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Shinobu's theatre review
しのぶの演劇レビュー
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REVIEW

2003年11月29日

RUP『つかこうへいダブルス2003「飛龍伝」』11/27-12/7青山劇場

 おもしろかったーっ!
 泣いたーっっ!!
 つか芝居炸裂!
 やっぱりこうでなきゃ!

 役者さん一人一人が主役になっているお芝居って久しぶりでした。その場にいない、名前だけが読み上げられるような役でさえ、その存在を実感できるほどに人間が生き生きと鮮やかに存在していました。叫ぶばかりでセリフが全然聞こえなかったんですが、それさえ吹っ飛びました。

 『飛龍伝』は、男が男らしくあることがそれだけでかっこいいってことを教えてくれる最高の見世物ですよね。『蒲田行進曲』同様、日本の演劇の古典になっていると思います。オペラを楽しむのと同様に、観客はお約束の踊りや歌を楽しみに待っているんです。ああ、あの振り付け!ああ、あの歌!!大好きだーっ! おなじみの白いタキシードのカーテンコールは最高です。あれを観ると女で良かったって思えます。男って本当にかっこ良いんだもの。
 お決まりのセリフもこの作品独特の魅力です。敵か見方か、愛か憎か、くるくると変貌し続ける人の気持ち。けれどその底には決して変わることなく、とうとうと流れつづける若い、熱い心意気があるんです。それをどういう解釈でどう言いこなすかが、毎回抜擢される役者さんの勝負どころですよね。

 照明にしびれましたね~。あの堂々とした配色とダイナミックかつ大胆な展開は、まるでつか芝居に出演する一人の体を張った役者のようです。人の手のぬくもりと情熱を感じる照明オペレーションでした。装置なんていらない!?って思わせられるぐらい感動しました。
 JAE(ジャパン・アクション・エンタテインメント)の人たちの華麗な殺陣やアクロバットに目も心も奪われました。そうなのよっ、アクションはそれ自体でエンタテインメントなんです!かっこ良いいものをかっこ良く見せてくれるつかさんの演出に感激。
 選曲が面白かったです。「もう一つの土曜日」「マイウェイ」や、他にも「ああ、よく聴いたし口ずさめるんだけど、タイトルが思い出せないっ!」というような名曲たちのオンパレード。懐かしくって胸キュンです。主要人物(広末、筧、春田等)がマイクを持ってカラオケのように歌うシーンが何度もありました。普通なら考えられないような演出ですが、つかマジックですね。うっとり聞き入ってしまいます。

 広末さんと筧さんの二人のやりとりは『幕末純情伝』でも拝見しましたが、今回は凄みがありました。二人とも真っ黒で地味な衣装なんだけど、最高にセクシー。ただ、広末さんについてはちょっと慣れてしまった感がありましたね。なんとなく安心して立ってらっしゃるようで、その意味では『幕末・・・』の方が気合を感じられて良かったです。

 広末涼子さん。全共闘委員長 神林美智子役。哀しくてか弱い立ち姿で堂々とたんかを切るのが心に詰まりました。なんて可愛い人なんだろう。愛する男に尽くして殴られる女よりも、自分を愛してくれる男を蹴倒す女の方が似合っていました。
 広末さんの高くてキュートな歌声はまるで妖精のそれのよう。マイクを持って何度も歌を歌われましたが、元歌の歌声の上から歌うので巧いかどうかはわかりませんでした(笑)。でも可愛いからイイ!声優とかも出来そう。

 筧利夫さん。機動隊長 山崎一平役。かつ舌がすごい。鍛えられた体が熱い。アドリブが楽しくってしょうがなかったです。広末さんとのキスシーンが長すぎたのもご一興。1分ぐらいキスしたままの静止状態でしたね(笑)。広末さんは笑いを止めるのに必死でした。
 神林美智子(広末涼子)が死んで数年後のシーン。狂った一平(筧利夫)を見て桂木(春田純一)が「いつからだ?(いつから狂っているんだ)?」と聞くと、横にいた男が答えます。「自分の女房を打ち殺して正気でいられるかい!打ったその日から狂っとるんじゃ!」で、初めて泣けました。一平が美智子を本当に愛していたのが伝わっていたから成立したんだと思います。

 久しぶりに青山劇場をすっきり爽快な気持ちで出ることが出来ました。つか先生、ありがとう!

