2003年02月26日

蜷川幸雄 演出『ペリクリーズ』02/19-03/16さいたま芸術劇場

 いつも恐る恐るチケットを買うサー・蜷川のお芝居。今回はものすごい豪華キャストに惹かれて先行でGETしてしまいました。

 そして結果は・・・・面白かった!! 大スペクタクル冒険ロードムービーならぬロード芝居。まるで大人気系ロールプレイング・ゲームのように、ストーリーを追いかけて存分に楽しみました。(RPGって例えば「ゼルダの伝説」とか「ドラゴンクエスト」とかみたいな感じ。古っ。)

 『ペリクリーズ』はシェイクスピアの作品の中でもとりわけ演出家の力量が問われる作品だそうです。なるほど、観てわかりました。登場人物が多い。シーン数が多い。転換も多い。そして、長い(3時間半)!これでもかこれでもかと畳み掛けていく波乱万丈でドラマティックなシーンの連続。蜷川さんがよくなさる日本風の演出顕在でした。ヤクザや女郎屋はあからさまに。能舞台を連想させる書き割りもあり。和風演出ってミニマムにかっこつけてやっちゃうといかにもロンドン公演向けだな~って冷めてしまうんですが、今回はそれがチャンチャンバラバラ、どんじゃかどんじゃか、おもちゃ箱をひっくり返したみたいに出てくるんです。こりゃ賑やかで楽しいよっ。

 また、これも蜷川さんがよくなさるのですが物語と全然関係ないテーマ(特に戦争が多い)を持ち込まれます。今回はオープニングとエンディングに戦時中の日本を思わせる演出が挟まれました。これに心を打たれたんです。今、イラクに対してアメリカが戦争をしかけようとしています。他にも北朝鮮のミサイルやテロリズムなどの大問題もありますよね。そんな時期に反戦の意志を明らかに示すような演出をなされたことは尊敬に値します。戦火をのがれて逃げまどい一滴の水を求めてさまよう人々。その中にこの不幸を嘆き、天を仰ぐ美女が1人。目が潤んでしまいました。

 あぁ・・・思い出した・・・・役者さんが素晴らしかった~・・・。特に私が大尊敬する市村正親さんと白石加代子さん。もーこの二人ってば凄すぎです。早替えしまくりの大サービス。ほとんど舞台に出ずっぱりみたいなモンです。市村さん、琵琶の練習されたんですね。何をやらせても本当に絵になる方。ユーモアも素晴らしい。白石さんは鬼にも仏にもなれるお方。道化役ももちろんはずしません。声おばけ。

 田中裕子さん。純粋無垢な少女役があんなにぴったりなんて。本当にかわいらしい人でした。清純さと深い慈しみが体からにじみ出ています。
 内野聖陽さん。年老いた役が良かったな。やっぱりスター。美しい。必ず脱がされるのもスターゆえのご愛嬌ですよね♪ それもまた美しいから良し!(笑)。

 衣装は私は大ファンの小峰リリーさん。素晴らしかった。ものすごいミクスチャーでしたね、今回は。和と中華とポリネシアンの融合?厚底ブーツまで出てきました。そういえばダンスもポリネシアンな空気でした。あの振り付けは不可思議でした。なんとも言えず目を奪われました。
 舞台装置も良かったです。ところどころ穴の空いた鉄の板から照明の光がまっすぐ伸びて降りてきます。
 語り部のシーンでは太陽劇団の手法そのまま使ってましたよね。紙芝居のようで文楽のようで、お芝居。面白い!バックとして使われた可動式の巨大な鏡が良かったです。後ろから丸見えになるのが潔い。本が開くようでわくわくする。

 さいたま芸術劇場って・・・・・遠いです。はい。皆様もご存知のとおり。都心で働いて会社帰りに行こうものなら終電覚悟ですよ。しかもこんな3時間半もあるお芝居。休憩が15分しかなくて驚きました。つ、疲れる・・・(笑)。だけどすごく楽しいエンターテイメント作品です。お時間と体力があればぜひ。もちろん土日のマチネとかでごゆっくり堪能されるのが一番お薦めです♪ご家族でも楽しめるかも。 
 
