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Shinobu's theatre review
しのぶの演劇レビュー
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REVIEW

2005年06月26日

シャウビューネ劇場 来日公演『火の顔』06/24-26世田谷パブリックシアター

 『ノラ』に引き続きシャウビューネ劇場の公演です。父、母、姉、弟そして姉の恋人が登場する5人芝居でした。ある家族のお話。残念ながらポストパフォーマストークには伺えず。
 ドイツでも日本と同じような事件、というか、家族があるんですね。

 登場人物の役割や一人一人の気持ちについて言葉で説明してくれるし、ストーリーを順番に追っていくわかりやすい作品だったため、『ノラ』の時とは違って、演出や俳優、作品の空気感やビジュアル面よりも、脚本に書かれた家族の姿について考えがめぐりました。

 陰鬱だし、夢なんかないし、率直に言って不快なお話です。それにどこかで聞いた事がある事件、想像したことが有る感情が多いので、引き込まれることはありませんでした。だからストーリーやセリフに主に集中して観劇することになり、ドイツでもこんな家族が、こんな事件があるんだなと思うと、私達が今生きている世界はオンタイムにつながっていて、同じようなことに悩んで苦しんでいるんだと感じました。

 ここからネタバレします(公演は終了しています)。

 エンジニアの父親に専業主婦の母親。思春期を迎えたあまり年の離れていない姉と弟。姉と弟は近親相姦の関係で、親子間のコミュニケーションは絶望的に断絶しています。
 父親は家では新聞ばかり読んでいて家族のことは無視。母親は子供達を溺愛しているつもりだけれど、何か事件があったらいつも他人のせいにします。姉は恋人を作って改めてセックスを初体験するけれど、それも自分の人生を変えるための手段で、愛のためではありません。弟は爆弾を作って学校で爆発させ、顔中大やけどの重傷を負い、学校も退学になります。
 子供たちはますます両親を無視する方向へ、親達はそんな子供達に恐怖を覚え、ますます彼等から心を遠ざけていきます。

 上下(かみしも)に細長い八百屋舞台で、勾配はかなり急に作られています。舞台上に家具が置かれているだけのシンプルな空間で、下手はテーブルとイスが4脚ある居間、中央にはダブルベッドが一台、上手は洗面所で白い小さなシンクが一つ。舞台面側を2枚のパネルが移動してステージを隠し、場面転換します。その際、ビルの壁などの画像がプロジェクターでパネルおよび舞台全体に映し出されます。
 上下に役者が移動するだけで時間が経っていたり、部屋が変わっている演出がスピーディーでかっこ良かったです。音楽は『ノラ』同様、大音量でロックがかかりました。姉と恋人の初めてのセックスシーンでたしかそういう音楽がずーっとかかってたと思います。大切な愛の営みであるはずのセックスが、ただの刺激や流行、好奇心を成就させるだけのものに成り下がっていることが伝わってきました。

 中学生の頃に読んだ大友克洋の漫画にあったんですよね。一人のおばあさんがある小学生男児と知り合うんですが、その男児はベッドルームで寝ていた両親を撲殺して、その死体を放置したまま何事もなかったように暮らしているんです。2人がお別れする時、おばあさんが「あの子のことを結局なにも知ることができなかった」とつぶやきます。男児の家では死体が腐って腐乱臭が充満しており、おばあさんとさよならした男児は、動かなくなった両親に「ねえ、起きて」と話しかけつつ、嘔吐する。たしかそんなラストシーンでした。
 もう10年以上前(もしかすると20年以上前)の漫画です。ドイツの20代の作家が同じような結末の作品を書いたと思うと、ドイツと日本のように、資本主義やそれに基づく合理主義が行き届いている国に住む人たちに、共通に起こっている現象なんじゃないかなって思いました。さらに大それたことを申しますと、道徳(モラル)がないことがこの不幸の原因なんじゃないかなって、私は思います。

 姉の恋人役の金髪白人男性が、セックスシーンを客いじりもしつつコミカルに見せてくれたり、全裸になっておちんちんいじりまくったり(笑)、けっこう笑えました。なんか全裸になるお芝居が多くって、最近。すっかり慣れちゃったよ(苦笑)。あんまり好きじゃないんだけど。

"Feuergesicht"
出演=父親:ヴォルフ・アニオル/母親:グンディ・エラート/オルガ:ユーディト・エンゲル/クルト:ローベルト・バイアー/パウル=マルク・ヴァシュケ
作=マリウス・フォン・マイエンブルク 演出=トーマス・オスターマイアー 美術=ルーフス・ディドヴィシュス 衣裳=アルムート・エッピンガー 音楽=イェルク・ゴラシュ ドラマターグ=ティルマン・ラープケ
両公演ともにA席5,000円/B席3,000円/ジャーマン(G)シート(字幕の見えづらい席)4,500円/学生A席4,000円各種割引あり
劇場内:http://www.setagaya-ac.or.jp/sept/jouhou/05-2-4-4.html
公式サイト:http://www.setagaya-ac.or.jp/sept/jouhou/schaubuehne/

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Posted by shinobu at 2005年06月26日 19:04 | TrackBack (0)