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Shinobu's theatre review
しのぶの演劇レビュー
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REVIEW

2003年12月21日

阿佐ヶ谷スパイダース『ともだちが来た』12/17-30ザ・スズナリ

阿佐ヶ谷スパイダースは、長塚圭史さん(作・演出・役者)、中山祐一朗さん(役者)、伊達暁さん(役者)の3人組です。いつもは長塚さんの作・演出で、いろんな客演の役者さんを集めて公演されるのですが、今回は役者の中山さんが演出で、長塚さんと伊達さんにによる二人芝居でした。面白い企画だなーと思いました。

 ”私(長塚)”のところに”友(伊達)”が突然たずねてきた。その2人が一人暮らしの狭い和室で語らうだけの2時間。男二人芝居です。

緊張感が最後まで途切れない、上質の二人芝居でした。若い男優さん2人と同じく若い演出家とで作り上げたという点からしても素晴らしいことだなーと思います。阿佐スパというと、比較的若者向けで、基本的にグロテスク&ブラックで、乾いたギャグ満載の、ちょっぴり切なく悲しげで、だけど一貫してドライなストーリーもの、という作風だと思っていましたので(私の勝手な感想です)、それを全く裏切る作品になっていました。もちろんギャグもありましたけど、静かにツーっと、一本の重たい線が通っている感じで、セリフもかなり観念的でしめっぽいです。こういう作品をやるってことが非常に個性的だと思いました。企画としてすごい。初めて阿佐スパを観た人は「こんなことをやる若い男の人達なのか!」と感動することでしょう。いや、好みに合わない人の方が多いかもしれません。それほどクセのある公演だと思います。

 私が一番感動したのは、私”のところに”友”が来てから初めて”友”が”私”の体に触ったシーンです。物語の始まりの方で、まだ”友”が何者なのかが観客にわかる前です。”友”が「気持ちいい?」と聞くと”私”はどぎまぎしながらも「・・き、気持ちいいよ」と答えます。その後で”友”が「俺はそうじゃない・・・ペッタンコだから(等)。・・・」と、静かに本音を吐露するくだりで涙がこぼれました。「ああ、この自転車に乗ってきた少年(”友”)は、自分に、人間に、絶望しちゃったんだな。もう昔みたいにはコミュニケーションできないんだな」って感じて、そのどん底の悲しみと、それに対峙する”友”と”私”に共感したんです。そう感じる具体的理由がちゃんとあるのですが、その設定が判明する前に、会話だけで彼の気持ちが感じられたのは、伊達さんの演技が素晴らしかったからだと思います。

 麦茶が何度も無造作にたたみの上に置かれます。いつこぼすかと観ている方がハラハラするんです。静かな2人芝居ですから、そういうスリルを要所要所に入れる演出(中山)は巧いし、かっこいいなと思いました。

 舞台美術(加藤ちかさん)は仕掛けや作りなどは本当にしっかりしていました。清潔感があります。でも大学生の一人暮しの部屋には思えなかったな~。少しだけ広すぎた感じ。自転車で走ることを考えるとああでなきゃだめかもしれないけど、あの畳の組み方は不自然じゃないのかなー。いたしかたないことかもしれませんが。柿の木がリアルで良かった。
 プロジェクター映像で部屋が海の中になるシーンで、二人が入っている押入れには明るい照明が当てられて、海の中に浮かぶコックピットのようになっていたのはSF感が増してきれいでした。でも、海の映像がリアル過ぎた気がします。想像できる程度で止めてもらえる方が私好み。

 脚本は劇団八時半の鈴江俊郎さん。1月にスズナリでの公演を控えてらっしゃいます。新国立劇場演劇の来期のレパートリーにも入ってらっしゃるようです。
 
 長塚圭史さん。”私”役。高校の剣道部室で女の子を口説くシーンは絶品。だから役者の長塚さんが大好きだっ!でも全般的には伊達さんと比べるとちょっと詰めが甘いように感じました。私が観た回が本調子じゃなかったのかもしれません。
 伊達暁さん。”友”役。決まった演技(演出通りの動き)を次々と着実にこなしていくプロフェッショナル。脚本解釈が深いと思います。声がいい。セリフがいい。瞳が奥だけ重たく光っている。目が離せない。

 『ともだちが来た』というタイトル、良いなぁとしみじみ感じます。そうなんだよな。ともだちが来てくれたんだよな。

ネタバレ感想を少し


 思いつくままに細かいところを書いてみます。

 ”友”が訪ねて来る前に”私”が長い時間たたみの部屋で独り言を言っている。はっと気が向いて、部屋の出入り口のドアを空けると、そこには自転車を手で引いた”友”が立っている。そのシーンで、客席からは自転車のハンドルと手ぐらいしか見えないのが良かった。

 「おまえが来てくれて嬉しいよ」と”私”は間を空けて3度ぐらい言います。それがいい。本当にそう思っているんだよって”友”に伝えたい気持ちが伝わります。

 「死んで何を確かめたかったんだ?」というセリフが、”友”が「死んでいる」と観客にわかる前に発せられるのが良かった。

 自転車の籠の中の風船が膨らむのはすごい。あれに服を着せるのが、またすごい。ペッタンコだ。本当にペッタンコだ。

 「忘れてほしくないんだよ、お前に」は、本来なら最も心を打つセリフかもしれないのですが、私はやっぱり「ぺったんこ」が一番心にキてたので、そこは普通に通りすぎてしまいました。(セリフは完全に正確ではありません)

 なぜ”友”が海に飛び込むことを選んだのかについて”私”が答えるシーン。「ピカっと光るやつ、待ってるやつ・・・」など、同じような言葉を怒涛のように浴びせ掛けるのですが、ちょっと流れちゃっていた気がしました。あれが全部伝わっていたら、死んでしまった”友”だけでなく”私”の孤独も浮かび上がってきたんじゃないかなーと思います。

 阿佐ヶ谷スパイダース : http://www.spiders.jp/

Posted by shinobu at 2003年12月21日 17:28