気になった出演者=赤塚篤紀/チョウソンハ
つかこうへい事務所 : http://www.tsuka.co.jp/
RUP : http://www.rup.co.jp/

Posted by shinobu at 21:49

アビー・マン 作・鵜山仁 演出『ニュルンベルク裁判』11/20-28紀伊国屋サザンシアター

 アメリカでの初演は2001年で今公演が日本初演です。第二次世界大戦終結後、ドイツのニュルンベルクで開かれた軍事裁判をもとに書かれたドラマ(フィクション)です。1961年に映画化され、脚本家のアビー・マンさんはその年のアカデミー最優秀脚色賞を受賞しています。

 第2次大戦中のドイツというとナチスによるユダヤ人等の大虐殺のイメージが強いですが、なぜそんなことが起こってしまったのかについての一つの解釈が述べられていました。
 戦争によって家や食糧はもちろんのこと、家族をはじめ健康も名誉も何もかも失った人間は、何かにすがらなければ明日を生きる気持ちになれない。「そこにやってきたのがヒットラーだった。彼はアウトバーンを作ってドイツ人に仕事を与えた。(他人種と差別化することにより)ドイツ人に名誉を与えた。」「ドイツを愛して止まない気持ちがヒットラーを総統にし、オーストリアを侵略させ、ユダヤ人等を虐殺する結果を生んでしまったのだ。」これらの説明には納得させられました。やってしまった罪は決して軽くなるわけではありませんが、ドイツを極限状態に陥れた国々(人々)にも責任があるように思いました。

 最終判決を下す前の判事の言葉に感動しました。「今、私たちが心に呼び返すべきは、正義と、真実と、人間一人の命の重さです(言葉は完全に正確ではありません)。」
 涙がとうとうと流れ落ちました。無実の人間を1人殺すのと、同じく無実の人間を100万人殺すのとではどちらが悪いのか、なんて議論にならないのです。日本が自衛隊をイラクに派遣するのかどうかが大きなテーマとなっている今、人間の幸せとは何なのか、罪とは何なのかについて、もう一度自分で考えなければと思いました。

 舞台美術(島次郎さん)が素晴らしかったです。舞台奥には上袖から下袖まで、床から天井までびっしりと椅子が並べられています。背後からの照明で黒いシルエットだけだった椅子たちは、裁判が進んでどんどんと真実が炙り出されていくとともに前からの照明が当てられて、その色や風合いが徐々に表れてきます。一脚一脚のイスは裁判を見守るドイツ国民、または殺されたユダヤ人達を表しているんですね。赤ちゃんが座る木馬も並んでいて胸が苦しくなります。
 黒い板状の幕が舞台袖から上手、下手へと平行移動し、映像を写すためのスクリーンになったり、部屋や空間を仕切る壁の役割を果たしていました。シンプルでスマートです。前半と後半で裁判所の配置が90度移動したのがとても効果的でした。さすが鵜山仁さん(演出)だと思います。
 音楽は穏やかなクラシック音楽オンリー。私は詳しくないのでわかりませんが、おそらくドイツの音楽だと思います。美しい音色です。

 中嶋しゅうさん。アメリカから呼ばれた判事役。めちゃくちゃ穏やかで暖かい人でした。弱いところも優しさとして表れていました。この人が主人公でよかった。
 鈴木瑞穂さん。被告の元・裁判官。弁護人をたしなめて自ら弁論を始めたシーンの迫真の演技は、このお芝居の最大の見所だと思います。
 今井朋彦さん。「彼ら(元・裁判官)を裁くのは、すなわちドイツ全体を裁くことだ」と考え、必死に被告を弁護する弁護人役。こういうエリートの役は今井さんに限りますね。ちょっとヤな奴風になるのがさらに良い(笑)。

 この裁判(および東京裁判)によって「平和に対する罪」「人道に対する罪」という新しい罪が国際的に認められる結果となり、それがその後の世界に大きな問題を残したことはここでは語られていませんが、このお芝居で重要なのは人間一人の命の重さを論理的に、易しく実感できることだと思います。裁判劇としてももちろん面白いです。

RUPのHP : http://www.rup.co.jp/

Posted by shinobu at 16:47

横塚進之介の集い『カップルズ 冬のサボテン』11/21-23荻窪アールコリン

サードステージ所属の役者さん、横塚進之介さんが企画・演出・出演するユニットの第1弾。
 脚本の鄭義信さんは映画の脚本も書かれている方ですね。ルビー・モレノさんと岸谷五朗さんが出演している映画『月はどっちに出ている』は面白かった覚えがあります。

