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Shinobu's theatre review
しのぶの演劇レビュー
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REVIEW

2005年03月26日

InnocentSphere『HELL FIGHTER』03/23-28青山円形劇場

 青山円形劇場が、初めて同劇場に進出する若手有望劇団を後援するAOYAMA FIRST ACTの第5弾。
 イノセントスフィアは西森英行さんが作・演出する劇団です。2003年のパルテノン多摩演劇フェスティバルで最優秀賞他を受賞しています。

 今からおよそ1000年後の世界。大きな戦争の繰り返しで荒廃した地球は、およそ5つの国に分断されていた。オボロの国の若者ケイ(狩野和馬)は、異国の侵入者が持ち込んだ古い書物を手に入れる。表紙に2005と書かれたその古代の本には、荒んでしまったケイの心を生き返らせる魔法の言葉がちりばめられていた。ケイはその本を書いた人物の子孫に会うべく、ヤミクモの国を目指して旅に出た。

 『Kristan Manas(クリシュタン・マナス)』のレビューにも書きましたが、イノセントスフィアはアクション・エンタテインメント色の強い作品と、心理的洞察に富んだドラマ性の強い作品を交互に上演しているそうで、今回の作品は前者になると思います。少年社中と似てますね。

 エンタメ・バージョンといえど、やはり今回も現代の社会問題が物語の一番コアの部分に据えられていました。私はイノセントスフィア作品のそういうところがとても好きなのです。でも今回は、全体的にうまくまとまっていないように思いました。

 ここからネタバレします。

 向こう見ずで軟弱なヒーローのケイが、道行く先々で仲間を増やしながら大きなトラブルを乗り越え、少しずつ成長していくのが物語の大筋です。わかりやすい個性のキャラクターが次々と登場して簡単に物事が進んでいくのはロールプレイングTVゲームのようで、私にはのめりこむのが難しかったです。

 しかしながら後半では、1000年前に犯した大罪を償うために、1000年間ずっと輪廻転生を繰り返しながら止むことなく罰を受け続けている少年が登場します。最後にはかけがえのないものを失った悲しみから生まれた、魂の救済が描かれて、道徳的な深い示唆を含んだドラマになります。

 少年の凶悪犯罪が軽々しく起こっている現代において、罪は決して消えるものではなく、次の世にもその次の世にもずっと残るほど重大で残酷なものなのだとはっきり示していることに、私は強く共感します。また、その犯罪者の胸の奥底に大切にしまわれていた小さな祈りが、1000年の時を超えて、絶望の淵にあった人々の心に希望を生むという結末は感動的です。この脚本を書かれた西森さんの優しさを感じます。

 ただ作品としては、旅しながら敵と戦って最後には勝利して凱旋するという、アクション冒険ものにジャンル分けされます。イノセントスフィア独特の真面目な社会派ファンタジック・ドラマは個人的に大好きなのですが、エンタメならエンタメ、ドラマならドラマという風に、割合を調整した方が全体としてのまとまりは良くなるんじゃないかと思いました。

 一人の役者さんが何度も衣裳を着替えて色んな国の人々を演じられていました。場面転換するたびに違う衣裳を着て出てきて、所狭しと走り回ります。舞台はもちろんですが舞台裏でもガンガン走り回っているんでしょうね。上演時間は2時間たっぷりでしたから体力的に大変だろうなぁと思います。

 衣裳、ヘアメイクがとても凝っていました。国ごとにデザインが違うのはわかりやすいし、国民性も出ていて楽しいです。ただ、国が5つもあったのは多過ぎる気がしました。

 役者さんは全体的にあせっている雰囲気で、自分の役柄を丁寧に演じ、役割をきちんと果たせている人が残念ながら少なかったと思います。
 ヤミクモの国の王妃役の黒川深雪さんは、ちょっと狂った悪女を小悪魔っぽく演じられて、今までに観たことのない表情を見せてくださいました。
 主役のケイを演じられた狩野和馬さんも、正統派ヒーローでない悪ぶった演技が新鮮でした。

Aoyama First Act #5
作・演出:西森英行
出演:狩野和馬 倉方規安 坂根泰士 日高勝郎 筧尚子 足立由夏 四十八願智子 黒川深雪 林尚徳 佐渡島明浩 三浦知之 間野健介 八敷勝 山岸拓生(拙者ムニエル) 富岡晃一郎 佐藤春平 木戸雅美 田中精(カプセル兵団) 小笠原義幸 山下潤(T.P.O.) 中田真弘(東京ロケットボーイズ) 武田真由美 桜井無樹(千夜ニ夜) 北川義彦
照明:斉藤真一郎(A.P.S.) 選曲:高橋秀雄(SoundCube) 音響:ヨシモトシンヤ(SoundCube) 美術:松本わかこ 衣裳:村瀬夏夜 メイク:泉淑 メイクアシスタント:上杉佳代 ヘアメイク:Akio(Ridicule) 小道具:蕪木久枝 アクションコーディネーター:奥住英明(T.P.O.) スチール:鈴木丈博 宣伝美術:冨田中理(selfimage Produkts) 映像:冨田中理(selfimage Produkts) ビデオ撮影:YPK 当日パンフレット:風見尚子 演出助手:田村友佳(KAKUTA) 舞台監督:筒井昭善 WEB制作:a,it,is 制作スタッフ:柳悠美 風見尚子 井上菜々 小林昌永 竹内啓史 制作:佐竹香子 票券管理:萬代純子(penguin jam)企画・製作:InnocentSphere 協力:株式会社アティス・コミュニケーションズ 提携 こどもの城青山円形劇場(担当:劇場事業本部 志茂聰明)
InnocentSphere内:http://www.innocentsphere.com/stageacts/hellfighter/hellfighter_top.html

Posted by shinobu at 2005年03月26日 00:03 | TrackBack (1)