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Shinobu's theatre review
しのぶの演劇レビュー
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REVIEW

2002年06月22日

チェーホフ『櫻の園』新国立劇場・小劇場06/21-07/21

 栗山民也、演出。堀尾幸男、美術。勝柴次郎、照明。という、個人的に超お薦めしたい舞台です。

 チェーホフの最高傑作と言われる「桜の園」の舞台を、明治末期の日本は信州に変えて作られています。放蕩先のフランスから、桜でいっぱいの大庭園があるお屋敷に帰ってきた女主人たち。でも既に彼らは財産を全て使い果たしてしまっていた。今となっては歴史と思い出がつまった自慢の桜の園が競売にかかるのを待つばかり。

 「私は今までどおりに生きていたい。」「私をわかって。」「私を愛して。」
 愛、愛、愛。 あぁ、チェーホフ様。あなたは本当に人間を愛してくれているんですね。観ている私たちのことも。

 舞台美術は人形劇の額縁をイメージしているようでした。分厚い茶ビロードの幕が左右に開き「さぁ、楽しい人形劇の始まりだよっ!」舞台で繰り広げられる出来事はすべて人形が演じる一瞬の夢。そう、人生は舞台。

 必ずどこかに現代風な味を残し、あくまでもこれは「舞台です」と知らしめるかのように完全には作りこまないんですね。そこが栗山&堀尾 舞台の特徴だと思います。「満開の桜だわ」と窓辺から言うけれど、実際、窓の外に見えるのは白いカーテンだったり。そうすることによって想像力の翼がはばたくんですよね。無限の広がりが現れるんですよね。

 久々に語りかけるような照明を味わいました。肌寒い早朝の朝日。冷ややかな月光。役者を優しく輝かせるやんわりとしたスポットライト。照明だけで泣けるんです。

 ヘアメイク(林裕子)がすごく良かったと思いました。銀粉蝶さんの口紅とか、森光子さんのヘアスタイルは本当にステキ。キムラ緑子さんは誰だかわからないほどの変身振り。段田安則さんのかつらなんて本当にハゲてるのかと思いました(笑)。
 衣装(前田文子)も本当にすばらしかった。時代背景はもちろんですが、その人の性格まで代弁していました。

 森光子さん、初めて拝見いたしました。歩いて出てきただけで空気が光るようでした。「だめよ~、私バカなんだからぁ。」と心細げに甘える小悪魔的キュートさ。「あなたはもっと勉強しなきゃ。何にもわかってないんですもの。」と嘲笑する辛らつな目。観る者すべてを魅了してしまうそのたたずまい。本当にお美しい。根っからの女優さんなんですね。『放浪記』観に行かなきゃ。

 初日ということで第一幕は役者さんが皆さんちょっと硬めでしたが、段田安則さんのおかげでぶっ飛びました。そう、チェーホフはコメディーなんですよね!

 それにしても出演している役者さんは本当にプロ中のプロばかり。それゆえか、木を見て森を見ず演出になっちゃった箇所がチラホラ、かも。でもそれは栗山さんに心酔している私の激辛な感想です。

新国立劇場HP : http://www.nntt.jac.go.jp/

Posted by shinobu at 2002年06月22日 16:41 | TrackBack (0)