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Shinobu's theatre review
しのぶの演劇レビュー
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REVIEW

2005年05月04日

reset-N『Valencia』05/03-08ザ・スズナリ

 reset-N(リセット・エヌ)は夏井孝裕さんが作・演出される劇団です。私は賛助会員(Support-N)に登録しています。
 今回は小さな美容室が舞台。いつものスタイリッシュでクールな舞台空間で、最高に官能的な瞬間を味わわせていただきました。

 舞台はトダ(平原哲)とツゲ(原田紀行)が共同経営している小さなヘアサロン。2人の他にはアシスタントの女の子アズサ(丸子聡美)が働いている。今どきの若者らしい、ひょうひょうとしたリラックスムードの店内。
 閉店後の夜中にトダを訪ねてくる女がいる。その女はルミ(町田カナ)。ある仕事でトダに助けられて以来の縁。2人は急速に接近して・・・。

 セクシー、エロティック、官能的などという言葉で表される、罪悪感を感じながらうっとり恍惚となる瞬間が山盛りでした。これだから病み付きなんです、reset-N(笑)。ヒリヒリするほど熱くて暴力的なシチュエーションを、極力ストイックにミニマムに凝縮するから、とんでもなくヤラしいんです。「秘すれば花」の世界ですね。だけど出すところはバシっと出す。そのさじ加減が絶妙です。
 また、今回は笑いがたくさんありましたねー。すごくウケてたし、私もいっぱい笑ったなー。演技の間がいいし、脚本も最後の最後まで笑えるように詰められていて確実なのです。

 ただ、ラストはどうも腑に落ちませんでした。「え?コレで(が)終わり??」と思ってしばらく拍手するのを躊躇しました。ラスト前までに「ここで終わるかな?」と思う瞬間はあったので、そこで終わっていたら私的にはすんなりスムーズな終幕だったと思うのですが。

 音響、照明、衣装、舞台美術はグランドデザインというくくりで、演出の夏井さん以下、それぞれのスタッフが全体を担当するというスタイルになっています(massigla lab.)。作品全体をいつものスタッフが総合的な視点から作っているので、毎回完成度が高いです。特に今回のお気に入りは暗転のタイミングでした。ここで!と思う一瞬手前できっちり暗転してくれるんです。のどに刺さった魚の小骨が取れたような気持ちって言うか(笑)、めちゃ快感でした。
 照明に蛍光灯を使うのがreset-Nの定番になっていますが、席にもよるのでしょうけれど、ものすごくまぶしかったです(私はおそらく前から6~7列目)。役者さんの顔も見えづらかったな。今まではそういうことを思ったことはなかったので、劇場の作りの問題なんですかね。

 賛助会員は上演台本をいただけるのですが、その脚本は読んでみると本当にサラリとしたもので、実際に舞台で観ると文章を読んでいたときに想像していたものとは全然違うんです。お稽古で読み込んで、作りこんで、reset-N独特の笑いやエロスを生み出しているんですね。

 ここからネタバレします。

 まずオープニングで完全にヤラれました。トダとルミの濃厚なキスシーンから始まるんです。めっちゃくちゃセクシーで美しかった~。ルミは客席から登場したので町田カナさん(チラシ写真の女性)だとわかったのですが、相手の男優は舞台奥から出てきたし、キスシーンの時の照明がすごく暗いので誰なのかわからなかったんですね。それがまた良かった。「誰?誰?」ってあせって、釘付けでしたから(笑)。

 次のシーンでトダを演じているのが平原哲さんだと分かってからは、平原さんがおそらく今回の主役というか、トラブルメーカーもしくはキーパーソンであることは間違いないので、ずっと平原さんを追っていたんですが、超~素敵なんです・・・ダメダメあんなの、私のタイプど真ん中(笑)。マジでやばかったですよ、ホレちゃいそうでした(笑)。でも、トダ自身がおかしな人だということが徐々に明らかになってきてからは、おかしいはずなのに演技にあまり変化が見られないことにちょっと違和感を覚えて、勝手な迷走がストップしました。・・・ので、私自身はホっとしました(ものすごく独りよがり)。

 トダの魅力に影が落ちたことと、ラストに疑問がわいたのは、たぶんトダの彼女のメグミ(篠原麻美)の狂気が伝わってこなかったからだと思います。トダはルミが起こした大事件に巻き込まれ、廃人のようになってしまいます。メグミは無断外泊および無断欠勤をしたトダを問い詰めるのですが、トダはさっぱりメグミのことなど気にしておらず、はっきりと別れ話までしてしまう始末。トダと2人きりになった店内で、トダはソファにじっと座ったままですが、メグミはじーっと髪切りバサミを見つめています。音楽が静かに流れる中、メグミは徐々にうっとりした面持ちになり、鋭利なハサミをいじりはじめます。このセリフが無い長いシーンで、メグミが狂っていった(既に狂っていた)ことを表現しようと意図していたと思うのですが、私が観た回ではそれは伝わってきませんでした。ここで何かが伝わってくれば、最後に「マレーシア!」「バレンシア!」と叫ぶやりとりも、狂気と滑稽さが入り混じってグッと興奮しちゃうシーンになったと思います。

 reset-Nの役者さんは全体的にとても安定しているというか、個性もあって技術もあって、魅力もある人が増えていると思います。
 久保田芳之さん(実はゴルゴ13じゃなかった男役)が助演男優的な位置で強烈な印象を残していることや、町田カナさんが最重要ポイントを担っているけれど決して主役ではないことからもわかるように、看板役者さん以外の劇団員が成長してきているということですね。

 客演の方々も面白かったなー。reset-Nには何度か出演されている奥瀬繁さん(美容室の下の事務所の職員役)はもちろんのこと、トダ目当てで美容室に通うちょっとオバサンっぽい女性客ホリカワ役の岩本幸子さんも上手かったですね。演技で確実に笑いを生んでいました。

 今回は、主役の美容師トダ役の平原哲さんに悩殺されました。在り方が高圧的というか、言ってしまえば暴力的なんです。佇まいに静けさがあるのに。これがセクシーなんだな~。この上に、刺すような怒りとか、こちらが恐怖を感じるほどの熱さが瞬間的にでも見られれば、トダが私の中の悪のアイドルになっていたかもしれません(笑)。

作・演出:夏井孝裕
出演:町田カナ 久保田芳之 篠原麻美 原田紀行 平原哲 綾田將一 長谷川有希子 岩本幸子(イキウメ) 丸子聡美 奥瀬繁(幻の劇団見て見て)
グランドデザイン:massigla lab.(夏井孝裕/荒木まや/浅香実津夫/福井希) 舞台監督:小野八着(Jet Stream) 宣伝美術:quiet design production 宣伝写真:山本尚明 制作:秋本独人、森下富美子、河合千佳 照明協力:木藤歩(balance,inc) Web製作:松下好
日時指定・全席自由 前売・当日券:3000円 特別割引券:2000円(学生及び東京都以外からお越しのお客様)
reset-N内:http://www.reset-n.org/jp/valencia/index.html

Posted by shinobu at 2005年05月04日 02:50 | TrackBack (1)