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Shinobu's theatre review
しのぶの演劇レビュー
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REVIEW

2005年05月12日

KERA・MAP #003『砂の上の植物群』05/01-14シアターアプル

 ナイロン100℃のケラリーノ・サンドロヴィッチさんの演劇ユニットKERA・MAP(ケラ・マップ)の第3弾は、キャストに大スターが勢ぞろい。常盤貴子さんは初の舞台出演です。
 タイトルはパウル・クレーの絵画(Flora auf Sand)から来ているそうです。劇中にもクレーの話が出てきましたね。吉行淳之介さんの小説にも同タイトルの作品があります。

 近未来のお話。日本に帰る途中の飛行機が南方の島に墜落し、奇跡的に数人の日本人男女が助かった。その島は戦争中で、廃墟でかくまわれた彼らが待てども待てども、日本からの救助隊が来る様子はない。

 休憩10分を含む3時間半は、長かった・・・。もー疲れてきってしまって、終わったときは「やっと終わった・・・」と深いため息をついてしまいました。
 演劇評論家の扇田昭彦さんが、作品自体についてかなり褒めながらも、最後に「3時間半におよぶ内容には削れるところもあるだろう」という意味のことを朝日新聞の劇評に書かれていましたが、同感です。

 ここからネタバレします。

 極限状態に陥った人間同士、どんどんと関係がすさんでいって、次々と登場人物が死んでいきます。深刻な状態にも関わらず軽い感覚で笑いもたくさん。ケラさんならではのナンセンスな世界でした。戦争の要素が入っているのは『ドント・トラスト・オーバー30』、『消失』からも続いていますね。

 自称・未来から来た少女マリィ(つぐみ)は、屋上で遠くの町が爆撃されるのを眺めながら「戦争は遠くから見るときれい」と言い、部屋の中で道男(赤堀雅秋)が奈々(猫背椿)になぶり殺されるのを見ながら「これが戦争?近くで見る戦争は怖い」と言います(言葉は完全に正確ではありません)。爆撃も戦争ですが、無法・無秩序も戦争ですね。

 今回初舞台で話題の常盤貴子さんについては、他の女優さんがものすごく強い個性を出していたせいもあると思いますが、きれいな人だとかスターだとか、そういうことを配慮しなければ、特に良いとも悪いとも思わない女優さんでした。簡単に言うと印象が薄かったですね。扇田さんが劇評で、常盤貴子さんの演技には「もっとふくらみが欲しい」と書かれていました。同感です。

 性格最悪のエロにいちゃん、道男役の赤堀雅秋さんが凄かったです。何食わぬ顔でやらかす事がめちゃくちゃ汚くて怖い。いためつけられて、もがき苦しんでいる演技を見ても、全然助けたいと思わなかったです。それぐらい悪人が板についていました。道男の彼女(奈々)役の猫背椿さん、肉体関係を持つ真柴玲子役の西尾まりさんとのやりとりも良かったです。

 池谷のぶえさん(脳に少し異常をきたしてしまった坊園婦人役)がとにかく確実に笑いを巻き起こしてらっしゃいました。私は池谷さんの大らかさに心奪われました。

 キャストも豪華ですが美術(小松信雄)も豪華でした。大掛かりな舞台装置が動きながら転換するのは圧巻です。チケット代(8000円)が高くても納得です。『カメレオンズ・リップ』でもそう思いました。ただ、何度も何度も同じ転換方法だとちょっと飽きが来ちゃうかも。
 ケラさんお馴染みの映像と音楽は、文字の分量が多かったものの、いつものクオリティーで楽しませていただきました。

 は~・・・「とにかく疲れた」という言葉に尽きるかもしれません・・・ごめんなさい。他の方のレビューをぜひ参考にしていただけたらと思います。

≪言及ブログ≫ 
 藤田一樹の観劇レポート
 某日観劇録
 デジログからあなろぐ
 観劇?飲んだくれ?日記
 臭い人
 ひょりシアター
 Sound and vision of Hide
 街へ出よ、そして家へ帰ろう
 偶然の音楽
 easy Going
 アロハ巡礼
 makicom

作・演出:ケラリーノ・サンドロヴィッチ
出演:筒井道隆/常盤貴子/渡辺いっけい/温水洋一/西尾まり/猫背椿/池谷のぶえ/赤堀雅秋/つぐみ/山本浩司/喜安浩平/他
舞台監督:福澤諭志+至福団 舞台美術:小松信雄 照明:関口裕二(blance, inc DESIGN) 音響:水越佳一(モックサウンド) 映像:上田大樹(INSTANT wife) スタイリスト:藤井亨子 ヘアメイク:武井優子 演出助手:小池宏史 大道具:C-COM舞台装置 小道具:高津映画装飾 宣伝美術:高橋歩 宣伝写真:中西隆良 宣伝スタイリスト:菊地ユカ 舞台写真:引地信彦 制作助手:市川美紀 土井さや佳 寺地友子 制作:花澤理恵 企画・製作:株式会社シリーウォーク
前売り:8000円 当日¥8,500
※未就学児童は入場不可。
劇団内:http://www.sillywalk.com/nylon/part-time/0505_8.html#kera1
イープラス特集:http://eee.eplus.co.jp/s/kera_map/

