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Shinobu's theatre review
しのぶの演劇レビュー
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REVIEW

2004年09月22日

TBS/Bunkamura『ヤック トゥア デ~ン 「赤鬼」タイバージョン』09/14-22シアターコクーン

 野田秀樹さん作・演出の『赤鬼』3ヴァージョン連続公演です。
 ロンドン・ヴァージョンに続いてタイ・ヴァージョン。あまりに感動したので、メルマガ号外(9/22号)を出しました!

 BunkamuraのHP内のページ「赤鬼とは」に『赤鬼』のこれまでの上演歴とあらすじが書かれています。
 あらすじを引用します↓
 “村人に疎んじられる「あの女」と頭の弱いその兄「とんび」、女につきまとう嘘つきの「水銀(ミズカネ)」が暮らしていた海辺の村に、異国の男が打ち上げられたことから物語が始まる。
 言葉の通じない男を村人達は「赤鬼」と呼び、恐れ、ある時はあがめ、最後には処刑しようとする。彼と唯一話ができる「あの女」も同様に処刑されそうになる。「水銀」と「とんび」は捕らえられた二人を救い出し、赤鬼の仲間の船が待つ沖に向かって小船を漕ぎ出すが、船影はすでになく、四人は大海原を漂流するのだが…。”

 純白の気持ちよさそうな木綿の衣裳に実を包んだ、褐色の肌の快活なタイ人の俳優さん達が、太鼓を鳴らしながら楽しげに飛び跳ねて舞台に登場してきた時点で、もう私は涙ぐんでいました。何なんだ、この空気感は?!透き通るような、清々しい明るさです。舞台は客席とほぼ同じレベルで、真っ白の正方形。床はつるつると滑る素材で、役者さんは裸足で軽やかに闊歩しています。

 ロンドン・ヴァージョンと同じく、浜に打ち上げられた「あの女」「水銀」「とんび」の3人が村人に助けられ、フカヒレを食べた「あの女」が身を投げるところから始まりました。ストーリーを全てわかった上でどんな具合に楽しませてくれるのかな~と、うきうきしながら観始めました。

 ひざの高さぐらいの銀色の真ん丸いテーブルをロンドン・ヴァージョンでのワードローブのように使っていました。足が6本ぐらい付いていて、なんとその長さがちぐはぐなのです。赤鬼(野田秀樹)と「あの女」(ドゥァンジャイ・ヒランスリ)が台の上に乗って演技する時はグラグラ、ガタガタ揺れまくりです。そして天板と足が外れるようになっていました。天板はただの丸い円盤になり、足の方は全てが丸い輪に接続されいて、6本の棒が直径1.5mほどの輪に垂直になるようにひっ付けられた小道具になりました。それが縦向きに置かれて洞窟の入り口になったり、足が天井を向くように床に置かれて牢屋になったりします。

 ロンドン・ヴァージョンの時は『赤鬼』自体を初めて観るのでイヤホンガイドを借りたのですが、今回はだいたいわかるしな~と思って借りずに観る事にしました。・・・浅はかでした。だってタイ語なんだもの。セリフが全然わかりません。セリフの意味がわからないので、みんなが笑っているところで私はシーンとしていたりして、途中でちょっぴり後悔しましたね(笑)。
 でも、かえって役者さんの演技をしっかり見ることができました。これがラストに近づくにしたがって、より強い感動を呼んだと思います。だんだんと役者さんが登場人物にぴったりフィットしてくるんです。意味の分からないセリフもなぜか頭にすーっと沁み込んでくるようになり、赤鬼と「あの女」を裁く裁判のあたりから、完全にこのお芝居の世界にどっぷり頭が浸かり込んでいました。

 「あの女」役のドゥァンジャイ・ヒランスリさんから目を離せませんでした。凛とした立ち姿の中に、生まれながらに人間が持っている野生が静かに燃えています。自分が赤鬼の肉を食らったのだと知ってしまった瞬間、彼女の震える背中からその憤りと悲しみが、煙のように立ち現れて目に見えるようでした。ラストシーンで、波の群舞をしながら10人程の役者さんが舞台を斜めに横切り、それに対してすれ違うように「あの女」が一人でゆっくりと歩いて来ます。鍛えられたスリムな胴体と光を放つ褐色の手足。世界の全てを許したアルカイック・スマイル。彼女のあまりの美しさに、涙が溢れて溢れて顔がくしゃくしゃになりました。
 タイ人の俳優さんの声と身体に魅せられたことが、この作品の一番の思い出になると思います。笑顔がすごく素朴で清らかで、彼らの体を通じて地球のパワーが劇場にみなぎっているようでした。人間ってこんなに自然と融合できるんだなと、いえ、そもそも人間は自然そのものだったんだなと、実際に体感させていただけた気がしています。

 赤鬼の衣裳は体をぴったり包むようなタイツ・スタイルで、毛羽立った手編みのセーターみたいな生地でした。色合いは緑系でミッソーニのニットのように色が混ざりあってます。顔に白いメイクをし、右目だけに白いコンタクトを入れて、髪も白いソバージュでしたので見た目は本当の化け物でした。赤鬼が目をふさぎたくなるくらい恐ろしい姿のケダモノだったからこそ、彼が花を主食としていたり、壁画を描いていたり、子供を優しく育てていたりすることが奇跡として伝わりますし、そんな彼と心を通わせられたことが大きな喜びになるんですよね。たしか前回は赤いスーツだったようなので(舞台写真によると)こちらの方が良かったと思います。

 「水銀」役のプラディット・プラサートーンさん。かっこい~っ。セクシーッ。鍛えらて引き締まった野性的な体に、男らしい優しさがいっぱいでした。日本人の俳優の誰かに似てるな~と思いました。見かけではなく在り方で。

 ※ちょいと蛇足です。赤鬼が、「あの女」と一緒にいる時に「freedom!」と叫ぶシーンで、昔私が出演したお芝居で使った音楽が流れました。雰囲気や意味として全く同じ状態で使われたので(私の芝居では壁が開いて新しい世界が現れるシーンでした)、いわゆる走馬灯状態に陥り、頭がヘンになりそうでした。体は覚えているものですね。くわばらくわばら。

作・演出:野田秀樹 
翻訳=プサディ・ナワウィチット 共同演出=ニミット・ピピットクン 美術・衣裳=日比野克彦 照明=海藤春樹 照明助手:飯田幸司 選曲・効果=高都幸男 ビューティ・ディレクター:柘植伊佐夫 演出助手:石丸さち子 舞台監督:間庭隆治 カンパニーマネジャー:千徳美穂
出演= 野田秀樹(赤鬼) ドゥァンジャイ・ヒランスリ(あの女) ナット・ヌアンペーン(とんび) プラディット・プラサートーン(水銀) 他
Bunkamura内『赤鬼』サイト:http://www.bunkamura.co.jp/cocoon/event/akaoni/index.html

Posted by shinobu at 2004年09月22日 22:37 | TrackBack (0)