彩の国さいたま芸術劇場HP : http://www.saf.or.jp/

Posted by shinobu at 23:13 | TrackBack

新国立劇場演劇『浮標(ブイ)』02/19-03/7新国立劇場 小劇場

 新国立劇場演劇の「現在へ、日本の劇」というシリーズの第2弾。(第1弾は鴻上尚史作・演出『ピルグリム』でした。)
 セリフの一言一言を聞き漏らすまじと必死で耳をそばだてた濃厚な3時間40分(休憩2回、計20分を含む)。涙を拭く余裕なんて全くなかった。お芝居が終わってしばらくは拍手もできないし立つことも出来ませんでした。しのびゅにとっては2001年の大人計画『エロスの果て』と、井上ひさし作『夢の裂け目』以来の感動です。

 『浮標』は作者 三好十郎さんの実際の体験を基に書かれた私戯曲で昭和15年(1940年)初演。上演機会が非常に少なく幻の名作とも呼ばれる作品が栗山民也 演出のもと21世紀の東京によみがえります。

 静かに唸り続ける波の音。深い藍色の幕が上がるとそこは浜辺の一軒家。画家の五郎は結核をわずらった妻・美緒の看病をしている。必死の看病もむなしくどんどん悪化していく美緒の病状。そこにお見舞いにやってくる家族や友人等との交流を通して、人が生きるということは一体どういうことなのかを魂のこもった言葉と全身全霊の演技・演出で真正面から描きます。

 島次郎さんによる美術はまるで静物画のように静かで高潔でした。硬い板のような藍色の幕が舞台の上下(かみしも)と奥の3方を閉ざし、その上には劇場の照明機材などが露出しています。ぴしりと閉鎖され奥行きを感じさせない人工的空間にリアルな家と浜辺。風鈴や旗がやわらかくなびいているのが視覚的にとらえられるのですが、風の力は全く感じないんです。

 そんな静寂そのものの舞台から否応無しにほとばしる本物の感情。魂のセリフが怒涛のごとく私の心に降り注ぎました。
 五郎「本質的な絶望のせいで絵が描けないのだ。生きている中心が不確かになっている。一番大切なものを信頼できなくなっている。」
 美緒「ねえ、あのね、神様はあるの?」「理屈はいらない。本当のことを一言で言って。」
 五郎「俺たちはいつ何時も、のっぴきならない崖っぷちにいる。」
 赤井「(戦場に)行くと決まったときから頭の中が子供みたいになっちゃった。」

 全ての俳優が型を演じるとかキャラを作り出すのではなく、本当にその役として舞台に立っていた。見せ方を巧みに編み出すのではなく、あるがままの脚本の力をそのままに伝えたいというまっすぐな心が舞台から感じられました。たたずまいがそのままその芝居である。家も浜辺も、人も音も。役者の細かな所作や表情にまで栗山民也さんの演出が冴え渡ります。

 カーテンコールでは役者全員が舞台に正座・起立して並んでいました。オレンジと青の明かりが薄暗く役者の顔や装置を照らし、それもまた静止画、1枚の写真。そしてそれを静かに見守る劇場。観客も絵の一部になったようでした。

 初日が明けた後、出演者の方とお話が出来る幸運に恵まれました。「このお芝居に参加しているみんながこのお芝居を心から好きで、一人一人がこのお芝居のために全力を尽くしています。」

 戦時中の日本で生まれた奇跡の戯曲の重厚かつ崇高な舞台化。この「浮標」という作品を創り上げるために心をひとつにした人間の営み。必見です。(土日のチケットはZ席以外完売だそうです。3月の平日A席はまだ残席あり。)

 新国立劇場

Posted by shinobu at 20:54

2003年02月23日

ジンジャントロプスボイセイ『RとJ』02/21-23青山円形劇場

 ジンジャントロプスボイセイは中島諒人(なかしま・まこと)さんが構成・演出されるパフォーマンス集団です。
 「最近のジンジャンの活動の集大成として自信を持ってご覧いただけるものになりそうです。」との宣伝文句に惹かれて今回も拝見。

 原作からイメージされるそれぞれ独立したシーンの組み合わせ。美術、衣装、照明、音響、パフォーマー、テキスト(脚本)を総合的に使ったアート時空間。いわゆるストーリーがあって起承転結のある演劇ではありません。パフォーマンス作品です。

 全ての役者さんが役者としてでなくあくまでも舞台表現の1要素として存在しています。つまりそれがパフォーマーなんですよね、役者じゃなくて。どんな際どい身体表現も笑えるセリフも、そのセリフを発した人から出ていると感じるのではなく作品として存在しているのが体感できます。役者の属人性にとらわれがちな現在の日本の舞台作品とは一線を画していると思います。

