2004年06月21日

演劇企画集団THE・ガジラ『国粋主義者のための戦争寓話』05/05-19ベニサン・ピット

 作・演出の鐘下辰男さん恐怖症でずっと避けてきたTHE・ガジラ。先入観を捨てるためにやっと初見です。新国立劇場での鐘下さん作・演出の作品で一度目は途中退出、二度目は最後まで我慢したものの不快感炸裂だったので。でも先日の『サド侯爵夫人』はすごく良かったです。
 tpt以外でのベニサン・ピット公演を観たいというのもあって伺いました。

 長崎に原爆が落とされた翌日の東京。飛行時間が7分間しかないロケット戦闘機に乗って、原爆を搭載したB29を撃墜せよとの命を受けた龍巳少尉(横田栄司)は、部下を数名連れて山の奥深くに建設された極秘の発射台に向かった。3日かけてやっとたどり着くと、先に到着しているはずの先行隊30名は食料とともに跡形もなく消えていた。近くの村人は「彼らは化け物に飲み込まれたのだ」と言うが・・・。

 極限状態の世界。客席でも小さな緊張がずっと途切れることなく続くような、2時間15分休憩無しの体験でした。

 思い込み。自意識過剰。下手なプライド。差別。兵隊同士での仲間割れ。学生上がりの間違ったエリート意識。
 姿を現さない“原住民”という存在がこの作品世界を広大にし、戦時中の日本だけのお話に留まらない普遍的なテーマを感じさせました。
 “あちら側”と“こちら側”というワードが飛び交いました。 『THE OTHER SIDE/線の向こう側』と同じですね。
 チラシに載っている鐘下さんの文章です。
 『「戦争反対」を声高に口にしている者達の中にも、実は「暴力行為」の可能性が秘められているということを、私たちは今、自覚すべきではないのだろうか。』

 少尉の回想を(妹の死の真相など)その場の登場人物で表現しきるのがすごく面白いし、臨場感も醍醐味もありました。言い切り方が強引で渋くてかっこよくて、演出力ってこういうところに現れるんだな、と感じました。

 舞台美術はベニサン・ピットを奥の奥まで全部利用していました。まず壁に直接色が塗られているのがこの劇場ならではですよね。古びたコンクリートや廃墟イメージがすごく自然です。
 大き目のシンプルな勉強机を沢山並べ、それの上に役者さんが乗ったり、机をすべらせて移動させたりして変化をつけていきますが、照明とその机との兼ね合いが面白かったです。
 そう、照明がこの作品では非常に重要な役割を果たしていました。まるで神話を朗読する語り手のような大きな存在でした。鐘下辰男さんの重厚な空間作りには、この大胆不敵な照明プランがものを言っている気がします。ストイックで頑固そうで、四字熟語なら「質実剛健」でしょうか。私はすごく好きですね。

 若松武史さん。龍巳少尉の兄役。この人にしか出来ない!という演技を見せてくださいます。とにかく好きでした。あぁ若松さんだな~と思うと楽しくて。
 いつもソフトな印象の近江谷太朗さんと寺十 吾(じつなし・さとる)さんが堅い兵隊役で出てらっしゃるのは新鮮でした。キャスティングも面白かったです。

 内容が非常に暗いし怖いし窮屈だし深刻だし、一般の観客が簡単に「良かった」とは言いづらいであろう重たい作品だったのですが、私は「好き」でした。ストーリーとか登場人物の物語とかを楽しむよりも、質感や雰囲気が好きだったんですよね。鐘下さん恐怖症、克服できそうです。

作・演出 鐘下辰男
出演:若松武史 横田栄司(文学座)久保酎吉 河野洋一郎(南河内万歳一座)近江谷太朗 寺十 吾 栗原 茂(流山児★事務所) 加地竜也 神野美紀 占部房子
美術:島次郎 照明:中川隆一 音響:井上正弘(オフィス新音) 衣裳:伊藤早苗 演出助手:永元絵里子 舞台監督:村田明(クロスオーバー) プロデューサー:綿貫凛 舞台監督助手:八須賀俊恵(クロスオーバー) 演出部:阿久津由美(バックステージ) 照明操作:宇野梨良 音響操作:清水麻理子(オフィス新音) プロンプター:岩橋毬 宣伝美術:マッチアンドカンパニー 宣伝写真:北川浩司 制作デスク:木寺美由紀 制作アシスタント:石坂実穂 山崎志保 票券管理:中谷陽子 大道具製作:株式会社俳優座大道具 小道具:株式会社高津映画装飾 履物:神田屋靴店 特殊小道具製作:土屋工房 衣裳:東宝コスチューム 衣裳協力:大野典子 主催:有限会社ガジラ ベニサン・ピット:支配人 瀬戸雅嘉
THE・ガジラ:http://www5d.biglobe.ne.jp/~cottone/gajira.html

Posted by shinobu at 2004年06月21日 18:24