 中学、高校と野球部で一緒だったホモ4人のお話。それぞれの道を進みながらも毎年一度は懇親野球大会(同窓会)を開いている。カズ也とフジ夫は付き合って5年以上になるが最近うまくいっていない。カズ也は世間体や将来のことも考え、とうとう女性と結婚する決心をするが・・・。

 「女みたいに約束があるわけじゃない」というセリフがありました。男同志の恋愛は拘束力が弱いんですよね。結婚とか子供とかがあるわけじゃないから(日本では)。そこが甘い蜜であり、つらいところですね。結婚式の前にカズ也(横塚進之介)が本心を告白するシーンが良かった。泣けちゃいました。「結婚して子供ができて、その子供がまた子供を生んで、家族がどんどん増えていって、俺は年をとっていく。そしていつか沢山の家族に囲まれながら、あいつのことを思い出すんだ。俺が本当に愛したのはあいつだけだったって。」(セリフは完全に正確ではありません)

 野球場のロッカールーム(着替える部屋)が舞台でしたが、なぜいつもロッカールームなのかという必然性があまり感じられなかったです。他にも部員がいる設定ですが、それが感じられなかったのは残念。同窓会を開く記念日が野球部にいた仲間の命日だった、というのが最後の最後にわかりますが、もうちょっと早めから伏線を張っていた方が良かったんじゃないかなーと思います。
 音響(選曲)がちょっと合ってなかったですね。デパートの伊勢丹でかかる音楽が流れてめちゃくちゃ気になりました。
 役者さんは皆さんとても演技が上手な方ばかりで、一人一人の持ち味が生かされていました。小さな劇場で役者さんを贅沢に堪能できた気持ちです。

 横塚進之介さん(サードステージ)。私にとっては「復活!」って感じです。初めて横塚さんを拝見したAtticTheater『クオリティー・オブ・ライフ』@池袋小劇場での、黒い瞳の輝きと悲しみをたたえた素朴な立ち姿をまた見ることができました。ちょっとフテくされてる役とか黙々とがんばっているキャラが似合いますよね。にこやかな好青年役とかおちゃらけキャラよりも。結婚式の直前の告白シーンでの存在感がすごかった。
 佐賀野雅和さん(ヰタマキ)。弟分のゲイの役がぴったり。かわいらしいです。ヰタマキっぽいクサイめの演技がたまに出ましたが、気になりませんでした。
 高橋拓自さん(サードステージ)。おねえ系オカマ役。動物電気でもお馴染みのマッチョな高橋さん。テンション高く、張り切り系の演技で盛り上げてくださいました。反射神経がするどくて芸も細かいし、笑いも上手だと思います。美形ですよね。
 中川育男さん。素(す)かと思うほど自然な存在でした。優しいですね。

問い合わせ 横塚進之介の集い 070-5366-7259

Posted by shinobu at 16:24

オッホ『LIFE & TECHNOLOGY』11/19-30THEATER/TOPS

黒川麻衣さんが作・演出をつとめるオッホ。知的な毒と緊張感ある間合いが独特な劇団だと思います。シアタートップスで常に公演があり、オッホといえばトップスです。こういうの好きです。

 とある工場。精密機械を作っているらしい。コンベヤーで単調な作業をしている従業員たち。それぞれに大切なプライベートがあり、ことあるごとにサボろうとする。そこに短期間就業する研修生がやってきて・・・。

 黒川さんの脚本は、日常というサバイバルな環境で、小気味よく残酷で意地悪で、ちょっとエロチックです。私はいつも心の隅っこの方でスカッとします。

 1本ものではなく、短編が途中で混ざっていました。1本ずーっと同じストーリーになるよりも軽くて良かった気がします。
 能天気兄弟(みたいな名前)の2人組が出てくる度に笑いを取っていましたが、私はそんなに好きじゃなかったですね。
 今回も選曲と照明が私好みでした。カットインする感じも好き。「アンケートにご協力ください」のお約束エンディングも好き。

 これもまたいつも感じる事なのですが、役者さんがナーバスすぎると思います。そういう演出意図なのかもしれませんけど。オープニングであんなに恐い顔で緊張した様子だと、観客まで緊張しちゃって笑えないんですよね。コントなのかどうかもわからない。中盤以降は慣れてきましたが、今回はなんだか最後まで世界は融合せず、バラバラなままで終ってしまった感がありました。

 工場長に横恋慕するオタフク顔の女優さんがすごくキュートでした。

オッホHP : http://www.ojo.gr.jp/

Posted by shinobu at 15:56