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Shinobu's theatre review
しのぶの演劇レビュー
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REVIEW

2004年09月19日

チェーホフ東京国際フェスティバル・ジンジャントロプスボイセイ『かもめ』09/15-20スフィアメックス

 中島諒人さんが演出するジンジャントロプスボイセイは、はっきりと独自色のあるアーティスティックな舞台空間づくりに定評があり、利賀演出家コンクール2003において最優秀演出家賞を受賞しています。私はこれまでで3作品ぐらい拝見していると思うのですが『RとJ』@青山円形劇場では泣いちゃいました。

 1時間15分の『かもめ』でした。トレープレフが自殺するところから始まり、彼の回想という形でストーリーを順に追っていき、最後はまたトレープレフの自殺で終演します。短い時間内にきっちり本筋が描かれているのはすごいと思いました。

 舞台の周りは黒い幕で囲まれており、ステージも黒で、その上にモスグリーン、濃いグレー、黒などの暗い色使いの衣裳を着込んだ俳優が客席の方を向いて静止します。全体がダークなイメージの中、ニーナだけは白のドレス。衣裳デザインは『かもめ』の世界には関係なく抽象的なスタイルです。蜷川幸雄さんのシェイクスピア劇やギリシア悲劇でよく見られる全身を包み込むデコラティブな作りで、テカテカした素材も使っていることから近未来SF映画の雰囲気もあります。

 スフィアメックスでの『かもめ』なので、私は今年の1月に観たク・ナウカ プロデュース『かもめ・第二章』とどうしてもイメージを重ねてしまいました。『かもめ・第二章』で伝わってきた人間の心が、今作品ではあまり感じられませんでした。利賀フェスティバルで「ギリシア悲劇のようなチェーホフ作品」と評されたそうですが、たしかに神々が天界から人間たちのおろかな所業を見下ろしているという風に見えなくもないですね。

 セリフの語り口に特徴があり、ジンジャンっぽさというか、ほぼ確立されたリズムがあります。ク・ナウカの俳優の語りにも似ていますね。日本語って鍛えていくとそういう風になるのかな。しかしながら、心に伝わってくる言葉を発していない役者さんが多いような気がしました。歩いたり、立って静止したり等の体の動きについては、じっと集中して見ていられるのですが、声を出したとたんにちょっとがっかりするというか、だんだんと頭が『かもめ』から離れていってしまいました。
 特に早口で長いセリフをしゃべりきる時は、言葉を話しているというより振付をこなしているような印象で、ただ脚本どおりのセリフを発しているだけで、登場人物を演じていないように見受けられました。そういうことは初めから意図していないかもしれませんが、私は退屈してしまいました。常に目を見開いて怖いお顔をしてらっしゃるのも不思議ですね。能面を被っているイメージなのかな。

 ジンジャンといえば笑いにも期待しているのですが、今回は笑えなかったなぁ。マーシャが“北の宿から”の節で替え歌を歌うのがたぶん笑いになるはずだったと思うのですが、もうちょっとパンチがあれば笑えたかも。三条会ぐらいのテンションがあれば(笑)。

 トレープレフとニーナが二人で作ったお芝居を上演する湖のほとりは、舞台の面側中央に置かれたテーブルの上にミニチュアとして作られていました。トレープレフとニーナの無垢なる青春時代を小さくて愛らしい箱庭として表すなんて、素晴らしいアイデアだと思いました。ニーナがトリゴーリンに心奪われて、その机を箱庭ともども倒してしまい、砂が床にざざぁっと落ちるのがすごく切ないです。その机の天板全体が照明で光るようになっているのも美しい。

 あぁ・・・つくづくこの作品は野外でぜひ観たいと思いました。野外公演の舞台写真を観ると、湖がありますし、たいまつの明かりも生々しいし(あれ?たいまつは無いか、でもそんな風に見えます)、全く違う味わいだったことと思います。(この後、鳥取公演があります)

作:チェーホフ 演出:中島諒人
出演:高橋等 斉藤頼陽 中川玲奈 西堀慶 赤羽三郎 矢部久美子
舞台監督:赤羽三郎 音楽:スズキクリ 照明:斉藤啓/大迫浩二 衣装/メイク:デボラ 音響:AZTEC  協力:小倉亮子 制作:中島佳子
ジンジャントロプスボイセイ:http://www.zinjan.jp/

Posted by shinobu at 2004年09月19日 23:01 | TrackBack (1)