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Shinobu's theatre review
しのぶの演劇レビュー
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REVIEW

2003年05月18日

こまつ座『兄おとうと』05/11-31紀伊国屋ホール

 脚本完成の遅れが原因で初日が2日ほど延期になりました。すごいですよね。こういうことって、本当にあるんですよね。でも井上ひさしさんですし、彼の書き下ろし新作を観られる幸せのためならしょうがないと思います。

 「民主主義の父」と呼ばれた政治学者、吉野作造とその弟、信次のお話。明治、大正、昭和の激動の日本で、それぞれ別の道へと進んだ兄弟の半生を通じて民主主義とは何か、人間の求める本当の幸せとは何なのかを、ありったけのサービス精神と大らかさで描ききる、大人のエンターテイメント作品です。

 オープニングの歌のシーンだけで、顔がくしゃっとなりました。こんなに暖かくほがらかに迎えてくれるなんて・・・。ほんと、涙が出ちゃうんです。優しすぎて。人間って捨てたもんじゃないなって。私、生きてて良かったんだねって思えます。こんな風に迎えてくれるのは、演劇だと、こまつ座以外に無いのでは?

 いつものことですが、何度も涙しました。言葉が優しいんです。脚本はもちろんですが、役者さんの演技も底なしに明るくて暖かくて、私の体のすみずみまで許してくれます。こまつ座のお芝居は人間の優しさに気づかせてくれるんです。

 さて、井上さんの珠玉のセリフたちの中から少しご紹介します。(セリフは完全に正確ではありません)

 「なぜ?なぜ?疑問。疑問。人間にとって一つの疑問は、世界の重さと同じ。止まれ。止まれ。あわてずに止まれ。」
 「ここで共に暮らして行こうという意志と、よりよい生活を目指そうという願い。それが国を作る根本である。」
 「”三度のご飯をきちんと食べて、火の用心。元気に生きよう。きっとね。”これこそ人民が求めているものだ。」

 最後は、やはり脚本が尻切れトンボになっている感が否めませんでしたが、充分すぎるほどの言葉と愛情をいただきましたから、平気でした。何があってもこまつ座は観つづけたいと思います。

作=井上ひさし 演出=鵜山仁 
出演=辻萬長/剣幸/神野三鈴/宮地雅子/ほか
紀伊国屋書店 : http://www.kinokuniya.co.jp/
こまつ座(2005年加筆):http://www.komatsuza.co.jp/

Posted by shinobu at 2003年05月18日 01:10 | TrackBack (0)