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Shinobu's theatre review
しのぶの演劇レビュー
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REVIEW

2002年11月05日

ク・ナウカ『欲望という名の電車』10/31-11/10ザ・スズナリ

 テネシー・ウィリアムズ作『欲望という名の電車(以下『欲望』)』、よく上演されますね。最近は蜷川幸雄 演出の大竹しのぶブランチや、篠井英介ブランチもありました。私は新国立劇場での栗山民也 演出の樋口可南子ブランチしか観てないんですが、大好きな演目です。素晴らしい戯曲だと思います。

 そして今公演・・・片時も目が離せない3時間20分(15分間の途中休憩を含む)でした。スズナリという小さな箱庭でバイオレントに繰り広げられる取るに足らない人形遊び・・・と申しましょうか。いかにも「ク・ナウカらしい」とも言える、全く新しい視点から見る『欲望』でした。

 看板女優の美加理(みかり)さん。言動(mover/speaker)一致のブランチ役。最高でした。身のこなし、声色、語尾、癖、性格(感情)、などまで細かく作りこまれていて今までの私のブランチ像を完全に払い去ってしまいました。能面のようなアルカイック・スマイルを浮かべながら体の隅々まで意識を行き届かせたmoverとしての動きも顕在。それがすごくセクシーなんです。技術だけではなく美も兼ね備えている彼女は演劇界の宝ですね。

 野性的な南部男スタンリーが家の中を荒らすのが、ものスゴかった。ナイフ、フォークは当たり前、今度はイスかと思ったらブランチも投げる!暴力が生々しいんです。もぉドキドキしました。その荒っぽさがあるからこそブランチが狂うことにうなづけるんですよね。

 ブランチの「死の反対は欲望」というセリフ(今公演のキャッチコピーにもなっています)でお腹の辺りから、いかんともし難い感情がぐっと込み上げてきました。感動で涙が出そうになりながらも気持ち悪くて吐き気がするのを我慢するというか。美加理さんの機械仕掛けの人形のような動きと意志のしっかり乗った言葉を突きつけられて私自身の感情(こころ)と肉体(からだ)との分化を迫られたというか。いや、こころあってのからだなんですよ。からだあってのこころですし。だけど普段はそれを意識することがないから、その事実を見せつけられて嘔吐するんですね。

 ブランチの衣装、素晴らしかった。着替える度に見とれました。最後の青いドレスはまるでシスター(尼)のようで、アイロニックでよかった。舞台装置、というよりも舞台空間が四角くて狭くて良かったです。音響はちょっとくどかったかも。でも合ってました。

 以下、少々ネタバレします。

 主要な役者4人(ブランチ、ステラ、スタンリー、ミッチ)以外を言動一致の黒子として使っていたのが、この舞台をよりシンプルにわかりやすくしていたと思います。それに、面白い。

 自分は娼婦だったのだと自分から言いはじめるところでブランチが豹変します。「タランチュラ・アームズよ、私が泊っていたのは。フラミンゴじゃないわ。」というセリフで身ぶるいしました。

 ラスト間近のシーンで、栗山民也 演出だとブランチは無理やりシャワー室でスタンリーに犯されますが、宮城 聰 演出ではあきらめたというか、娼婦だった自分を認め、自らスタンリーに身を任せます。私は宮城版の方が説得力があると思いました。犯されて狂うのは普通の人ですものね。

ク・ナウカ : http://www.kunauka.or.jp/

Posted by shinobu at 2002年11月05日 21:13 | TrackBack (0)