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Shinobu's theatre review
しのぶの演劇レビュー
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REVIEW

2004年04月10日

扉座『曲がり角の悲劇』4/10-18シアターサンモール

 扉座の第32回公演です。横内謙介さんの脚本が好きなので、気づくと必ず観ています。
 私はそもそも所属女優の判 美奈子さんのファンで扉座に通っていたのですが、幸か不幸か、判さんは今度始まるTVドラマ(昼ドラ)にレギュラー出演されるようなのです。扉座にはしばらく出られないのかしら・・・(泣)。

 海のない国と海の有る国の戦争。運命のせいなのか、自分のせいなのか、どんどんと人生を狂わせて行く一人の兵士の正統派悲劇でした。シェイクスピアの『ハムレット』に似ているところもあると思います。
 パンフレットで横内さんもおっしゃっているように悲しい青春ドラマというか、“青い”話だと言えます。でも私は素直に感動しました。以下、ネタバレします。

 やることなすこと裏目に出て、その魔のスパイラルから脱け出せない主人公ナギ。傍から見てると「そこで気づけよ!」って言いたくなるのですが、人間は一度思い込んだらなかなか止まれないんですよね。そしてますますドツボにはまります。そんなマルキ・ド・サドの短編を思わせるような皮肉に皮肉を重ねる展開の後、全ては一番最初の思い違いのせいだった、というところに行き着きます(ナギの優しい“目”を見て恐ろしくなった敵国の戦士カゼは、ナギを殺せなかった。けれどもナギは、カゼが自分を見逃してくれたのだと勘違いする。)主人公ナギの行動をことごとく歯がゆく思いながら、最後には泣かされてしまいました。

 この作品から私が感じ取ったのは、ルールを破ってはいけないということです。戦争の時には戦争のルールがあるし、人道が通る平和の中には人道的なルールがあります。ナギはそれを間違い続けたんじゃないでしょうか。今、イラクで起こっていること(日本の民間人拉致)も否応なしに頭に浮かんできます。自分が置かれている世界のルールを知り、正しい判断をしなければなりませんね。

 果たして人間の人生は既に全て運命で決まっているのか、それとも自分の意志の力で望むような人生に変えることができるのか。誰もが一度は迷う命題ですよね。私は、全ては自分の意志の力で起こるのだけれど、起こった後に、全て運命と呼ばれるようになるのだと思います。つまり“時間”が握っているというか、時間こそ運命、というのかな。この年になって感じていることです。

 ナギが、人を殺せない優しい男から人を殺せる男に変身するシーンの演出(茅野イサム)が、わかりやすくて良かったです。あそこでじっくり見せて下さったから、後半のナギの狂った行動も受け入れられました。

 剣で切り合う時代の戦争ものですので、戦闘シーンが見せ場として何度もあるのですが、どうも殺陣がにぶい気がします。舞台上を所狭しと大勢で激しく動きまわっているのですが、魅せられないんです。単に下手なのかなー。最近は殺陣やアクションが上手い劇団が多いですから、私も目が肥えちゃったのかも。

 乞食の人数がすごく多くて、衣装もメイクも動きも「これでもか!」と荒い鼻息が聞こえてくるぐらい、汚いし下品なんです。「乞食」というのはその名前だけで十分観客には伝わりますから、あんなに大げさに生々しく作る必要はないと思います。でもこれは扉座の作品の特徴でもあるんですよね。ちょっとHでちょっと下品で、大衆向けというか。あと、早口で怒鳴るように叫ぶセリフは聞きづらいです。実際、何を言っているのかわからないことが多かったです。
 
 音楽にヴォーカルのある曲がかかるのも扉座ではよくありますよね。今回も一番メインの大事件が起こるシーンで歌い上げるようなヴォーカル曲でした。う~ん・・・ちょっと気が散りました。全く合っていないわけじゃないんですが、物語に関係のないことが頭に入ってきてしまう気がします。

 役者さんについては、舞台に上がる人数が多すぎる気がしました。劇団として活動しているから、そうなることは理解できるのですが、やっぱりちょっと絵になりづらいところもあるのではないでしょうか。

 山中たかシさん。主役の戦士ナギ役。この役の“目”に、この物語が成立できるかどうかの全てがかかっていますが、しっかり演じきってくださいました。よ~く考えてみると整合性の取れていない箇所が多い脚本なのですが、山中さんの存在がきちんと意味を成り立たせてくれたのだと思います。判さんが出ない今となっては、山中さん目当てで扉座に通うのかもしれないなー。
 犬飼淳治さん。片目をえぐり取られた敵国の勇者カゼ役。本物の戦士ってこういう人物だよなって納得できました。ナギを殺すシーンの厳かさはこの人の演技のおかげなのでしょう。
 高木智之さん。両目をえぐり取られた戦士イツヤ役。美形だったな~。ぎらぎらと尖がった目が魅力的だったので、その目を白い包帯で隠して長いセリフを言うのが、かえって余韻があって心打たれるものがありました。

作/横内謙介 演出/茅野イサム 
キャスト:山中たかシ 犬飼淳治 佐藤累央 岩本達郎 上原健太 高木智之 小川英敏 高橋麻理 仲尾あづさ 鈴木里沙 田島幸 山口景子 杉山良一 中原三千代 石坂史朗 ほか
美術/中川香純 技術監督/大竹義雄 照明/林順之 音楽/笠松泰洋 音響/青木タクヘイ 衣裳/木鋪ミヤコ 演出助手/伴眞里子 舞台監督/大山慎一 票券/津田はつ恵 制作/太田さやか 製作/(有)扉座 宣伝美術/吉野修平 イラスト/溝口イタル 宣伝写真/栗山 良 舞台写真/宮内勝
扉座:http://www.tobiraza.co.jp/

Posted by shinobu at 23:56