 衣装が良かったなー。あのAラインは本当に可愛らしいです。仕掛けにも心躍ります。
 低予算(だと思う)で効果的な舞台美術でした。ダンボール箱の中の色と衣装の色を合わせていたのがキュート。
 ギターの生演奏にも力を感じました。

 以下、内容を少しネタバレします。(でも読んでから観られてもOKだと思います。)

 「ロミオとジュリエット」のストーリーを群舞のみでミニマムに表現。
 シェイクスピア作「ロミオとジュリエット」から引用・選出された日本語のセリフ(誰の訳かは不明)の羅列。
 ゴミ袋に入れられて吊るされるパフォーマー。
 1本のナイフが色んなものに変身。存在の不確かさと雄弁さ。
 男と女のかかわりの象徴として抽象化されたSexの表現。コミカル。などなど・・・。

 特にセリフやストーリーでの主張がないので、一つ一つのシーンで観客それぞれが浮かべたイメージを持って帰ることになると思います。それがすごく多種多様でしかも多数になると思うんです。

 私は手袋が一番好き。2匹(?)の手袋ロミオと手袋ジュリエットがお互いを探してさまよい歩きます。ほほえましく、笑えました。
十数個の携帯から、か細い音で時報が流れる中、手袋たちが生まれて、生きて、死んで・・・のシーンでは泣きました。

 中島さんよりの宣伝メールの文章より↓
 「『生きる』を『死ぬ』のすぐ隣に置いて、『生きる』を普段とは少し違った角度で
 眺めて考えてみるという経験かな、と思いました。」

 当日パンフに大きくNO MINDLESS WARSとありました。

ジンジャンHP : http://zinjan.jp/

Posted by shinobu at 18:20 | TrackBack

2003年02月20日

シベリア少女鉄道『遥か遠く同じ空の下で君に贈る声援』01/24-02/02王子小劇場

 シベリア少女鉄道はインターネット演劇界では非常に人気の劇団です。とにかく脚本のアイデアがすごいです。非常に計算高くて緻密。そしてそれをやりきる演出もすごい。公演が終わっているのでネタばれしちゃいます。

 今回は「競馬」でした。

 ある、ちょっぴりさびれた喫茶店が舞台。へなちょこ・ほんわかな装置が適度にフレンドリーな雰囲気をかもし出します。登場人物はマスター、ウェイトレス、常連客のおじさん、別れそうな(?)カップルとその友人、その他もろもろ。

 登場人物の一人一人がおのおの決めゼリフを持っていて、何かあるごとにそのセリフを言います。「ぜんぜんわかんない」「いらっしゃいませ」「まじかよ、おい」みたいな簡単な言葉を振付つきで連呼。客は何のことだかよくわかんないまま物語は進みます。

 「彼氏が実は浮気をしていて、その浮気相手がこの喫茶店のウェイトレス!?」というどたばたが佳境になってくる頃に「あ、虹が出てるわ」と、突然、舞台奥の上部に虹のパネルが出現。赤、だいだい、黄、緑・・・と縦に並ぶストライプの右端には馬のぬいぐるみが並んで張り付いています。そう・・・それは競馬場・・・・!

 登場人物それぞれが1匹の馬。決めゼリフが馬の名前。「ナンテコトデショウ」とか。(言葉は確かではないです)そしてその名前を呼ばれる度にゴールに向かって1コマずつ進むというルールだったんです!「ぜんぜんわかんない!」ぬいぐるみが1コマ進む。「ぜんぜん・・・わかんない?」さらに1コマ進む、というように。
 名前の他にも競馬の実況アナウンスなどの競馬関連のワードを絶妙にとりまぜて、どたばたラブコメディーと競馬のレースを完全同時進行させます。あぁー・・・・ヤラれた。競馬用語の独特さと日本語の柔軟さを堪能。言葉についての知的好奇心が満腹。

 当日パンフが6種類あって勝ち馬投票券になっているとか、細かい技がまた憎い!『遥か遠く同じ空の下で君に贈る声援』というタイトルもわかってから読むと味わい深いですよね。実はチラシのキャッチコピーにもちゃんとネタが仕込まれていて見れば見るほど楽しめます。綿密なんですよね。

