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Shinobu's theatre review
しのぶの演劇レビュー
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REVIEW

2003年11月27日

Bunkamura主催・蜷川幸雄 演出『ハムレット』11/16-12/14シアターコクーン

 藤原竜也さんがハムレットを演じます。それだけでプラチナ・チケット公演。

 はー・・・これは、出演者の誰かのファンなら観る価値ありますが、そうでないなら観なくて良い『ハムレット』だと思います。『ハムレット』の意味を思いつきで違うものに変えていますから。演出の蜷川幸雄さんの手法がお好きな方は存分に楽しまれると良いと思います。ただ、アングラ・テイストの方ですよ。和風民話調じゃなくて。

 ネタバレします。

 まず舞台が客席に挟まれた島舞台でした。4面全部ではなく2面から挟まれる形で、客席から観ると横に長い舞台です。灰色一色の何もない舞台は、4方を金網で完全に覆われていました。前半はずーっとその金網越しに役者さんを観る状態。後半からその金網が取り除かれました。あいかわらず意地悪だよ、蜷川さん。基本的に上手と下手に平行移動する動線になるんですよね。ちょっと退屈。客席の後ろから登場するのも沢山ありました。それはそれで観客サービスだなーと思いました。私は通路側の席だったので藤原さんや井上さんが真横を通るのはそりゃー楽しかったっすよ。二人とも背が高いのねー。

 まず、藤原竜也さんと高橋洋さん以外はちゃんとセリフをしゃべってない気がしました。(井上芳雄さんは部分的に伝わるところもありました。)上っ面だけなんですよね。そして役者さんの演技が皆さん、叫び系なんです。何でもまっすぐ馬鹿正直に怒鳴るような。つかこうへいさんのお芝居みたいな。(つかさんの手法はあれで成立していると思いますが『ハムレット』でそれはないと思います。)役者さんがそういう状態である上にさらに、様々な”思い付き”の演出が加わって、本来伝わってくるべき意味がどんどんと違うものになったり、ぼやけて伝わらなかったりしました。まあ、そういうことは演出意図にはないのでしょう。

 蜷川幸雄大先生お得意のラストでした。もう慣れましたよ。ちゃんとコートを被って舞台が見えないようにしてましたから。後継者をトレンチコート・マフィアにしたかったのねー。あのアメリカのコロンバイン高校の。だからフォーティンブラスだけ妙な衣装だったのねー。あの銀の鎧は防弾チョッキ?そしてエンディングは銃声や大砲の爆音とともにいつも使われる音楽ですよ、「カノン」をモチーフにしたコーラスの。ああ気持ち悪い。でも私はちゃんと音が心まで響かないように、耳に「準備」というバリケードをしてましたから。『真情あふれる軽薄さ2001』の時のように劇場内で芝居の最中にタバコを吸おうとするような失態にはなりませんでしたよ。人間は学習するのね。

 衣装(前田文子さん)は・・・なんとなくトンチンカンだった気がします。デンマーク城の人たちは、分厚い冬服用の生地でできた大きなスモッグのような衣装で、お坊さんのようでした。蜷川幸雄演出・野村萬斎主演の『オイディプス王』のコロスの衣装に似てます。服に体が埋もれてしまってちょっと笑える。旅の役者たちはなぜカラフルなアジア風の民族衣装だったんでしょう。ああ、思い出すだけでうつむきたくなる劇中劇のシーン。男が脱ぎすぎるのは蜷川芝居のお約束ですが、私はあれが苦手でしょうがない。あと、気になったのは靴です。オフィーリアのあの編み上げブーツはどういう意図?レアティーズの茶色の革靴は色が明るすぎるし、靴の裏が目立って気になりました。好きだったのはガートルード王妃の寝室での白いワンピース。ガートルードはヘアスタイルも何度か適度に変化があって良かったです。
 音楽はまず、ジャズは合わないと思います。「カノン」っぽい音楽もさることながら、とにかく音楽がヘンに目立ってヘンな意味を付加していたため、物語には入り込めませんでした。単に私の好みじゃないだけかもしれませんが。

 藤原竜也さん。ハムレット役。いつもの藤原節が健在でした。彼が出てくると舞台に注目できました。やっぱり光っています。でも、いつも通りなんですよね。欲を言わせていただくと、もっと演技のバリエーションを増やしていって欲しいです。
 鈴木杏さん。オフィーリア役。『奇跡の人』のヘレン・ケラー役がすばらしかったので今回は楽しみだったんですが、なるほど、セリフがダメなんですね。気が狂ってから走って登場するところは鳥肌が立つほど良かったですが、とにかくセリフがねー。でも声はきれいなのでこれからも続けていっていただければ注目の女優さんだと思います。篠原涼子さんよりは良かったです。
 井上芳雄さん。レアティーズ役。狂ったオフィーリアを初めて見て驚愕し、絶望する演技は良かったです。声がやっぱりきれいだし。でもハムレットとの決闘の後の態度の変わり様はちょっと説得力なかったですね。彼はやっぱり歌ですよ。

 高橋恵子さん。ガートルード王妃役。きれいだけどきれいなだけでした。浅いですね。あまり考えてなさそう。篠井英介さんのオフィーリアとどうしても比べちゃうのよね。
 たかお鷹さん。ポローニアス役。流れちゃってます。ところどころ良かったけど。
 沢竜二さん。旅芸人の看板役者役はダメでしたねー。型ばかりで上っ面でした。墓堀り人夫はまあまあ良かったですが、お約束の立ちまわりはもう観たいとは思えないんですよね。
 高橋洋さん。ホレーシオ役。予想通り良かったです。でもちょっと光が足りなかったなー。熱血系の演技ばかりが目立ちます。もうちょっと抑え目なのも観たい。
 西岡徳馬さん。王および亡霊役。・・・ガートルードと同じです。浅いと思います。
 小栗旬さん。フォーティンブラス役。やらされちゃったってことで。キスまで。大変ですね。華のある人だと思います。

 有名な演目に出演するって大変なことですね。役自体が超有名人だからどんどん比べられちゃって。

 文化村 : http://www.bunkamura.co.jp/

Posted by shinobu at 16:40