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Shinobu's theatre review
しのぶの演劇レビュー
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REVIEW

2005年03月27日

フォルクスビューネ『終着駅アメリカ Endstation Amerika』03/25-28世田谷パブリックシアター

 東京国際芸術祭2005参加。ドイツのベルリンの劇場、フォルクスビューネが初来日。『終着駅アメリカ』は、テネシー・ウィリアムズの『欲望という名の電車』を大胆に脚色・演出した2000年初演の作品です。2時間40分休憩なし。

 公式ホームページにある「猥雑でグロテスク、でもコミカル! 鬼才カストルフが放つ過激で刺激的な舞台です」というキャッチコピーそのものでした。凄かった。単館ロードショーされるコアなアート系の外国映画みたい。ミニシアター系っていうのかしら。

 舞台はアメリカの安いモーテルのような小さなアパート。ブランチ、ステラ、スタンリー、ミッチという『欲望という名の電車』の登場人物がちゃんと登場し、ほとんどストーリーのままにお話自体は進むのですが、原作、もしくはアメリカ(資本主義社会?)を完全にちゃかしまくる演出ががいっぱいあって、「ええ、こんなにやっちゃっていいの!?」と、勝手にハラハラしたりしました。

 ものすごく刺激的な内容だったはずなのですが、実は眠気が何度も襲ってきて・・・やっぱり字幕がつらかったかな。細かいところまできちんと訳してくださっていたと思うのですが、文字が出るのがゆっくりすぎたり、早すぎてネタバレしたり、あまりうまくいっていないように思いました。私が観た回はほぼ満席で、久しぶりに世田谷パブリックシアターの2階席から観たためか、舞台が遠かったんですよね。それも眠気の原因かもしれません。

 ここからネタバレします。

 BGMにアメリカン・ポップスが多数使われており、曲はわからなかったけどJim Morrisonの声が聞こえた気がします。Nicoの歌も流れました。Jim MorrisonもNicoもドラッグで身を持ち崩したスターです。舞台上のTVモニターでNicoの自叙伝番組が上映されている時間に、ステラとブランチ達が「アラン・ドロンは女道楽をしすぎて皆に捨てられた」という話をしてたのは笑えたな~(笑)。

 ポーカーをやるシーンで、男達がトランプのカードをどんどん客席に投げちゃったり。飲み物をこぼしてスカートが汚れたら、スカート自体に洗剤を蒔きまくるし。お皿割りまくり、女も犯しまくり。
 バスルームにカメラが仕込まれていて、閉ざされたはずの部屋の演技は全て舞台中央のTVモニターから中継されます。「お客様が見えづらいからテレビの前からどいて!」と女優がバスルームから叫んで、芝居自体を飛び越える演出も多々あり。

 ブランチの過去があばかれた後、怒りに震えたミッチがブランチを攻め立てるシーンで、客席側から床がぐんぐんと持ち上がり、家が斜め後ろに傾いていったのには驚きました。装置全体が後ろに倒れていくのです。床が上がってステージの底が見えてくるに従って、舞台においてあった家具類が倒れ、すべって後ろの壁に当たる音がガンガン聞こえます。割れてちらばっていた皿の破片が再びガシャン!バリン!すごい迫力です。
 家が傾いていく中、大音量でドン・マクレーンの名曲"American Pie"が流れ、ミッチがその歌をわめきちらし、傷ついていたはずのブランチも一緒になって歌って踊るシーンは、その強烈な倒錯状態に頭がクラクラしました。あれはかなり気持ちよかったな~(笑)。

 最後、ステラの子供が生まれなかったという結末になっていたのが驚きでした。原作でブランチが着ているはずの水色の服をステラが着ていて、ブランチと同じセリフを発声するのが面白いです。資本主義社会になって女性の地位は向上し、自由も得たかもしれないけれど、彼女らの威厳は損なわれてしまったことを表しているように思いました。

 もし私がベルリンに住んでいる人間だったら、フォルクスビューネは「欠かさず通うようにしよう!リスト」に入っていると思います。「必ず通う」に入らないのは、内容が激しすぎて心に厳しい部分があるからです。また来日してくれたら観に行くかどうか・・・好きな戯曲だったらきっと行くと思います。今回も『欲望という名の電車』だったから惹きつけられました。

 ドラマトゥルクのカール・ヘーゲマンさんがゲストで出演されるアフタートークがあったのですが、疲れきってしまったので帰りました。もったいなかったな。ドラマトゥルグって一体どんな仕事なんだろう?ちょうどレクチャーがあったようです(→アートネットワーク・ジャパン講座シリーズVol.3 ~『ドラマトゥルク』の可能性を巡って~)。先日のオペラ『エレクトラ』のパンフレットにもドラマトゥルグの方の長い文章が掲載されていて、それがすごく面白かったんですよね。

 言及ブログ
 Somethig So Right

原作:テネシー・ウィリアムズ (『欲望という名の電車』) 脚色・演出:フランク・カストルフ(芸術総監督) 美術:ベルト・ノイマン(舞台美術チーフ) ドラマトゥルク:カール・ヘーゲマン 照明:ローター・バウムガルテ
出演: カトリン・アンゲラー/ヘンリー・ヒュープヒェン/シルビア・リーガー/ベルンハルト・シュッツ/ブリジット・クブリエ/ファビアン・ヒンリックス
A席(1・2階席)4,000円/B席(3階席)3,500円 学生2,500円
東京国際芸術祭2005内:http://tif.anj.or.jp/program/volk.php
世田谷パブリックシアター内:http://www.setagaya-ac.or.jp/sept/jouhou/04-2-4-65.html

Posted by shinobu at 2005年03月27日 02:30 | TrackBack (2)