 あと、シベリア少女鉄道について声を大にして言いたい・・・女優さんが可愛いぞ!!
 渋谷景子さん。「ウレシインザスカイ!」の振付をまっすぐにやり続ける姿には女の私でも胸きゅんです。
 秋澤弥里さん。ウェイトレス姿で甘えられるとどんな男性でも参っちゃいますよ。
 土屋亮一さん。作・演出・出演。「いらっしゃいませ」のタイミングが絶妙。彼独特の憎めないふてぶてしさは貴重だと思います。

 今は小劇場で小劇場的に観るしかない(快適な客席ではない)のですが、やっぱり観たいと思わせる劇団ですね。

シベリア少女鉄道HP : http://www.siberia.jp/

Posted by shinobu at 22:19 | TrackBack

2003年02月04日

宮本亜門 演出『ファンタスティックス』01/30-02/11世田谷パブリックシアター

 『ファンタスティックス』は40年以上世界中でロングランされているミュージカルの原点的作品だそうです。『モーツァルト』で注目された井上芳雄くん観たさにチケットをGETしました。観に行って良かった・・・!

 宮本亜門さんのミュージカルは一度途中で帰ったことがあるのでちょっと不安だったのですが、「この世界的な財産と言える作品を観られて良かった!」とすがすがしい気持ちで帰ることができました。

 ここからネタバレします。

 隣りに住む少年と少女。2人は両想いなんだけれど互いの父親に反対されているため、隠れて愛をささやきあっている。だけどそれは、2人を結婚させたいと思っている父親同士の企てだった。引き離せば引き離すほど2人は愛し合うだろうと見込んでいた父親たちは、最後の仕上げとばかりに流れ者エル・ヨガにひと仕事依頼してある事件を起こし、2人はめでたく恋人同士となったけれど・・・。

 前半が完全な前振りで後半に本編が、全てが凝縮されていると思いました。前半は寝ちゃってですねぇ(すみません。)・・・。後半はオープニングからわくわくドキドキ。前半とえらい違い。

 この作品は作詞が素晴らしいと思いました。そこが超ロングランの理由ですよね。父親2人に依頼されて若い2人を騙す、流れ者エル・ガヨの歌。言葉足らずですがちょっとご紹介。
 「この涙で充分です。この小さな雫だけで。」
 「人はなぜ成長するときに何かを葬らなければならないのか」「それは矛盾に満ちた逆説。パラドックス。」

 黒い舞台装置の上に現れる黒い衣装の出演者たち。そこからカラフルな衣装に着替えていくオープニングは躍動的でフレッシュ。宮本亜門さんらしい感じ。照明の使い方もモダンでよかったな。現代的な演出はフィットさせることが難しいと思うんですが合ってたと思います。

 イデビアン・クルーの井手茂太さんが振付ということですがあまり目立ってなかったかな。井手さん独特のユーモアを理解していたのが、少女の父親役の斎藤暁さんだけだったような。斎藤さん、素敵でした。

 井上芳雄くん、きれいでした。若いって素敵。この若さでこのやる気って宝物ですよね。声量はまだまだこれからってとこかな。でも主役にぴったりです。清楚でさわやかで。ファンになれそう。そう、誰にもお薦めのミュージカル・スターだと思います。

 ヒロインの高橋恵理子さん。スタイルいいし顔かわいいし技術も在るのでしょうけど、私は無理。苦手。なんか、ちょっと、品がないんですよね・・・井上くんが惚れる少女役には不適。わお、断言しちゃった、すみません。NHKの「歌えリコーダー」という小学生向け教育番組に出ていらっしゃる人なんですよ。私、見た事あるんです。操り人形みたいな演技をするアナウンサーっていうか。演技が非常に紋切り型。意図なしに大げさ。同じNHKだったら茂森あゆみさんの方が良かったんじゃないかなー、ってそんな問題じゃないか。

 物語としても、何も知らない大人しい少女が危険に魅了されて足を1歩踏み込んでしまう・・・という方がドラマチックだと思うんです。もともと勇み足の子がじゃんじゃん走り込んでも、それは普通です。というか見た目に美しくないと思うんですよね。そこは私の個人的好みだと思います。亜門さんはけっこうパワフルな女優さんが好きですよね。

 エル・ガヨ役の山路和弘さん。素晴らしかった。色気があってふところ深くって。この役の意味をしっかり咀嚼してその上、自分の魅力もプラスされていたと思います。

 追加公演では、井上芳雄くんのアフタートークがあるそうです。

世田谷パブリックシアターHP : http://www.setagaya-ac.or.jp/sept/jouhou/02-2-25-1.html

Posted by shinobu at 14:00 | TrackBack