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Shinobu's theatre review
しのぶの演劇レビュー
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REVIEW

2005年04月30日

文学座ファミリーシアター『風をつむぐ少年』04/29-05/08全労済ホール/スペース・ゼロ

 『アラビアン・ナイト』『眠り姫』に続く、文学座のファミリー・シアター第三段。
 いや~・・・いいお話でした~・・・・。ちょっと長かったですけど(135分休憩ナシ)。最後にはじわんと涙ぐみました。
 ファミリー向けということでお子様連れのお客様もいらっしゃいましたが、うるさくなったりすることは全くなく、心地よい環境で観劇できました。

 17歳の少年が交通事故で18歳の少女を死なせてしまった。死んだ少女の母親から「娘によく似た風見人形をアメリカの四隅に立てて欲しい」と言われ、少年は一人、償いの旅に出る。

 優しい芝居だったなー・・・。鵜山仁さんの演出だからなのか、文学座だからなのか、暖かいサービス精神があって、すごくアットホームで、だからといってベタになったり説教くさくはならない、ロード・ムービーならぬロード・プレイ(演劇)でした。シンプルな回り舞台の軽快なフットワークで、さらりと爽やかな仕上がりでした。

 ここからネタバレします。

 原作のタイトル("Whirligig" )でもある風見人形というのは、風力で動く木製のオブジェのこと。アメリカの大きな一軒家(民家)の玄関に飾ってあるような・・・と言えばわかるかしら。原作本のカバーデザインは風見人形の絵です。

 主人公の少年がアメリカの四隅に風見人形を立てていく話の間に、少年とは直接関係のない人々の、風見人形に関わる4つのエピソードが挟まれます。将来の夢や恋に胸はずませる思春期真っ只中の少女、夫婦仲がうまくいっていない中年男、バイオリンの英才教育に少し嫌気がさしている少年、死期が迫ったユダヤ人老婆、という4つの独立したお話でした。彼等はみな、自分のそばにあった風見人形から大切な何かを教わったり、励まされたりしていきます。
 主人公の少年が最後の4つ目の風見人形を立てる話になった時、実は独立した4つのエピソードに出てきた風見人形は、全て少年が立てたものだったことがわかります。バラバラだったたくさんの物語が一気に一本の線でつながって、体がじーんと震えました。

 少年は転校してきたばかりの学校で、好きになった女の子の前で恥をかかされて自暴自棄になり、ハイウェイを高速でぶっ飛ばしながら、自殺するつもりで目をつぶるのですが、自分は死なずに後続車を運転していた少女・リーが死んでしまいました。死んだ少女の母親が「起こることには必ず何か意味がある」と言います。死んでしまった娘は生き返らないし、事故で人を殺してしまった少年の罪も決して消えることはありません。でもその悲劇は起こるべくして起こってしまったことであり、この作品では、その悲劇が起こった意味は何だったのか、起こったことで何が生まれたのかを綴っていき、人が生きていることはそれだけで独立しているのではなく、あらゆるもの・ことに繋がり、影響を及ぼしているということを表していました。風は目には見えないけれど、風見人形が回ったら、そこには風があることがわかります。そしてその逆もまた然り。風が吹かなければ、風見人形は動かないのです。

 4つのエピソードの中では、中年の労働者の話とユダヤ人老婆の話がちょっと退屈でしたね。一人芝居と二人芝居でしたから演じる難易度も高いのだと思います。バイオリン少年の話はギャグ調だったから楽しかったですが、先に挙げた2つと同様、もうちょっとスマートにできるんじゃないかと思いました。というのも、一番最初に出てきた思春期の少女2人のエピソードが最高に面白かったから。2人とも魅力に溢れ、輝いていたからです。

 舞台美術は舞台奥以外の三方が客席に囲まれた、ほぼ正方形の舞台で、シンプルで抽象的なデザインでした。床は海に囲まれた北アメリカ大陸が絵本調に描かれていたように見受けられました。その床はドーナツ型の盆になっており、回転して場面転換します。舞台中央の奥に船の帆を表すような布状の壁があり、時々映像が映し出されました。エピソードごとに場所がぽんぽん変わりますから、回り舞台は効率的で良かったと思います。

 アメリカの四隅をバスで旅するので、「アメリカ」という国を表す要素が散りばめられていました。大きな公園でテントを張るキャンパー(実は泥棒)との出会い、ユースホステルに泊まっている海外の学生たちとの交流、メキシコの国境近くで働くプエルトリカンとの会話など。

 山田里奈さん。風見のオブジェを見て、恋や人生の喜びに気づく少女役、ユダヤ人の老婆の孫娘役などを演じられました。言葉もはっきりしているし、長いセリフも全然退屈しませんでした。何と言っても存在に前向きな輝きがありました。文学座のお芝居で何度か拝見していますが、どんどんと美しくなってこられているようです。演技もお上手だし、注目して行きたい女優さんです。

 浅野雅博さん。医者を目指すドイツ人学生役。その他、ものすごく沢山の役を演じてらっしゃいましたが、総じてお笑い担当(笑)。コメディーセンス抜群!ジャグリングまでお出来になるとは驚きました。浅野さんも山田さんと同様、すごく光を放ってらっしゃいます。俳優って一体何者なんでしょう。なぜ光るんでしょう。その光に触れたいから、私はまた彼等がいる劇場へと足を運ぶのです。

原作 : ポール・フライシュマン(「風をつむぐ少年」あすなろ書房刊より)
"Whirligig" by Paul Fleischman
訳・脚色 : 坂口玲子  演出 : 鵜山仁
出演:倉野章子・山本道子・山田里奈・頼経明子・石川武・大滝寛・浅野雅博・植田真介・斉藤祐一
美術:横田あつみ 照明:中山奈美 音楽:川崎絵都夫 衣裳:原まさみ 振付:新海絵理子 舞台監督:三上博 演出補:中野志朗 制作:矢部修治 富田欣郎 票券:最首志麻子 企画原案:杉本正治
一般 5500円 学生 3800円 (取扱い文学座、スペース・ゼロチケットカウンターのみ) 小・中学生 2800円
文学座内:http://www.bungakuza.com/about_us/p2k5/2k05-kaze.html

Posted by shinobu at 2005年04月30日 00:39 | TrackBack (0)