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Shinobu's theatre review
しのぶの演劇レビュー
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REVIEW

2004年08月08日

子供のためのシェイクスピアカンパニー『ハムレット』07/15-20世田谷パブリックシアター

 子供のためのシェイクスピアカンパニーは、私が心から敬愛する団体です。2000年から拝見していまして(『リア王』、『十二夜』、『リチャード二世』、『ヴェニスの商人』、『シンベリン』)、すっかりその魅力に取り付かれています。

 私が発行しているメルマガ創刊号のお薦めNo.1でした。おかげさまで私がわかっているだけでも10人以上の方がメルマガを読んでこの作品のことを知り、実際に観に行ったりチケットを買ってくださったりしています。ツアーファイナル東京凱旋公演は、北とぴあ・さくらホールで9/5(日)17時開演です。どうぞお見逃しなく♪

 今回も期待を裏切られませんでした。あぁ楽しい。あぁ感動。お友達を誘って4人で伺ったのですが、全員大満足でした。黒マント、手拍子、シェイクスピア人形などのお馴染みの演出も健在。イエローヘルメッツも定着してきましたよね(笑)。FAVORITEのページにも書いていますが「老若男女を問わない日本製シェイクスピア・エンターテインメント」だと思います。

 このシリーズの素晴らしい特徴は、子供も楽しめるということはもちろんのこと、優しい笑いで包みながら、シェイクスピア作品を咀嚼して大切な意味を抽出し、わかりやすく観客に伝えてくれることだと思います。

 今回は、ベルギーの王子フォーティンブラスのエピソードをお芝居の初めから数回にわたって差し込んでいることに最も惹かれました。「王位を継ぐのは、フォーティンブラス。それが死を迎えたハムレットの心だ」というハムレットのセリフの意味がようやくわかりました。自分の国デンマークのことを憂えている王子ハムレットは、自分の死後に国を治める者を選ぶことで後の混乱を防ぎましたし、身内からではなく外部から、なんと元・敵国の王子であるフォーティンブラスを選ぶという英断をするわけです。理由はただ一つ、フォーティンブラスが彼の目にかなった勇将だったから。だからラスト近くのフォーティンブラスのセリフ「彼(ハムレット)こそは、時を得れば、たぐいまれな名君ともなったであろうに」に説得力があるのです。

 「このままでいいのか、いけないのか、それが問題だ」というハムレットの中でも最も有名なセリフが何度も繰り返されます。ハムレットが現状に甘んじないで、常に問題にまっすぐ向かっていく人物であることを表しています。ただ、父親を叔父に殺されて、母親もその叔父に奪われて・・・という苦境にいたから、その能力が発揮できなかったのだと思うのです。

 私はシェイクスピアの作品の中でも『ハムレット』がすごく好きで訳本も数回読んでいますが、読むたびに彼の長いセリフで感動していました。なのに“シェイクスピア作品の中で最も優柔不断なヒーロー”とか“実は父の復讐を果たせなかった弱虫”などと評されることが多く、私もそれにちゃんと反論することができずにいましたので、脚本・演出の山崎清介さんがこういう解釈を表されたのが嬉しくて仕方ないです。

 黒いマントの下に色鮮やかな衣裳を身に着けていて、マントを脱いだら誰かになっているというお馴染みの演出は、演劇の可能性をものすごく広げていると思います。一人が何役も演じられるのもすごく面白いです。だいたい、フォーティンブラス(ノルウェー王子)とギルデンスターン(ハムレットの友人)を同じ役者が演じるなんて有り得なくって笑えます(笑)。レアティーズ(オフィーリアの兄)役の方もバーナードかマーセラスを演じてましたよね。ハムレット役の植木さんもその他大勢の役を演じられていました。

 例えば去年、藤原達也さんが紀伊国屋演劇賞 個人賞を受賞した蜷川幸雄さん演出の『ハムレット』@シアターコクーンでは、誰がどの役をどのように演じるかが注目ポイントになりました。おそらく大半のシェイクスピア作品はそういう視点で評価されます。けれどもこの作品では一人の役者さんが数人を演じますので、一人の人物にそれほど気をとられることがなく、観客は作品が伝えようとしている意味や、作品全体の空気を感じ取る方へと触覚を向けることができるのです。

 子供が退屈しないように、ところどころにわかりやすいギャグを入れて、もともとの戯曲もかなり省かれています。アフタートークで植本さんもおっしゃっていましたが、ハムレットの7つの有名な長ゼリフについても、省略されたり、数人で分けて語ったりしていました。ただ、「子供のための」作品とはいえ小学校高学年以上が推奨年齢な気がします。悲劇はちょっと難しいかもしれませんね。私は今まで観た6作品の中で私は『十二夜』が一番好きでした。お子様には喜劇の方がお薦めかも。 

作:ウィリアム・シェイクスピア(小田島雄志翻訳による) 脚本・演出:山崎清介
出演:植本潤・岡まゆみ・福井貴一・伊沢磨紀・佐藤誓・間宮啓行・彩乃木崇之・戸谷昌弘・佐藤あかり・山崎清介
照明:山口暁 音響:近藤達史 美術:岡本謙治 衣裳:友好まり子 演出補:小笠原響 舞台監督:工藤静雄
《地方公演→新潟 宮城 山形 北海道 島根 茨城 岡山 福岡 大分 静岡 京都 大阪 神奈川 愛知 千葉 埼玉 東京(北とぴあ・さくらホール) 》
子供のためのシェイクスピアカンパニー:http://homepage1.nifty.com/j-ishikawa/c-ro.html

Posted by shinobu at 2004年08月08日 18:48 | TrackBack (1)