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Shinobu's theatre review
しのぶの演劇レビュー
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REVIEW

2005年05月25日

森崎事務所『アイスクリームマン』05/11-29ザ・スズナリ

 岩松了3本連続公演の第一弾。私は岩松さんの作品は苦手な方なので、ちょっと不安に思いながら土砂降りの中を劇場に向かったのですが・・・めっちゃくちゃ面白かったです!いっぱい笑ったし、興奮もしました(笑)。岩松さんが“日本のチェーホフ”とも称される所以がわかったような気がしました。

 『アイスクリームマン』は1992年初演、1994年再演、そして今回が3演目です。でも演劇研修所の卒業公演などで多数上演されているようですね。

 小島聖さん、高橋一生さん(扉座)をはじめ、大人計画でお馴染みの面々(荒川良々、近藤公園、平岩紙、少路勇介)やtpt等でも活躍している男優(池下重大、チョウソンハ)、岩松作品経験者が続々と出てきます。こりゃ人気なワケです。客席に阿部サダヲさんを発見。
 今日は開演の15分前ぐらいに劇場に到着したのですが、当日券は完売でした。前売りチケットはぴあでもイープラスでも完売してますね。お問い合わせは森崎事務所(03-5475-3436)へどうぞ。

 私みたいに前のめりになって楽しんでいる人も沢山いたと思いますが、すっかり眠ってしまっている人も数人見かけました。好みが分かれるのかもしれません。岩松作品に慣れ親しんでいない私にフィットしたということは、いつもの岩松作品よりもメジャー受けする作風なのかも。

 舞台は、東京から新幹線で行くような田舎にある自動車教習所。おそらく東京より北方。季節は桜が咲く早春。時に激しく、時に淡々と描かれる、合宿所の中の若者たちの青春群像劇。

 登場人物は全部で20人(+1人)居ますが、それぞれがとても個性的・・・と言うか、「こういう人いるよね」って思った途端に「こんなヤツいないよっ!」と思わされるような(笑)演技の応酬です。役者さんはところどころ凄く大げさにしたり、突然予想もしない方向にキャラクターを変化させたり、普段は決してしないような動きも連発します。その意外性に思わずワハハッと笑うのですが、同時に、なぜか登場人物がとても生き生きしてきて、リアルに、実際に存在するように感じられてくるのです。不思議な感覚でした。たぶん人間はこのお芝居の登場人物のようにめちゃくちゃ滑稽なことをしまくっているんだと思います。

 ここからネタバレします。

 合宿所に居ることを除いて何の共通点もなさそうな人々の集まりの中で、言葉や動きの端々からそれぞれの世界が少しずつ見えてきます。しかし、きちんと理解できるほどは教えてくれません。教習所事務員の早苗(平岩紙)とその姉(小島聖)の家庭環境や、女たらしの水野(高橋一生)とその元彼女の聡子(中込佐知子)と、水野を責めて聡子をかばう吉田(荒川良々)との関係など、具体的なことがわからず仕舞いでした。
 だけど、一人一人の気持ちはきちんと伝わってきました。私達の現実の世界でも他人のことをこと細かく、正しく知ることなんてめったに出来ないし、出来ないながらも相手の気持ちを知ろうと努力するのがコミュニケーションです。だから意味を説明してもらってそこから類推するよりも、その時、その場の感情をそのままに受け止める方が、理解できるし、伝わるのかもしれないと思いました。

 計算された笑いが見事に決まっていて、岩松さんの演出は凄いなって思いました。姉妹が大喧嘩している場から足早に立ち去ろうとしたのだけれど、床に置いてあったスリッパを思いっきり蹴飛ばして「スパーンッ!」と大きな音を出してしまい、めちゃくちゃ目立ってしまったりとか、勇気を出して誰かに手渡そうとしていたカメラのフィルムを、ジュースの自動販売機の下に自分で蹴り入れてしまったりとか。タイミングとバランスが絶妙だから爆笑できるのだと思います。

 ド田舎の山の中の合宿所で恋がたくさんありました。6ヶ月も合宿所に居座っている“のつぼ”(チョウソンハ)と事務員の早苗(平岩紙)、バースデーパーティーを開いてもらった林田(塚本三直恵)とギター片手にフォークを歌う坊主頭の花輪(星野源)、水野(高橋一生)については、教習所でのにわか恋人の瀬川(坂井貴子)、元彼女の聡子(中込佐知子)、そして早苗の姉(小島聖)との四角関係が面白かったですね。他にゲイのカップルの三角関係(?)みたいなのもあったような。
 
 水野役の高橋一生さんがスカっとするほど性格が悪い色男で、見るからに狂ってそうな悪女ルックスの小島聖さんと、力いっぱい抱き合い、紙コップに入ったコカコーラをバンバンこぼしながらキスしまくるのが痛快でした。バッカだね~って思いながら、かっちょい~っとも思ってました(笑)。

 全身緑色のジャージを着たチョウソンハさんはやはり強烈でした。tpt『Angels in America』の天使役でも相当イっちゃってましたけど、今回もそのキャラクターが生かされていました。声が大きいし身体はよく動くし、阿部サダヲさんから可愛げを取ったらチョウソンハさん、かも(笑)。

 暗転が3回か4回ぐらいあったかと思いますが、その時に流れていた音楽がすごく雰囲気に合っていて、特にギターのインストゥルメンタルがかかった時は、体がノってちょっぴり踊りたいような気持ちになりました。
 
 こちらで過去の『アイスクリームマン』、『センター街』等の感想が読めます。

作・演出:岩松了
出演:荒川良々、小島聖、高橋一生、近藤公園、平岩紙、少路勇介、遠藤雅、星野源、佐藤直子、池下重大、チョウソンハ、中込佐知子、柳野コウセイ、杉内貴、鈴木リョウジ、塚本三直恵、早船聡、坂井貴子、三浦義徳、望月秀人
ダブルキャスト(家出娘):宮沢紗恵子 松本麻里(私が観たのは宮沢さんでした)
舞台監督:青木義博 舞台美術:磯沼陽子 照明:吉倉栄一 音響:井上直裕 衣裳:戸田京子 衣裳助手:梅田和加子 宣伝美術・パンフレットデザイン:坂本志保 写真:小木曽威夫
前売り 4500円/当日 4800円(全席指定・税込)
森崎事務所 M&Oplays:http://www.morisk.com/
岩松了3本連続公演:http://www.morisk.com/iwamatsu.htm

Posted by shinobu at 2005年05月25日 00:24 | TrackBack (1)