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REVIEW

2015年02月21日

まつもと市民芸術館・TCアルププロジェクト『ユビュ王』02/18-22まつもと市民芸術館・小ホール

 串田和美さんが芸術監督をつとめる長野県のまつもと市民・芸術館で、串田さんの監修のもと、小川絵梨子さんが滞在製作を行われました。出演するのは同劇場の俳優集団であるTCアルプの方々と、小川さんと首都圏で舞台を作ってきた俳優です。上演時間は失念。2時間以内だったと思います。※下記写真のポスターによると1時間50分休憩なしですね。

 小川さんと言えば名作戯曲を丁寧にデッサンするように演出するストレート・プレイの名手という印象がありますが、今回はまず原作の中から上演する部分を選び出し、俳優とともに舞台作品にしていく手法を取られました。ジャリ作『ユビュ王』は1896年パリ初演で、さまざまな続編がある大長編だそうです。

 ⇒CoRich舞台芸術!『ユビュ王
 
 【写真↓劇場に入るとポスターがお出迎え】
20150218_ubu-roi_kanbanS.jpg

 ≪あらすじ≫ 公式サイトより
 ユビュ親父はユビュおっ母にそそのかされ、軍の大尉とともにポーランド王を暗殺して、まんまと自らが王位に就く。     
 王になったユビュ親父は、ユビュおっ母の忠告に耳を貸さず、私腹を肥やそうとやりたい放題の限りをつくし、腹心の大尉さえも裏切る。
 そんな中、殺されたポーランド王の息子である王子はユビュ親父への復讐に燃え、一方ではユビュ親父に裏切られた大尉が王子のいとこであるロシア皇帝の元へ逃げ・・・
 ≪ここまで≫

 軽快だけれどもの悲しさも含んだ選曲、自由度が高い(のであろう)演技のコンビネーション、観客と積極的に交わる奔放さなど、幕開けで串田和美カラーをドスンと受け取ったのですが、小川さんらしい徹底的なきめ細やかさ、俳優同士の行き届いたコミュニケーション、そして戯曲(原作)への誠実さは健在でした。

 挑戦的な抽象美術(二村周作)による実験的な作風であるものの、丁寧に作り込んだ球体のように、ある意味、きれいに整った作品だと受け取りました。『ユビュ王』がこんなにも『マクベス』になるとは予想外!(もちろん結末は全く異なりますが)

 最後の最後には、「あぁ、私もこのように、死ぬんだろうな」と、心のざわつきを抑えられないまま諦念に至ったような、腹の底に深く落ちるような感覚があり、誰もいない舞台を見つめてしばらく静かに座っていました。たぶん、物語も、作品も、人生も、途中のまま、放り出されたのだと思います。

 TCアルプの俳優さんたちは田中麻衣子さん演出『罪と罰』に続き、今回もまた素晴らしかったです。小川さんと幾度もお仕事をされている関東の俳優さんとの差(上手・下手ではなく、単純に“違う”という意味の差)が全く出ていませんでした。このプロジェクトは松本で継続されるようなので、できれば見届けていきたいです。

 あと、もぎりとクロークのお姉さんたちが素敵でした!キラリ☆ふじみみたい!

 【写真↓劇場外観。18時半ごろです。】
20150218_ubu-roi_gekijyoS.jpg

 ここからネタバレします。

 三方から客席が囲む抽象舞台でした。客席と俳優との距離が近いです。舞台中央に何らかの物体が集められており、その上に黒い幕が被さっています。「くそったれ!」と叫んだユビュ親父(中原和宏)がその黒い幕をひっぺがすと、中から出てきたのは真っ赤な三角すい達。迷彩服のような同じデザインの衣装を着た俳優の男女らが、三角形の板がつらなってできた立体を並べたり、重ねたりして、色んな形を作り出していきます。三角形の面に穴が開いているものも多く、三角すいの尖った先端をその穴に刺し入れたり、俳優が頭を突っ込んだりするので、赤い色の激しさも相まって、いかがわしくて不穏な空気が常にありました。

 ユビュ親父役をはじめ役の演じ手は固定しておらず、特にユビュおっ母に関しては次々と異なる俳優が演じていきます。予言めいたことを言うのはまるでコロスのよう。ユビュ親父役は中原さん、寺十吾さん、斉藤直樹さんの順に交代するように演じていき、斉藤さんの次は寺十さんに戻って、最後には最初に演じていた中原さんに戻るという3人体制でした。生まれて、旅して、また生まれた頃に戻るというサイクルが見えて、人生を描いた劇であるように感じました。

 ユビュおっ母にそそのかされて王を殺害して王位についたユビュ親父は、最初の内はユビュおっ母や仲間の大尉の助言にしたがって国庫の金を国民に配布しますが、すぐに金への執着にとりつかれて、貴族や役人を皆殺しにして財産を没収していきます。大尉を牢に入れて耳を切り取り、彼の赤い血が付着したユビュ親父(寺十吾)の手には、前段の場面で天井から撒き散らされていた金吹雪もまとわりついていました。「あぁ、人を狂わすのは血と金だ」と、ストンと腑に落ちました。

 ユビュ親父(寺十)の暴政に対して反乱の火の手があがるまでが、たったの5日間。マクベスは最後まで戦いましたが、ユビュ親父(斉藤直樹)は自ら軍隊を率いて出征はしたももの、戦地からトンズラし、なんと逃げおおせてしまいます。そしてユビュ親父(中原)が新しい家来とともに船に乗って、意気揚々と冒険の航海へと出る場面で終幕しました。…なんとも傍若無人な(笑)。

 戦闘の場面では俳優が水や小麦粉を掛け合い、小さなスポンジなども投げられて、顔も衣装もどんどんと汚れていきました(最前列の観客には防御用の透明ビニールが配布されていました)。最終的に床は水と粉だらけ。冒頭の場面でユビュ親父(中原)が箒(ほうき)で掃いて床にこびりつかせたチョークの粉(?)も、金吹雪も紙吹雪も、スポンジも、散乱しています。2度のカーテンコールが終わった後、ただただ、汚れきった舞台が目の前に残されました。人間はこんな風に何もかも散らかしっぱなしで、後片付けなんて全くせず、死ぬんだろう、私自身も、ただ生きっぱなして、この世から勝手に消え去るのだろうと思いました。

≪長野県松本、長野県上田≫
出演:寺十吾、中原和宏、斉藤直樹、芦田昌太郎、小野健太郎、保科由里子、近藤隼、佐藤卓、細川貴司、下地尚子
原作:A.ジャリ 上演台本・演出:小川絵梨子 監修:串田和美 美術:二村周作 照明:松本大介 音響:徳久礼子(KAAT神奈川芸術劇場) 衣裳:大島広子 演出助手:長町多寿子 舞台監督:向窪誠(まつもと市民芸術館) 広報:安江正之 票券:宮澤美穂 制作助手:岩本江美 制作:田中美樹 プロデューサー:小川知子 支配人:中澤孝 芸術監督:串田和美
(全席自由・税込)
[前売]一般3,800円 大学生以下2,500円 ※要学生証
[当日券]一般4,000円 大学生以下2,700円 ※要学生証提示
http://www.mpac.jp/event/drama/9511.html

※クレジットはわかる範囲で載せています。順不同。正確な情報は公式サイト等でご確認ください。
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Posted by shinobu at 2015年02月21日 17:49 | TrackBack (0)