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Shinobu's theatre review
しのぶの演劇レビュー
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REVIEW

2004年12月19日

地人会『化粧-二幕-』12/10-19シアタートラム

 いつもチケットが早々に売り切れる、渡辺美佐子さん主演の一人芝居です。1982年初演で、フランス、アメリカ、カナダ、ベルギー、タイ、マレーシア等でも上演され、スペインやイギリス、韓国ではその国の女優さんによって演じられています。

 もうすぐ取り壊されてしまうさびれた芝居小屋で、女座長・五月洋子が今宵も出演前の準備をしている。楽屋で化粧をしている最中に、テレビ局の人間がテレビ出演の話を持ってきた。なんと、生まれて間もない頃に致し方なく孤児院に預け、そのまま生き別れてしまっていた洋子の赤ん坊が、田上晴彦という人気俳優になっており、その田上と洋子のご対面番組だというのだ。(詳しいあらすじはこちら)。

 第1幕はうとうとしちゃったりしてましたが、第2幕に入って息子が登場してからは、天国と地獄、そしてその両方を超えた人間の境地を叩きつけられて、いやがおうにも涙が流れてくるし、ほとんど呆然自失状態にも陥りました。
 悲しすぎた・・・。なんて大人な芝居なんだろう。年寄り向けだという意味もありますが・・・。
 脚本と演出から感じられる、全てを知り尽くしたからこそ保てる心の冷静さに、私なんて太刀打ちできないと思いました。

 ここからネタバレします。

 息子とおそろいで持っていたはずのお守りが違うものだったとわかった瞬間に、逃げるようにして息子が立ち去ってしまい、追い討ちをかけるかのように客席からは野次が飛びます。その野次が実は観客のものではなく、小屋の取り壊しをしようとする土建業者のものだとわかるのが残酷。洋子は観客が誰もいないところで、同じ芝居を10日間も一人でやり続けていたのだということが暴露されるのです。

 小屋を取り壊していく様子が屋台崩しで表されます。柱が倒れ、屋根が落ちていく中でも洋子は演技をやめません。堕ちるところまで堕ちきってしまった人間が、それでも芝居を演じる中に喜びを見出していくという様子なのかなぁと思いつつも、やはり残酷さが私を相当深く蝕んでいたため、入り込むことはできませんでした。凄い芝居です。

 いつか、渡辺美佐子さん以外の女優さんがチャレンジされるのが楽しみだなーと思います。

《千葉・大田(東京)・大阪・長野・愛知・長野・熊本・北九州・埼玉→東京公演》
【出演】五月洋子(女座長):渡辺美佐子
【スタッフ】作:井上ひさし  演出:木村光一  装置:石井強司  照明:室伏生大  音楽:宇野誠一郎  効果:深川定次  舞台監督:幡野寛  制作担当:和泉将朗  制作総務:渡辺江美
地人会内:http://www1.biz.biglobe.ne.jp/~CJK/ftr_96K.htm

Posted by shinobu at 2004年12月19日 17:42 | TrackBack (0)