といった災いを意味するニュアンスが込められている。
 ≪ここまで≫

 焼け焦げた土や建造物を思わせる何もない長方形のステージは、三方からコの字型の客席に囲まれています。大道具、小道具はごく少ない抽象美術です。上下(かみしも/2つあるので計4方向)以外に、舞台奥の奈落からも出ハケができて、奥から地下に向かってぬるりと坂になっているように見えます。場面転換は主に照明でパーテーションしたり、色を変化させて行い、あとは俳優の衣装、ヘアメイク、演技の変化で時代と場所を伝えてくれました。シンプルだけど空気の質量が感じられて全体的にずっしりと重たい印象。また、シンプルだからこそ時と場所を容易に超える自由さがあり、想像力を掻き立ててくれます。黄色人種である日本人俳優が演じるから、人種や国を固定させず、どこかの誰か物語として受け取れたのかもしれません。

 現代の若い男女が死んだ母ナワルの故郷である中東に初めて訪れ、母の過去をたどっていきます。その“過去”の凄まじいこと…。中東の内戦が題材になっていますので、報復の連鎖などの残虐非道な戦争の姿が生々しく描かれます。でも同時に、探偵がさまざまな人々を訪ね歩き、出会って話をしながら、ある事件の真相を探っていくような謎解きのエンターテインメントにもなっています。やがてナワルの子供たちは自分たちの出生の秘密、母が5年間も沈黙していた理由に行きつくのですが、それまでがどんでん返しの連続!現代口語の生き生きとした会話もあり、多彩に意味を含み、詩のように美しく響く独白もあります。なんとも見事な戯曲だと思います。

 役者さんはナワル役の麻実れいさんと、公証人エルミル役の中嶋しゅうさん以外は、1人で複数役を演じています(7人で20人以上)。特に岡本健一さんと中村彰男さんは役の数が多くて、出てくる度に楽しくなっちゃう。

 10代から60代までを演じられた麻実れいさん、素晴らしかったです…!独白で毎度泣かされました。フランスでの初演では年代ごとに3人の女優さんが演じたそうですが、今作では麻実さんで通してくださったのが良かったと思います。年齢は演じ分けるものだと思っていたんですが、演技じゃなくて、心ですね。麻実さんの心が10代だったから、最初から何も問題を感じなかったんだと思います。
 ナワルの同志サワダ役の那須佐代子さん。『ボビー・フィッシャーはパサデナに住んでいる』のアルコール中毒の女教師役も良かったですが、今回もまた腹の底から、いえ、大地を踏みしめる足の裏から脳天に向かって噴出するような、野太い怒りを見せてくださいました。

 【舞台写真(左から)↓麻実れい、那須佐代子 撮影:細野晋司】
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 この戯曲はカナダで映画化↓され、2011年のアカデミー賞外国語映画賞ノミネートされています。邦題は「灼熱の魂」。

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 ムワワド作「頼むから静かに死んでくれ」の日本語訳の戯曲↓は販売されています。

沿岸―頼むから静かに死んでくれ (コレクション現代フランス語圏演劇)
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 ※メルマガ号外を出そうかどうか迷ったのですがやめておきました。シアタートラムで3時間15分は体力的に少々つらいのと、ある意味、ショッキングな内容なので。でもメルマガ号外級のお薦めです!

 ここからネタバレします。加筆できたらします。


"incendies" 
舞台写真提供:世田谷パブリックシアター
≪東京、兵庫≫
出演:麻実れい、栗田桃子、小柳友、中村彰男、那須佐代子、中嶋しゅう、岡本健一
脚本:ワジディ・ムワワド 翻訳:藤井慎太郎 演出:上村聡史 美術:長田佳代子 照明:沢田祐二 音響:加藤温 衣装:半田悦子 ヘアメイク:川端富生 演出助手:千田恵子 舞台監督:大垣敏朗 プロデューサー:浅田聡子 企画・制作:世田谷パブリックシアター 主催:公益財団法人せたがや文化財団
【休演日】10/6【発売日】2014/07/27 全席指定 一般 6,500円 高校生以下 3,250円(世田谷パブリックシアターチケットセンター店頭&電話予約のみ取扱い、年齢確認できるものを要提示) U24 3,250円(世田谷パブリックシアターチケットセンターにて要事前登録、登録時年齢確認できるもの要提示、オンラインのみ取扱い、枚数限定) 友の会会員割引 6,000円 せたがやアーツカード会員割引 6,300円
※未就学児童はご入場いただけません。開演後は本来のお席にご案内できない場合がございます。ご了承ください。 
http://setagaya-pt.jp/theater_info/2014/09/post_370.html

※クレジットはわかる範囲で載せています。順不同。正確な情報は公式サイト等でご確認ください。
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Posted by shinobu at 2014年09月28日 23:12 | TrackBack (0)