2004年06月21日

松竹・サンシャイン劇場提携公演『謎の変奏曲』05/21-06/06サンシャイン劇場

 フランスの劇作家エリック=エマニュエル・シュミットさんの作品。1996年パリ初演で、日本初演は1998年の風間杜夫&仲代達也 主演、宮田慶子 演出バージョンでした。今回が始めての再演で、演出は同じく宮田慶子、キャストは沢田研二&杉浦直樹です。

 『謎の変奏曲(VARIATIONS ENIGMATIQUES)』は実在するクラシックの名曲のタイトルです。サー・エドワード・エルガー作曲。14個の変奏からなり、主旋律が隠されたままで、今でも主旋律が何の曲なのかは解明されていません。日本でも『エニグマ(謎の)変奏曲』として知られているそうです。

 愛について深く深く語りつくす、ウィットに富んだ大人向けの会話劇に、涙が次々と溢れてハンカチなしには観られません。そして大どんでん返しの連続です。こんな傑作脚本はいつかまた上演されるでしょうから、今回観られなかった方は、内容には決して触れないようにして、再々演をどうぞお待ち下さい。でも、仕掛けを知ってしまった後でも他の楽しみがあるので、私もまた観に行くと思います(笑)。

 スウェーデンの孤島に住むノーベル賞受賞作家アベル・ズノルコ(杉浦)の家に、片田舎の冴えない新聞記者エリック・ラルセン(沢田研二)が、単独インタビューに訪れる。出会うはずがないほど性格も立場も違う二人だが、会話が進むについれて互いの秘密が明かされていき・・・。

 休憩を含んで3時間弱ある長編2人芝居は、ズノルコとエリックと共に、自分も15年の歳月を生きたように感じるほど濃密でシックな時間でした。その上、これでもかこれでもかと急展開が重なっていきますので、気持ちよく疲労困憊です(笑)。

 キャッチコピーになっている「人は誰を愛しているのかわからない。永遠に・・・」は、舞台には登場しない、ある重要人物のセリフでもあるのですが、心の奥の方ですごく共感しました。
 また、大作家ズノルコが皮肉っぽく語る愛についての言葉は、どれもこれも深い洞察力から生まれたものに違いなく、共感しつつ感化されつつ聞き入りました。戯曲本が欲しいです。

 音楽はタイトル曲『謎の変奏曲』を舞台上でレコードで流されるのが中心で、他はかもめの声や波、雨、風の音、そして銃声などの効果音です。舞台は木製のしっかりした造りの豪邸の、ピアノのあるリビング。白夜なのでずっと日が落ちず、黄昏時の照明が続き、窓の外には海の水面が輝いています。サンシャイン劇場のような高さのある空間で、これほど上質なイメージに統一して作られている美術だと、それだけで観ている方もゴージャスな気分になります。

 沢田研二さん。60~70年代の日本の大スター歌手です(今も活動されています)が、今は舞台俳優としてもご活躍です。型にはまった、沢田さんっぽいしぐさや予定調和な口調をされるのはあまり好きではなかったのですが、セリフの意味を丁寧にはっきりと伝えてくださいました。ユーモアも可愛らしかったです。

 杉浦直樹さん。いつもながら貫禄の存在です。この膨大なセリフを覚えて演じられているなんて72歳とはとても思えないお元気さ。気難しい大作家を確実に演じながらキュートな面もしっかりと表現してくださいました。ひとつひとつの言葉にこだわりをお持ちで、細かい演技についての集中力がすごいと思いました。

 私の隣に座っていた学生風の若い男女は、おそらく関係者扱いで無料入場された様子。開演前は他の席の友達と手を振り合ったりしていたのですが、中盤以降は二人とも涙をすすりながら真剣にご覧になっていました。カーテンコールでは会場中が感動の嵐で割れんばかりの大拍手。私ももう少しでスタンディングしそうでした。

 来月、同じくエリック=エマニュエル・シュミットさんの作品『ヴァローニュの夜』(07/10-18@紀伊国屋ホール)がシアター21によって上演されますね。こちらも楽しみです。

出演:杉浦直樹 沢田研二
作:エリック=エマニュエル・シュミット 訳:高橋啓 演出:宮田慶子
美術:島川とおる 衣裳:緒方規矩子 照明:中川隆一 音響:高橋巌 音楽アドバイザー:沢田完 舞台監督:鈴木政憲 制作:寺川知男 本田景久 制作協力:(株)松竹パフォーマンス
松竹(演劇):http://www.shochiku.co.jp/play/index.html

Posted by shinobu at 2004年06月21日 13:13