REVIEW INTRODUCTION SCHEDULE  
Shinobu's theatre review
しのぶの演劇レビュー
mail
REVIEW

2004年11月17日

青年団リンク・地点『三人姉妹』11/10-21アトリエ春風舎

 噂の三浦基(みうら・もとい)さんの演出を初体験しました。
 「今までにない」とか「斬新だ」等の当たり前の表現だけでは言い表せない衝撃でした。チェーホフの『三人姉妹』を観たこと(読んだこと)がある人は、絶対に観た方が良いです。両方とも経験のない人は、戯曲を読んでから観るとめちゃくちゃ面白いと思います。私も一度読み直してから行けば良かったな~。

 私、『三人姉妹』は悲しすぎるからちょっと苦手なんです。数種類の『三人姉妹』を拝見してきましたが(松本修演出@世田谷パブリックシアター、岩松了演出@シアターコクーン、等。あなざ事情団演出@アトリエ春風舎は例外?)、寒々しくて息苦しい上にすごく共感するから、観終わった後に暗い気持ちになって疲れるんです。
 でも、チェルフィッチュの岡田さんの日記ブログで「この演出でジェイムス・ジョイスの『フィネガンズ・ウェイク』も舞台化できちゃうよ」的なことが書いてあったので、観に行く決心をしました。先日、栗山民也さんが一番お好きな戯曲だとも耳にしましたしね。

 劇場に入った時から3人の女優が舞台上にいました。3人とも台や机、箱の上に乗っています。静かに暗くなっていき、最初の第一声が聞こえた時に何かがはじけました。セリフ、ではないのです。音、声、言葉、歌、叫び、そしてまた音。日本語の発音ルールを守らない発声で、しかしあいうえおの音としてははっきりと聞こえる、今までに聞いたことのない生の日本語でした。早口になったり、ささやき声になったり、オペラ歌手ばりに歌いあげたり。言葉のニュアンスもセリフの意味どおりではありません。少なくとも私が知っている『三人姉妹』の中に出てくるセリフとはかけ離れた感情が載せられていました。バカにしたり、威張ったり、あきれたり、愚痴ったり・・・etc.。

 ストーリーは時系列のとおりに進んでいきました。舞台上には上手からオーリガ(長女:安部聡子)、マーシャ(次女:兵藤公美)、三女(イリーナ:角舘玲奈)。皆、ほぼその場所を動きません。アンドレイ(長男:島田曜蔵)がすごいおデブさんで(青年団のお馴染みの俳優さんですが)、下手客席前の猫足のバスタブの中から出てきたのには爆笑。彼もまた姉妹と同じようにその場所から離れられません。モスク“バ”に行けなかった家族。

 私は何度か涙が溢れ出すのを止められませんでした。一箇所明白に覚えているのは、アンドレイのバスタブを妻のナターシャ(申瑞季)がお買い物用カートで容赦なくガンガンと叩きつけるシーン。そうなんだよね、ナターシャはものすごい暴力を振るったんだよね、彼に。

 どう表現したらいいのかわからないので、私の知る範囲の比ゆをしてみます。ク・ナウカの謡うような語りもあるし、青年団(平田オリザ)の死をまとう静けさもあるし、岩松了の内向的な不条理もあるし、大人計画(松尾スズキ)の限界を超える生々しさもあるし。
 難解なことを大胆にやりきって、決め細やかな優しさもあります。お説教もしません。全然えらそうじゃないです。凄いです。ただ、全てを味わうには私の心と脳みそにもうちょっと余裕が必要でした。

 2003年9月にソウルで初演、その後11月に東京、2004年5月に京都と、この短い期間にもう4演目ですね(あれ?もう一回東京でやってなかったかな?)。それほどの話題作であり人気作なのでしょう。私も時間があったら戯曲を読み直してからもう一度観たいぐらいです。

 劇作家兼演出家のAshleycatさんの、この作品についての素晴らしい劇評が読めます。これを読めばわかる!!
 → Ashleycat's Eternal Second banana.

演出:三浦基 原作:アントン・チェーホフ 翻訳:神西清
出演:安部聡子 太田宏 大庭裕介 奥田洋平 角舘玲奈 島田曜蔵 申瑞季 兵藤公美 山内健司
舞台美術:杉山至×突貫屋 照明:吉本有輝子 照明オペレーター:伊藤泰行 音響:田中拓人 音響オペレーター:大竹直 衣装:すぎうらますみ 宣伝美術:京 制作:田嶋結菜 総合プロデューサー:平田オリザ 主催 :(有)アゴラ企画・青年団
青年団:http://www.seinendan.org/

Posted by shinobu at 2004年11月17日 01:14 | TrackBack (0)