REVIEW INTRODUCTION SCHEDULE  
Shinobu's theatre review
しのぶの演劇レビュー
mail
REVIEW

2005年01月30日

小鳥クロックワーク『わが町』01/14-17駒場小空間

 西悟志さんの演出は山の手事情社EXTRA企画『作、アレクサンドル・プーシキン』で初めて拝見しました。彼の主宰する小鳥クロックワークは今回が最期公演ということで、劇場は極寒だけれど熱気はムンムンの千秋楽に伺いました。

 ソートン・ワイルダーの『わが町(原題:Our Town)』を脚色した作品です(映画もあるんですね)。ある小さな町に生きる平凡な人々の平凡な生活を、実在する現実の世界とミックスしながら紹介していきます。

 鮮やかな白、紫、緑が印象的で、幾何学的な生地の組み合わせの衣裳を着た若い男女が、バネッサ・パラディの"Be My Baby"に乗って、山の手事情社のルパム(音楽にあわせて身体を動かす踊りのようなもの)のような動きをしながら、どんどんと舞台に出てきて闊歩します。これがカッコイイ!曲がほぼフルコーラス流れてかなり長い時間続くのも良いです。
 『・・・プーシキン』でも選曲が私好みだったのですが、今回劇中に流れた元気一杯の音楽たちははだいたいこんな感じ↓(終演後に頂戴したブツでここまで判明)。
 "Be My Baby"(バネッサ・パラディ)、"It's a small world"、"Fly me to the moon"、"Love is a many splendid thing"、"My favorite things"(←これはどこで流れたっけ?)、"Star Wars Main Theme"、"上を向いて歩こう"。
 これらの音楽がどれもストーリーテラーのごとき存在感を主張していました。

 パンフレットで西さんは『ぼくの創作上の主要なモチーフは、「終わらないということ、しかし、いつかは終わるということ」かもしれない』と述べられています。始まってやがて終わる芝居。生まれて必ず死ぬ人間。この宇宙の中の一瞬間でしかない命が、またたいて、消えて、断続的に繰り返しながら続いているのがこの世界です。猛スピードで捕まえた「未来」を、容赦なく「過去」に変えていく「時間」。そのちょうど端境に確かに存在する「現在」を、観客が作り手と一緒に体感できる、奇跡的にハッピーな空間が生み出されました。例えばラストは銀色の紙(アルミ)吹雪がどっさり、舞台上だけでなく客席にも降り注ぎました。『わが町』の登場人物でもあり、俳優でもある20代のがむしゃらな若者たちと、それを座って観ている観客とが、貴重な「今(現在)」を共有するのです。

 このように、深く狙いを定めた演出が施された非常に面白い作品であるため、役者さんの技術の低さがどうしても気になり、集中し続けるのは困難でした。でも、それも合わせてこの作品なのだと思います。オープニングと同じく"Be My Baby"のフルコーラスに合わせて生き生き、のびのびと呼吸する若者たちを観ながら、うっかり涙が流れました。そう、うっかり、です。だってむずむずと私の胸が痛んだんだもの。きっと悔しかったんだと思います。

 千秋楽だったので、終演後はお祭り騒ぎのごとき様相でした。「終わったーっっ!!」と叫んだり、誰かと抱き合ったりですねぇ、もう目も当てられない(笑)。私は普通の観客として来場したので、そういう内輪な雰囲気に圧倒されつつ昔のことを思い出しました。 
 もう10年以上前の話なのですが、私も学生時代に駒場小劇場(駒場小空間の前身)で役者として舞台に立っていました。小鳥クロックワークの作品や姿勢は、私が居た劇団とは全然違うものなのですが、ちょっと空気が似ている気がしました。若い時って、自分の身体も心も、他人のことももちろん省みず、全身全霊掛けて理想に向かって全力投球します。しかもほぼ無意識に。それは若さの特権というか、若いならこうでなきゃ!って私は思います。でも同時に、『わが町』同様、延々と繰り返させていく「若さ」のループがそこにあったように感じて、ちょっと怖くなりました。つまりこの作品の影響をかなり受けたってことなんですが。

 また、これは私の勝手な考えなのですが、西さんはこれから日本の演劇界で活躍していかれる方だと思うので、ご自分の“ユートピア”駒場に留まっている必要はないんじゃないかなと思いました。学校ってぬるま湯のようで実は牢獄かもしれないですし(笑)。

 これも蛇足ですが、西さんによる『ハウルの動く城』についての詳しすぎる解説が、当日パンフレットとともに配られており、それが最高に面白くって面白くって!開場時間に夢中で読んでたら、いつの間にか開演していました。上演中にちょっとでも気が散るとすぐに心は『ハウル・・・』へと飛んで行ってしまってですねぇ・・・「開演前の読み物にどうぞ」などとお薦めしてはいけないですね、あんなに面白いものは(笑)。

レビュー↓
 fringe blog 
 休むに似たり。
 某日観劇録

作:ソートン・ワイルダー 演出:西悟志
出演:沿道怪至 大河内保珠恵 大沢由加子(ク・ナウカ) 神谷明子 加茂みかん(ひょっとこ乱舞) 小菅紘史 佐々木リクウ(ク・ナウカ) 杉亜由子 鈴木智美 立蔵葉子 チョウソンハ(ひょっとこ乱舞) 中村早香(ひょっとこ乱舞) 広田淳一(ひょっとこ乱舞) 宮城未蹴 若子昭一(ひょっとこ乱舞) 渡辺理英 
スタッフ:江村桂吾 川口典成 木藤歩(balance, inc) 齋藤円佳 佐々木翠 高岸れおな 高橋茉莉香 竹内和延 ツカネアヤ 日下田岳史 松永知秀 宮田公一 和田佳子 和田匡史
小鳥クロックワーク:http://kotori_clockwork.at.infoseek.co.jp/

Posted by shinobu at 2005年01月30日 22:09 | TrackBack (0)