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Shinobu's theatre review
しのぶの演劇レビュー
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REVIEW

2005年06月15日

森崎事務所『隣りの男』06/15-26本多劇場

 岩松了3本連続公演の第3段。『アイスクリームマン』『センター街』が終了して、とうとう最後ですね。『隣りの男』の初演は1990年。男女2人ずつの4人芝居です。
 2004年のNHK大河ドラマ「新撰組!」で、堺雅人さん演じる山南敬助と恋に落ちる明里役があまりに美しかった、鈴木砂羽さんの姿が見られるのを楽しみに伺いました。

 舞台は昭和のはじめ頃から時間が止まったような古い家。通りに面した方は眼鏡屋の店舗になっており、店主の竹田(大森南朋)が一人で住んでいる。隣りに住む宇野(戸田昌宏)はなぜか仕事もせずに竹田の家に入り浸っており、時々、宇野の妻の八千代(鈴木砂羽)もやってくる。二人はまるで自分の家のように勝手な振る舞いをするが、竹田はされるがまま。どうやら3人は長年の付き合いがある友人同士のようだ。
 その家の2階の部屋を貸し部屋にするべく入居者募集の看板を店先に出していたら、ある日、若い女(久遠さやか)から電話がかかってきて部屋の内覧に来ることになった。

 『アイスクリームマン』と『センター街』に比べると人間関係に柔らかさがあり、すごく心地よい空間でした。役者さんが4人とも演技が上手かったのもありますし、登場人物らが明らかに気持ちを伝え、受けとめ合っていたからだとも思います。

 4人のうち誰が主役というわけではないと思いますが、出番としては竹田が一番多かったです。真面目に働くこともなく、新しい世界への好奇心もなく、現状への不満も特に具体的には考えない。そんなまま何もしないでいたために世界から自然と置いてきぼりになり、だらだらして、イライラして、鬱々として、だからといって自ら進んで変化する気もない・・・という男です。けれど、どうしても逃れられない違和感を身体は感じています。例えば手のひらと手の甲の間に何か異物が入っているように感じたり、体のここかしこが痒くなったり。竹田以外の登場人物も竹田のように閉じられた世界観を持っていて、簡単に言えばオタクっぽい面を持っている、どこか欠けた人間達です。

 頑なな心、独りよがりな夢想、自分と世界とのズレから生じるムズムズした傷み、ささやかにして一瞬で消えてしまうごく個人的な幸せ、小さな隙間から恥ずかしそうにちょっぴりだけ顔を出す他人への愛・・・などが、じとっとした和室に見え隠れする、密度の濃い1時間45分でした。

 笑いもロマンスも適度にあって、すごく楽しかった。岩松作品は苦手だったはずなんですが、私が変化したのでしょうか。でも隣りでぐっすり寝てしまっているお客様もいらっしゃいましたので、合わない人には合わないかもしれません。

 ここからネタバレします。

 舞台美術は質感がとてもリアルで、家具や置物には細部にわたるまでこだわりがあり、古い家屋の匂いがしてきそうでした。どこから見ても今から50年以上前の世界なのですが、時代は1980年代です。役者さんの服装やSONYのDoDeCaHORN、ポカリスエット缶などが出てきたことでわかりました。ラジオカセットデッキがあるのに電話は黒電話だったり、ポットが電気ポットではなくて保温ポットだったり。竹田がいかに時代の流れから外れている人間かがわかります。
 
 衣裳にはそれぞれのキャラクターを鮮やかに映し出す工夫が見られました。部屋を借りる女・宮地は赤いサテンでできた派手な刺繍入りの中華風スリッポンを履いているのですが、お洋服はちょうちん袖で乙女チックなデザインの、淡い黄色のカントリー風ワンピースなのです。しかも小さな麦藁帽を被っていて、籐でできたカバンには白いプードルのアップリケが施されています。そして足には白いレースのストッキング。なんてミスマッチ(笑)。宮地は可愛らしく装っていますが実はお行儀が悪くてずる賢いところがあるんです。おっと、衣裳も美術も礒沼陽子さんがデザインされているんですね。さすがです。

 役者さんは4人ともキャラクターを細かいところまでしっかり演じてくださっていて、どんなにとっぴな行動やセリフが出ても無理を感じませんでした。妙な角度でくるりと振り返ったり、指をなめたり、小さな動作の一つ一つがおそらく岩松さんの演出なのだろうと思いますが、皆さんとても自然でした。そういえば全員、映像(映画やテレビ)でもご活躍の方々ですね。舞台俳優っぽくない、どこかスーっと静かな佇まいでした。

 鈴木砂羽さん。80'sのレディー・ルックが少しレトロで艶っぽくて目が離せませんでした。セックスアピールが強いのではなく、彼女の体を包むムードが妖しいんです。でも語り口は素直でまっすぐ。ときどき子供っぽかったり。怒ってもセリフの語尾が丸く優しいので、演技が胸にグサっと刺さることがありません。独特の存在感でした。また舞台に出られるなら必ず観たいと思う女優さんでした。

 転換の度にかかるフランス語の女性ヴォーカルの曲が良かったです。あのけだるい声がぴったり。

出演=大森南朋/鈴木砂羽/戸田昌宏/久遠さやか
作・演出=岩松了 舞台監督=幸光順平・青木義博 舞台美術・衣裳デザイン=礒沼陽子 照明=沢田祐二 音響=藤田赤目 衣裳スーパーバイザー=阿部朱美 
前売り5000円 当日5300円
森崎事務所 M&Oplays:http://www.morisk.com/
岩松了3本連続公演:http://www.morisk.com/iwamatsu.htm

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Posted by shinobu at 2005年06月15日 23:51 | TrackBack (0)