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Shinobu's theatre review
しのぶの演劇レビュー
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REVIEW

2004年10月11日

風琴工房『風琴文庫』10/11-17自由が丘 大塚文庫

 風琴工房は詩森ろばさんが作・演出を手がけてらっしゃる劇団です。少人数のお客様限定の企画で、自由が丘にある大塚文庫という私設美術館の中で行われています。ダブル・キャストの2バージョンの内、私は[桐]チーム(風琴工房の役者陣)を拝見しました。
 全てネタバレになりますので、これから観に行かれる方はお読みにならない方が良いと思います。

 会場の大塚文庫は「大塚正夫が生前の1989年に、美術工芸品のささやかなコレクションを収蔵展示するために、自宅敷地内に建設したもの」だそうです(大塚文庫HPより)。自由が丘の閑静な住宅街にひっそりと、こんなに素敵な建物があるなんて、知ることができただけでも嬉しかったです。今年4月にOrt-d.dの『乱歩プレイ』が上演された高椿美術館を思い出しました。

 昭和異端文学の4つの短編をもとにした3幕じたての作品でした。地下室で「昆虫図」、1階の和室で「アップルパイの午後」、2階のサロンで「双生児奇譚」(?)が上演されます。「瓶詰地獄」が全てのバックグランドになっており、登場人物である兄(山ノ井史)が妹(椎葉貴子)を探しているという設定でした。

 夢野久作の「瓶詰地獄」は知っていました。たぶん漫画で読んだと思います。南の無人島で禁断の愛欲の日々をむさぼっていた近親相姦の兄妹。ビール瓶の中に入れた手紙によって自ら招いた悲しい破滅。ドロドロしていて官能的で、汚いことと綺麗なこととのバランスが紙一重なのが刺激的です。読んでいる方も罪悪感を感じながら、どんどんと読み進んでしまう作品でした。

 [桐]バージョンは最初に和室、次が地下室でした。両方ともほぼ2人芝居でセリフも多いため、言葉に重点をおいて観ることになりました。そういう状況で役者さんの演技がおぼつかないため、見ていて苦しかったです。また、セリフが説明のためにばかり使われている気がして集中できず、物語を味わうところまで入って行けませんでした。
 特に男優さんが弱かったですね。「そちらの方は手練(てだれ)ですよ」と自分のセックス・テクを自負しているような男には見えませんでした。“ご案内人(座敷童子)”役の宮嶋美子さんは芯から堂々とされていて良かったです。

 「手練」についてですが、そもそも一人の女(妹)としか経験してないのにテクがあると思っていること自体おかしいですよね。他にも脚本に合点がいかないことが多かったです。「昆虫図」で男(兄)がナイフを持っている理由を夫人(松岡洋子)に説明しましたが、ナイフは突然出てくるもので良かったと思います。「アップルパイの午後」が始まる前に、妹が兄に向かって「この(戯曲の)とおりにやってくれないとダメ」と言ったのは、構成のつじつま合わせのためのセリフだと受け取ってしまいました。

 最後は2階のサロンで両バージョンの役者さんが全員集合します。登場人物が各2人ずつ同時に出て来て、互いに「あなたは誰?」などとしゃべりだしたのに仰天。地下と1階で作り上げた世界の大ネタバレ大会が始まりました。夫人が「この屋敷の地下室ではいつも私は殺されるの」と言っちゃって以降、「全部はこの屋敷のせい」になり、さらに、案内人である座敷童子が、どこまでが原作でどこからが創作なのか、[桐]と[萩]の場内進行の違いについてなど、しっかりとセリフで説明してくれちゃて、もー何が何だか、何をどうしたいやら。私は何も知りたくなかったですね。昭和異端文学の世界をほんのりと味わうだけで良かったんです。同じ登場人物が2人いる状態から「双生児奇譚」につなげてしまった時にはもう、私の心はサロンから逃げ出していました。一体何をしたい公演だったのかなぁ・・・。

 会場がものすごくスペシャルですし、観客と作り手との距離がめちゃくちゃ近いですので、ほんの少しでもボロが出ると目立つんですよね(着物の着付けとか)。こういう企画はヴィジョンが一番大切だと思います。根本というか、最初の大前提さえしっかりしていれば細かいところは気にならなくなるんです。そこが伝わってこなかったから、こういう感想になったんじゃないかなと思います。

 さて、これはぜひ書き記しておきたいのですが、チラシがものすごく可愛らしかったですよね。そもそも私はあのチラシに惹かれてチケットを予約したんです。私のお気に入りチラシ・コレクションに加えました。公演公式HPも凝ってるし美しいです。郵送で届いたチケットは繊細な絵柄が印刷がされていて、しおりとしても使えるデザインになっていました。こちらのブログLIVESTOCK DAYSで詩森ろばさんの赤裸々な(笑)稽古場日誌が読めます。作る側の死に物狂いの苦労が伝わってきます。これもまた、私がこの作品を観に行きたくなった原因のひとつです。

原作:久生十蘭「昆虫図」/夢野久作「瓶詰地獄」/尾崎翠「アップルパイの午後」/桐島華宵「双生児奇譚」
構成・脚本・演出:詩森ろば TOTAL DESIGN:LIVESTOCK STYLE
出演:[桐] 松岡洋子・椎葉貴子・山ノ井史 [萩] 吉川愛・平山寛人(机上風景)・ほりゆり(第三エロチカ)[ご案内人] 宮嶋美子
風琴文庫:http://windyharp.org/bunko/
風琴工房:http://www.windyharp.org/

Posted by shinobu at 2004年10月11日 17:34 | TrackBack (0)