Posted by shinobu at 15:13 | TrackBack

bird's-eye view『un_titled』05/11-22こまばアゴラ劇場

 bird's-eye view(バーズ・アイ・ビュウ)は内藤達也さんが構成・演出するパフォーマンス・ユニットです。
 当サイトのメルマガ「初日のみ500円引き」企画が実現いたしました。お申込くださった皆様、ありがとうございました!
 ※fringeのTOPICページの右側に宣伝バナーがありますね。

 おしゃれな衣裳&メイクの役者さんが、ある制約のもとにコミュニケーションをしていく短編集でした。いつものbird's-eye view(以下、バーズ)のスタイルと言えますが、Second Line(ショート・コント集)とは違って、一つのテーマが常に流れているように感じました。それは「否定」とか「消去」とか、かな。

 最初は硬さを感じたのですが、コミカルな短編の間にはさまれるイメージ・シーンが美しくて、一気にのめりこみました。多数の役者による日常の動きの連鎖から伝わってくるメッセージに、じわっと感動しました。
 現代の若者のあくまでも個人的な熱狂と、常に身体で感じている孤独が、背中合わせになりながら共存して、不器用に愛を求めます。
 否定して、削って、最後の最後まで自分を追い詰めて、無に到達するかというところまで行くのですが、か弱くなって消え去りそうになっていても自己は確かにそこ(舞台)に点るように存在します。そしてそれを見守る人(=愛)が在るんですね。

 ここからネタバレします。

 ポップな音楽とともにダンスで幕開けでした。クスっと笑っちゃうようなおどけた振付なのですが、雰囲気はクールでシックだったので少し違和感がありました。無表情のままで踊り続けていたのがヘンに感じたのかもしれません。顔の動きも加わっていたら良かったんじゃないかしら。

 バーズの公演は三鷹市芸術文化センター星のホールや青山円形劇場、シアターサンモールなど、大きめの空間が続いていたので、アゴラ劇場の小さな四角い空間では舞台と客席との距離がすごく近くて、目の前に役者がズラリと並んでいるのは迫力でした。
 舞台と客席が正面から向かい合うスタンダードなアゴラ劇場の使い方で、実はバーズ初のプロセニアム(額縁舞台)なんですね。

 客席側を除く三方を半透明な壁で囲まれた舞台は、きれいだけれど少し息苦しい箱の中のようです。青と白、透明を基調としたポップな衣裳をまとった男女が、狭い空間の、ある“制約”の中をところ狭しと動き回ります。

 「舞台上に3人いるのだけれど、1人だけは姿が見えない、もしくは存在しないことになっている」とか、「舞台上にいる1組の男女がいて、女は男の真似をし続ける」などの、現実世界にはありえない縛りが前提となって、その中で架空のカップルや親子が会話をします。

 シーンでの約束ごとをしっかりと観客に見せておいて、それを守ること、破ること等から笑いやおかしみが生まれます。普通の会話の中からではなく、あくまでも設定・制約に対して起こす行動や言動から感情が生み出されるので、ちょっと頭の体操をしている気分です。観客はずっと架空の、あきらかに嘘の世界のコミュニケーションを味わっていきます。これはバーズの個性だと思います。

 「コーヒー飲む?」「いや、飲まない」、「名前を忘れたの?」「いや、名前を忘れたわけではない」など、相手の言う言葉をことごとく否定していくという設定の短編は少し長かったかな。他にもくどいと感じたシーンはありましたが、最後にすべてが先に述べた意味(取り残される自己、かすかに愛を求める声、それに答える無言の抱擁)に集約されていくので、最後の最後には満足ができました。

 役者さんは皆さん達者ですが、特に美しかったのは大内真智さん。iMacから線がつながったヘッドフォンを耳に当てて、音楽にノリまくって踊る姿にみとれました。櫻井智也さん(MCR) と2人で立っているシーンは素晴らしかったですね。
 小手伸也さん(innerchild)の生々しい演技がコミカルなシーンにとてもフィットしていました。アドリブ(ですよね?)がすごく面白かったです。

 ※今回発行したメルマガに、バーズの過去の公演のレビューをまとめて掲載しています。

構成・演出:内藤達也
杉浦理史 小野ゆたか 大内真智 日栄洋祐 松下好 山中郁 近藤美月 後藤飛鳥 小手伸也(innerchild) 櫻井智也(MCR) 森下亮(クロムモリブデン)
[舞台美術] 秋山光洋 [音楽] 岡谷心平 [照明] 榊美香(l's) [音響] ヨシモトシンヤ SoundCube) 角張正雄(SoundCube) [振付] ピエール [舞台監督] 藤林美樹 [コスチューム] 伊藤摩美 [写真] 引地信彦 [宣伝美術] 石曽根有也 [演出助手] 明石修平 [プロデューサー] 赤沼かかみ [制作] 山崎華奈子 保田佳緒
前売 3,000円 当日 3,200円(全席自由席)
劇団:http://www.b-ev.net
劇場内:http://www.letre.co.jp/agora/line_up/2005_5/birds-eye_view.htm

Posted by shinobu at 13:21 | TrackBack