REVIEW INTRODUCTION SCHEDULE  
Shinobu's theatre review
しのぶの演劇レビュー
mail
REVIEW

2005年02月22日

ヨーロッパ企画『平凡なウェーイ』02/16-22下北沢駅前劇場

 京都を拠点に活動するヨーロッパ企画。『サマータイムマシーン・ブルース』映画化のニュースには驚かされました。今年の7月~8月に京都・東京で再演されるそうです。
 私がこの劇団の公演を観るのは『囲むフォーメーション』以来です。永野宗典さんがP.T.i.『あしたの情~基本的に、スーパースター~』に客演されているのを観て、勝手に何作品も観たような気持ちになっていたのですが、まだ2回目でした(笑)。
 シチュエーションが丁寧に作りこまれており、かなりブラックな笑いと豊かな示唆を含んだ作品だったと思います。

 「道を見くびってると、死ぬ。」という意味深なキャッチコピーにちょっと心構えをしつつ、慎重に拝見しました。前置きが長くてですねぇ(笑)、やっとこさ本編が始まったと思ったら、突然ものすごい事件が起こって、胸が苦しくなるほど不謹慎な状況に陥ります。のんきに繰り広げられる登場人物全員の無自覚、無慈悲、無責任な行動の連続に、しばらくはムカムカしちゃっていたのですが、終盤の急展開からやっと設定として受け入れることができるようになりました。最後にはなるほどな~と納得させられました。

 「道なんかいらないよね」というセリフ、凄いと思うんです。今日の便利すぎるインターネット社会を象徴していると思います。ネットに接続して検索・クリックすれば数秒で世界中どこにでも行けますし、顔を見なくてもメールやチャットで会話できますし、携帯電話の画面で顔を見ながら話もできます。人間と人間を阻むものといえば、もう道(距離、つまり土地、地球)ぐらいしかないんですよね。しかし、「物流を制するものは商流を制す」等とビジネス界でも言われますように「道」をあなどってはいけないんですね。
 最初、この作品で言う「道」って華道、書道、柔道、剣道などに使われている意味の「道」かなぁと想像したのですが、単なる深読みでした(笑)。

 ここからネタバレします。

 最初の30分はずっと映像でした。登場人物のバックグラウンドを細かく紹介していきます。テレビドラマみたいでした。登場人物はプロ野球選手になる夢を捨てきれない元・高校野球児、鉄砲玉に任命されてしまったチンピラ、倒産しそうなAV製作会社の社員、オセロ選手権決勝に勝ち進んでいる女、ガリ勉の男子中学生、読書中毒の女子中学生、ひきこもり気味のプラモデルおたく等、わが道を突き進むのに必死で周りが見えていない人ばかり。これらの全く共通点のなさそうな人たちが、ある小さな交差点でばったりと出くわすところから、舞台の幕が開きます。

 その、出くわした拍子に大事件が起こるのですが、みんなで責任の擦り付け合いをするのが見苦しいんです。自分には関係ないってことをみんな必死で主張するんですが、めちゃくちゃブラックな笑いとともに、どんどんエスカレートしていきます。通りがかってしまった人を逃げないように縛ったりとか、アリバイ工作のためにビデオ録画をしたりとか・・・。私にはこれがかなりきつかった。息苦しくも感じました。やっと少し大人になりかけている多感な中学生の前で、大の大人が、目の前にある死体という事実を隠そうとするんですから、こんなに情けない恥さらしなことってないですよね。でも、これって今の日本でよく起こっていることですよね、悲しいことなのですが。

 そして、なんだかんだとじたばたするシーンでたくさん笑いを取りつつ、お天道様の下で起こってしまった事件をうまく丸め込めないまま、実生活の方で取り返しのつかない失敗をする人が出てきます。例えば、AV製作会社の社員は社長への反駁がバレてクビになり、チンピラは1発しか入っていないピストルの弾を勝手に発砲され、その弾で2人の野球少年は腕と足をそれぞれ打たれてしまいます。後も先も無くなって逃げ場もなくなって、失うものがなくなった人々は、やけくそになって道に身を投げ出し、同じく道に居た浮浪者と一緒になってその場で酒盛りを始めます。その場にいる人全員を巻き込んで妙な連帯が生まれていく様は、地獄かはたまた天国かといったカオス状態でした。
 この気持ちはよくわかります。みんな人との係わり合いが欲しいんですよね。たくさん集まって飲み会を開いたりとか、合コンとか。自分の部屋に篭ってプラモデル作りに没頭していた若者も、「女の子と話とかしてみたい」って言い出しますし。

 この酒盛りからさらにエスカレートして、人々が泥棒や暴徒と化していくのがまた、超ブラックなんですよね。しまいには「道に住もう!」みたいな勢いになっちゃいます。しかしながら、誰にも何の断りも無く、幸か不幸か、天から雨が降り始めます。あれほど盛り上がっていた人たちですが、雨から逃げるようにあっという間にちりぢりにその場から消えていきました。残されたのは一体の死体ばかり・・・。

 「道」はいつもそこにあり、無情に人々を事件に陥れ、しかしおおらかに彼らを見守り、そして勝手に雨を降らせます。否応なしにインターネットに没頭しながら育ってきた世代が、目の前のちっちゃな石ころにつまづいた時に社会・世界を学び知る、というような、人生の大切な1シーンを見せてもらった気がしました。上手い伏線がはりめぐらされた、笑いが満載のお芝居なのですが、ヨーロッパ企画という劇団の「今」に出会えたことが、私は楽しかったです。作・演出(そして映像出演)の上田誠さんは25歳だそうです。やっぱり若いですよね。 

 映像は手作り感覚が見え隠れする、しかしこだわりを感じられる完成度でした。これからテレビでもきっと活躍されるのでしょうね。
 
《京都→東京→大阪→東京(多摩)》
作・演出:上田誠
出演:石田剛太 酒井善史 清水智子 諏訪雅 中川晴樹 永野宗典 本多力 松田暢子 角田貴志 土佐和成  西村直子 山脇唯 他
舞台監督:石田剛太 舞台美術:酒井善史 角田貴志 映像:上田誠 井村慎介 撮影:チーム学生グルメ 音響:上田誠 照明:松谷弘 仕掛け:丹原康博 衣装:西村直子 小道具:永野宗典 松田暢子 宣伝美術:諏訪雅 坂井奈穂 パンフ:永野宗典  坂井奈穂 仲井華子 制作:井神拓也 浦口千絵子 吉永祐子 諏訪雅 本多力 ヨーロッパ企画 
公演ページ:http://www.europe-kikaku.com/projects/e17/e17.htm

Posted by shinobu at 2005年02月22日 01:50 | TrackBack (1)