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Shinobu's theatre review
しのぶの演劇レビュー
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REVIEW

2003年04月19日

NODA MAP『オイル』04/11-5/25シアターコクーン

 野田秀樹さん脚本・演出・出演のプロデュースユニットNODA MAP(野田地図と書かれたりもします。)の第9回公演。毎回超豪華キャストですがメイン・キャスト以外をワークショップという名のオーディションで選ぶことも多々あり、プロの舞台役者になる道への、入り口のひとつになっている様相もありますね。

 拝見して私は、野田さんのアイデンティティーを賭けた、ストレートなお説教を拝聴している気持ちになりました。体験できたことに感謝できる現代日本の最高レベルの演劇作品であることは間違いないです。しかし、物語ではありません。ある主張です。それを踏まえて観ることができれば、宝物の体験になると思います。のちほどネタバレ感想を書きます。

 ※何度かお問い合わせをいただいたので加筆します(2007/01/14)。
 「お説教」というのは私にとってはすごく貴重でありがたいものです。言いづらいことを本気で正面から言ってくれる年上の日本人としても、それを舞台で生身で表現してくれる演劇人としても、野田さんを尊敬しています。野田さんはお説教なんて言うつもり全然ないのでしょうけれど。

☆NODA MAP『オイル』ネタバレ感想

 『オイル』は“物語”ではなかったです。寓話という形式をとった野田さんの主張でした。オイ(老い)たことを自覚し受け入れた大人の日本人が、命から搾り出した、憂国の心のお説教。

 日本語の「あいうえお(50音)」から「アメ」「ツチ」「ソラ」・・・が生まれ、神様は残った文字から「ヘン」なものをつくった。それは「ヨナレヲセヌヒト」と・・・というくだりは古事記をモチーフに語られています。その最後の文字が「オヰル」だった。それを「老いる」「OIL」とつなげ、「時間」「石油」というキーワードを元に古事記の時代、原爆投下直前、そして現代の日本を縦横無尽に旅します。アマテラスオオミカミ、特攻隊、原爆投下、ギブ・ミー・チョコレート、9.11。

 「アメリカは他国に原爆を落としたたった一つの国よ。」
 「アメリカが落とした原爆に何十万人も殺されて、なんでガムが噛めるの?まだ1ヶ月しか経っていないのに、なぜハンバーガーが食べられるの?もう忘れてしまったの?」
 「老いて死んだ者たちが土の中で腐って溶けてそして石油になる。石油が燃えるのは復讐心が燃えているからだ。」
 「教えて。天国があるならなぜそれはあの世にあるの?なぜここに作ってはくれないの?」
 「あなたの助けが必要なの。神様!」 (※セリフは完全に正確ではありません。)

 野田さんは長崎生まれです。今までわざと避けてきた原爆のことをこの作品で描いています。当日パンフにも「今、書かなければならない。」と書いてらっしゃいました。このアイデアは今から1年半前から思いついていらしたそうですから、イラク戦争の前から存在したお芝居です。いつもの野田さんの脚本に比べてセリフやネタが非常に平易です。わかりやすさを心がけたのだと受け取れます。

 堀尾幸男さんの美術。今回は天井を低く作って横に広がりをイメージさせることで砂漠や草原、焼け野原を思わせました。パネル、大道具、全てが芸術的だけれど、あくまでも野田さんの意見を伝えるための道具として存在していました。ストイックで知的だと思います。大勢の人間の力を合わせて完成度の高い作品を作るには、まず頭を使わなきゃならないんですね。黒い昇龍、文字の傘、小さな落下傘が灰色に近い透明のビニールで出来ていたことは環境破壊を想像させました。

 ワダエミさんによる衣装。ひびのこずえさんの衣装よりももっと作品の意図を伝えるために存在していました。美術と同じですね。早替えが見事。

 選曲はあいかわらずひどいです。なんで以前の作品と同じ音楽を使うのかしら・・・。それから、感動的な(それを狙った)シーンに感動的な音楽というのはいい加減にやめて欲しいですね。完全に冷めてしまいます。野田作品というと、そこだけがいつも苦々しいです。

 今回の出演者は、全員がパフォーマーとして存在していました。誰か一人だけが目立ちすぎることもなく、居るのかどうかわからない役もなかった。全員が一人ずつで輝いていた。One for All, All for One(一人はみんなのために。みんなは一人のために。)が成立していた気がします。私が今までに観たNODA MAP芝居の中で役者の存在感が一番気持ち良かったかも。

 松たか子さん。素晴らしかった。私は松さんがとても苦手なのに今回は心から彼女を受け入れられました。彼女の強い自負心や回り(の役者)に対する威圧感が不遜に見て取れたことがあって、一時期はとても不快だったのですが、それが全くなかったです。やっぱり攻撃的な性質はそのまま在りますが、そういうキャラが野田芝居にぴったり。野田さんの演出・稽古が彼女の持ち味をベストの方向に生かしたのだと思います。どんどん色んな事を経験して勉強して前に進んでいらっしゃるんですね。オープニングで彼女だと気づかなかったのがすごく嬉しかった。

 藤原竜也さん。やっぱり天才。出てきただけでそこは彼の世界。私は吸い込まれます。長ゼリフを流暢に完璧にこなし、感情をしっかり載せて、しかも意味をきちんと伝えられる若い俳優。あそこまでできるのは彼以外にいないと思います。

 小林聡美さん。美しい。存在が優しさそのものです。この出会いに感動です。声もキレイでセリフも完璧。

 ありがたいことにとても良い座席で拝見することができたのですが、全てがあまりにヴィヴィッドで刺激的だったため、もう少し後ろの方がよかったかも、と思ってしまいました。それぐらい光を放っていました。それくらい胸が苦しくなりました。

NODA MAPのHP : http://www.nodamap.com/

Posted by shinobu at 2003年04月19日 10:15 | TrackBack (0)